風評被害の被害

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こんなニュースがありました。

「いわき市、風評被害で進まぬ復旧」

(時事通信) 2011年03月19日 15時03分

 「大地震に大津波、原発事故に風評被害。こんな場所は世界中でいわきだけだ」―。東日本大震災に伴う福島第1原発事故は、周辺自治体の生活にも深刻な影響を与えている。約34万人と県内最大の人口を抱え、市内の一部が屋内退避対象地域に指定された福島県いわき市の渡辺敬夫市長が電話取材に応じた。

 いわき市の放射線量は健康に影響がないレベルだが、対象地域と報じられて以来、物資が届かなくなった。水道はほとんど回復せず、食料やガス、医療資材などが不足する厳しい状況だ。「運転手が嫌がって日立や郡山で物資が止まってしまう。物流だけでなく行政機能もまひしてしまった。復旧にまったく手が出せない」

 国に訴えかけ、枝野幸男官房長官が会見で「いわき市は安全」と発言して以来、少しずつ物資は届くようになったものの、「運送会社に病院関係者、市の業務を請け負う企業まで怖がって出て行ってしまった。復興だけに全力を挙げたいのに」と嘆く。

 「何も説明はなかった。ある日いきなり地図上に線を引かれた」。市内の一部が屋内退避対象地域に指定された際の状況をこう話す。国や東京電力からの説明はなかったといい、「正確な情報を何一つ流してくれない」と憤りを隠さない。

 「いわき市は安全だと国や県に言ってほしい。そう言えないのなら、避難指示を出してくれ」と訴えた。
 
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これを読んだほとんどの人が「なんてことだ」と怒りを感じると思います。日本中の皆が頑張っている時にこの運転手は「腰抜けめ」「臆病ものめ」と。

本当にそうなのでしょうか。

いわき市の24日現在の放射線量を調べてみました。

測定地点         福島県いわき市合同庁舎駐車場(平字梅本)
測定月日        平成23年3月24日
測定時刻         21時00分
測定結果 1.33マイクロシーベルト/時間 ※胃のX線集団検診一回辺りの放射線量 0.6ミリシーベルト/回 →600マイクロシーベルト/回
人体への影響     健康被害が出る程度ではありません。

さて、この発表を見れば、驚くほどのことはないのではないかと「錯覚」します。

なぜ「錯覚」であるかというと、例えば病院のレントゲン室へ行きますとあの放射能マークが付いていて勝手に出入りするのは禁じられているのと同じ「放射線管理区域」を考えてみるとわかるかと思います。

「放射線管理区域」 3ヶ月で1.3ミリシーベルトを越える区域。いわき市は今日の時点で1.33マイクロシーベルト/時間。これに24をかけて日とし、30をかけて月とし、3をかけて3ヶ月の値を計算すると2872.8マイクロシーベルト=2.8728ミリシーベルト。つまり法律的には「放射線管理区域」と指定されるべきレベルを十分満たしているといえます。

そもそもこの「放射線管理区域」ってなんなんでしょうか。これは検索でもしてみればすぐにわかりますが、「安全確保」の為に順守しなければならない法律に基づいて設定される区域。では実際にそんなに神経質になる必要があるのか?という疑問が出てきます。どのくらいまでの被曝は安全で、どのレベル以上は危ないのか。これはタバコの危険性と同じで大丈夫な人は大丈夫だけれど駄目な人は駄目で確かな基準値があるのかと問われれば、誰でもそれが難しい問題であるのは簡単にわかります。ではケースバイケースで良いということはありえず、専門家が集まり論議が尽くされ、この基準値で行こうと決めたのが「1.3ミリシーベルト/3ヶ月」であり法律として定められている。

ではいわき市は?この状態が3ヶ月続けば1.3ミリを超えて2.87ミリであるのはもうわかっています。

ただここで疑問が出てきます。「1.3ミリシーベルト/3ヶ月」の3ヶ月という決まりとはなんぞや?これはつまり短期間に浴びる放射線量と長期間に浴びる放射線量では健康被害も違うということを表していると考えられます。またコンマ何秒のレントゲンも同じで、それぞれ別に考えるべき。また同じく白血病に関しては時間に関係なくトータルの被曝量が重視されるとも聞きました。

つまり、いわき市での被曝はまだ3ヶ月経っていないからこの法律の基準値が当てはまらないと考えることが出来るのかもしれません。だから県が発表する「健康被害が出る程度ではありません」というのは間違っていないのかもしれません。

悩ましいですねぇ。このまま近いうちに放射線レベルがどんどん下がれば、3ヶ月のトータルは1.3ミリシーベルトを超えないかもしれません。となれば「放射線管理区域」とはならないのでしょうか。でもこのまま3ヶ月経てば管理区域となるのは間違いがありません。それどころか今現在の数値から逆算していくと基準値の1.3ミリシーベルトに達するのは41日間ですからその時には3ヶ月を経なくても基準値をオーバーするのですからその時点で「放射線管理区域」と指定され、住民退去、出入りの制限、区域内の人の被曝量管理、健康管理が必要になるのではないでしょうか。

