ひさしぶりに「いとしん」に行ってきた

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ゴールドコーストには和食のお店、あるいは日本人がやっているお店って数だけはかなりの数あります。でも20数年間の変化って半端じゃなくて、昔と今とは随分違う。昔は日本とほぼ同じものが食べられるような街だったのに、今では見る影もない。なーんちゃって和食ならいくらでもありますが。でも私が思う数店舗はしっかり足元を固めて頑張っている店で、日本と同じものを・・というわけにはいきませんが、「こうあるべき」というオーナーの心意気が伝わってくる店は存在しています。

その中でも異色なのが「いとしん」という店。

ここは和食といえば和食ですが、ちょっと変わっているんですね。でもエスニックっていうわけでもないし、最近世界中で流行っている和食という名の「創作料理」でもない。この店が不思議なのは、昔から客層が広いってこと。バリバリ和食の店って、客の殆どが日本人のケースが多いわけですが、この「いとしん」は昔からオージーが多い店。ではオーストラリア風に、ある意味適当な和食を出しているのかというとそうじゃなくて、和食とはなんぞやというのがわからない外国人も、こだわりがある日本人も満足させる不思議な魅力を持っています。20数年間、それで通しているし、繁盛している。

この「繁盛している」ってのがこの店の不思議な所。

やっぱりどこに焦点を当てるかってのを徹底的に考えているんだろうと思います。それはメニューであり、量であり、料金。

これほど繁盛している店って珍しいと思うのだけれど、オーナーの伊藤さんは商売バリバリって感じじゃなくて、ゴルフに命をかけているような人(笑)。今では息子さん達に店を任せていて、自分は一番ぺっぺーのお運びをしている。ここがまた私にしてみると伊藤さんの凄いところで、普通なら、これはああしろこうしろと日本で修行をしたことがあるわけでもない息子たちに厳しく教えると思うんですよ。ところが客から見ていると、息子たちに好きなようにさせているようにしか見えないのね。

正直な所、伊藤さんがオーナーヘッドシェフでやっていた時代と、息子がやるようになってから、メニューは変わっていないものの内容、味付けが変わったと思うことは結構ありました。客としたら「文句をいう」ってほどじゃないにしても、「お父さんの頃はああだった、こうだった」と言いたい部分もなくはないんですね。でもオーナーの伊藤さんは、全く知らん顔しているようにさえ見える。

「譲る」ってこういうことなんだろうと思いましたっけ。任せるからこそ息子たちも馬鹿なことは出来ずに真剣になるんでしょうし、店の名前もメニューも昔から基本的に変わっていないのに、中身は微妙に変わっていて新しい時代の店として客のニーズは掴んで成り立っている。凄いと思います。

この「いとしん」って店。週休2日なんですよ。昼間はやっていないし、夜も長時間開いているわけでもない。今日はたいして忙しくありませんでしたが、普通は予約を入れないと座るところもないような店。って、小さな店ってわけじゃないんです。結構大きな店なのに、オージーで一杯。そこにチラホラと日本人客がいるって感じでしょうか。

海外の和食店のあるべき姿ってこれだと、この店に行くといつも思います。和食はこうあるべきだとか、理想を全面に出して開店する店って定期的に出てくるのね。ゴールドコーストの現状を見て、これなら本当の和食店を開けば客が来るだろうと勘違いする人は定期的に出てくるってことなんですが、そういう店が長続きした試しがないんですね。中には「年間1千万程度の赤字」なら構わないから、本物を出せというオーナーがいた店もあるんですが、やっぱり長続きしない。

いかに日本人の客もつかみ、そして現地人の客をしっかり押さえて維持するかって本当に難しいと思います。でもこのいとしんという店は昔からそれが出来ている。本当に不思議な店。

店を維持するにはいかに地元民、つまりオージーなりアジア人の客を掴むかがポイントで、口うるさい日本人が喜ぶような店にしたら地元民は来ないんですね。食べたいものも出せる金額も違いますから。また和食がわかる地元民がたくさんいる大都市ならまだしも、ゴールドコーストみたいな田舎では難しいはず。

忘れられないのが、かなり昔ですが、このいとしんで食事をしていた時にとなりのテーブルに、いかにも和食は初めてというオージーの4人組がいました。彼らはスープを先に食べるものだと信じていますから、まず最初に味噌スープを頼んだのですね。大の大人がたったひとつの味噌スープを真ん中において、それを皆ですこしずつ味見をしていましたっけ。あの光景は本当に面白かった。

でもいとしんが凄いのは、客が頼んだからその通りにするんじゃないのね。そのたった一杯の味噌スープを試している4人組にあーでもないこーでもないと和食の説明をするわけです。これってただのウェイターウェイトレスに出来る仕事じゃなくて、それが出来る人材を揃えていたのもこの店の凄さだと思うのけれど、そういう和食とは何なのか知らない客を時間を掛けて育てていったんですね。本当に大したもんです。