いわき市と似たような微妙な地域は他にもあり、それは南相馬、白川、北茨城、郡山、那須、日光も同様。

では、福島市、飯舘村はどうかというと、最初の7日間ですでに基準値の1.3ミリシーベルト/3ヶ月は超えていますので、すでに「放射線管理区域」に指定されても全くおかしくなく、労働基準法ではその管理区域内では18歳未満が作業に従事してはいけないという決まりになっており、かつて東芝の三次下請けがそれを犯したということでニュースになったこともあるくらい。またその区域内で作業に従事する者には「放射線管理手帳」を持たせきっちり安全を確保するような法律ができているとのこと。

大惨事の時には法律が無視され、あるいは超法規的措置なのかもしれませんが、安全目的で定められたはずの「放射線管理区域」と同じような区域で生活している人が未だに数十万人もおり、妊産婦はレントゲンさえも避けるようにと言われるのに、多くの妊産婦や乳幼児が放置されているのが気がかりです。

また、福島市へ行くトラックの運転手がそれを拒否したり、出張や業務拒否が起きたら世の中は「風評被害」「臆病者」だと騒ぐのでしょう。私はこれを「風評被害」の被害だといいたいです。悪者扱いされ、強要されたほうが被害者になるはずです。

いわき市の場合は、市長が言う「いわき市は安全だと国や県に言ってほしい。そう言えないのなら、避難指示を出してくれ」という言葉に答えがあると思っています。

放射線に色が付いていたら良いのにって思います。見えないものは本当に怖いし、広島長崎で救助に入った多くの方々、単に短期間調査に入った方々でさえも長い間原爆症に悩まされ、それが子々孫々引きずる大問題だということを忘れてはならないと思いました。と同時に、私は政府や東電、御用学者の「想定外だった」という言葉を将来絶対に許したくないと思います。

もう一つオマケ。

他にもこの手のニュースがあり、鳥越俊太郎氏がそれにコメントしていたのが印象的です。ニュースそのものは「風評被害いわき市『重機のオペレーターが放射能で来ない』」なのですが、彼のそれに対するコメントは、

「「想定外」がまた起きる恐れ

「これはどういうことか。みなさんの根本にあるのは放射能への恐れ、不安なんですね」とコメンテイターの鳥越俊太郎。政府が避難・退避エリア外などは安全だということをきちっと科学的に示すべきだと言う。

『科学的に安全示せ』

しかし、菅総理は最悪の場合、「東日本がつぶれる」事態を想定をしているというし、原発史上、前例のない事態で被害の度合は予想できないと言う専門家もいた。むろん、「日本の原発は安全、地震・津波が起きても大丈夫」と旗振り役をつとめた御用学者的専門家がなにを言おうと説得力はない。いまは、「想定外」がまた起きる恐れがあると不安がるほうに「根拠」があるのではないか。」

これの深読みが大事だと思いました。「科学的に安全示せ」「「想定外」がまた起きる恐れがあると不安がるほうに「根拠」があるのではないか。」

この言葉です。彼はきっと言いたいことが山ほどあると思いますが、この程度の言い方しか今は許されないのだろうと思います。「科学的に安全を示せ」ということは政府も東電も御用学者もいろいろ言っていますが、彼は安全を示していないと断言しているわけで、「想定外」はいつも使われる言い訳で、またこれが言われるであろう危険があるということだと思いました。

同じ状況下でも物には言い様があると思うのです。例えば

「なんだかよくわからないけど津波が来る。」
「今まで経験をしたことの無いような津波が来る。」

この二つは受け方はかなり違いますよね。不安を煽るべきではないのは当たり前ですが、そこに「事実を把握できなくなる恐れ」があるのを同時に考えたいと思います。

あ、そうそう、こんな情報もありました。マグニチュードという数値ですが、これにはいろいろ種類があり、日本においては

気象庁マグニチュードMj(2003年9月24日以前)

気象庁マグニチュードMj(2003年9月25日以降)

が採用されていたそうです。それぞれ計算が違うので数値が変わってくる。ところがですね。今回はそれも替えたらしいのですよ。

モーメント・マグニチュード Mw

を突然採用したと言う情報がありました。これだと数値が高くなるらしいです。まぁ、この方式の方が良いといわれだしているのは間違いが無い(今までの方式ではM8以上は正確ではない)様ですが

「今回の地震発生時の気象庁の速報値は7.9位でした。その後計算のやり直しでM8.4になりました。その後再計算で値は8.8になっています。気象庁のプレスリリースをみると少なくともこの時点(M8.8発表の時点)で既にモーメントマグニチュードに切り替えたようです。さらに、地震が複数の断層が連続して動いているということから直後の地震も一つの地震とみなして9.0(つまり倍の値)となっています。」

これが何を意味するかと言うと、表向きには「正確な数字を出す」ということですが、数値が大きくなって得をする人たちがいるということ。つまり「想定外」であった裏づけになる。これはメーカー、運用者である東電、そして保安院も含めた政府。全ての関わりのある人たちの「想定外」の論拠になってしまう。これはどうも損害賠償においても関係があるようで、どこにどの程度の責任があるのか?がこの数値で変わるとの事。

責任逃れだ!と断定はしたくないですが、こういう数値をいち早く変えるのだけは早いってのが不思議ですね。

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