ところで今日ですが、息子さんの代になってからお父さん以上に刺し身には凝るようになっていて、あれもこれも日本で食べるほどの種類はないにしてもポイントは抑えています。びっくりしたのが、「本日の刺身」が書いてある黒板を見たら、Bluefin tunaが二種類書いてあるんですよ。ブルーフィンツナって簡単に言えば本マグロです。一つはSAで、もうひとつはNSWと書いてある。これってSouth Australiaから来たのか、ニューサウスウェールズから来たのかってことですが、SAは要は「蓄養マグロ」なんですね。鰻と同じで幼魚を捕まえてそれを大きくなるまで育てる養殖みたいなもの。これは大量に日本に入っていますから、日本人も一度は食べたことがあるマグロ(ミナミマグロ)です。ではNSWから来たものはといえば、海で捕った天然物しか無いわけです。

そういう二種類の本マグロを置いている店なんてゴールドコーストはもちろん、日本でも私は経験がありません。

聞いてみれば、NSWから来た天然の本マグロは非常に珍しいということで、それを注文しようと思いました。

ところがですね。「今日の刺し身」が羅列してある黒板に価格が書いてないんですよ。おかしいでしょ?普通ならSAの養殖物は25ドルだとか、天然物は35ドルだとか書いてあるのが普通。でも書いていない。

こういうのって我々日本人は「時価」の怖さを知っていますから、「いくらですか?」と聞くわけです。そこで言われたことは、普通のメニューを指さされ、小は25ドル、大は40ドルですという答え。

え?と思いません?普通のメニューの刺し身の料金を言われたわけですから。

で、私は大を選びました。出てきたのがこれ。NSWから来た天然物の本マグロだけじゃなくて、タコ、ホタテが入っていましたが、マグロは赤味、中トロ、大トロが入っていた。

これです。タコとホタテには手を付けた後の写真ですが。

天然物の本マグロも、養殖ものの本マグロも、あるいは何も指定しないとしても、とにかく「刺し身」の小は25ドル。大は40ドルなんですよ。皆同じ値段。

面白いのが今日はいつもの仲良し夫婦と4人で行ったのですが、その奥さんは刺し身が大好きで、メニューから「刺し身の小」を注文しました。盛り合わせですから内容はおまかせですが、当然その中には「天然物の本マグロ」は入っていないわけです。でも「本マグロ」は入っていた。つまりSAの養殖物は入っていた。

こういうさじ加減は店が決めるんですね。これには賛否両論あるかもしれないけれど、私は賛成で、「誰しもが納得する刺し身」を出すのには、客に細かいことを決めさせないという方法が一番だと思うんです。マグロと一口で言っても、オーストラリアでもいろいろあるわけです。キハダマグロもあればビッグアイと言われるメバチもあれば、本マグロと言われるミナミマグロもある。それぞれ全く違うわけですが、私みたいにメバチは大好きだけれどキハダなら食べたくないような客もいれば、マグロならなんでも良い、あるいは刺し身ならなんでもOKという人もいる。趣向は様々、その時その時、食べたいものも変わる。じゃぁ、何を出すかは店が決める。だからどれかが飛び抜けて売れてなくなることもなければ、余って売れ残ることもなく、皆がハッピーになれるんだと思います。

普通の寿司屋でもそれは同じだと思っていて、例えば「真鯛の刺し身」にしてもお腹もあれば背中も尻尾もあるわけで、じゃぁ、どういう客にどれを出して、どう値段を変えるかって簡単じゃないんですね。でも常連の客ならどうするべきかは店はわかるわけで、客によって変える。だからすべての客が満足するということになるんでしょう。

これは上客には良い物を出すとか、一見さんには尻尾を出すとかそういうことじゃなくて、種類の組み合わせ、量でちゃんと調節するんですね。だから不公平さがあるわけじゃない。

そこそこ大きな店なのに、それぞれの客を見ながらこういう細かいところにも気を使っている店だということだと私は想像しています。たとえば、このいとしんには「いとしん鍋」という面白い鍋料理があるのですが、これって要は寄せ鍋なわけですが、私みたいに牛肉はいらないから豚肉を増やして欲しいとか、そういうワガママな客もいるわけですよ。でもこのいとしんは、そういう要望に「普通に」応えてくれるのね。大した店です。

また働いているスタッフも20数年前から知っている子がいたり。かつては小学生だったのに、今では7才の子供がいる立派なオヤジになっていたり。そんな古くからの知り合いがいるのも私には嬉しい。また20数年来の知人に店で会ったり。こういうところも他の店には無い面白さ、楽しさで、「店の歴史」と同様に「客の歴史」も感じることが出来て、かけがえのない店になっています。

そんな店に、これまた20数年来の友人と行くわけですから、話題に事欠かないと言いましょうか、お互いに気兼ねすることなく、顔色を見ながら言葉を選ぶこともなく、言いたいことを言い、馬鹿なことを言って大笑いし、ほんとうに楽しいひとときを過ごすことが出来ました。

で、必ず出る話題ですが、

「いつマレーシアに行くの?」

「本当に行っちゃうの?」

です。さすがに最近は「マレーシアに行くのは止めなよ~~」ってのはなくなった。 (笑)

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