租税条約の誤解を解く【備忘録】

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国同士で租税条約を結ぶことが多いですが、これに関して誤解が非常に多いので書いておこうと思います。

ただ私は会計士でもなんでもなく税務アドバイスは出来ませんししてはいけないのですが、納税者として「何も知らない」わけにはいきませんし、誤解があると「知らず知らずのうちに脱税をしてしまう」ことがあるので、納税者として持っていなくれはならない基礎知識としてそれを共有したいと思います。

巷でよくいわれている「大きな誤解」ですが、

租税条約を結んでいる国同士では「どちらかで納税すれば、他方では納税する必要が無い」と信じている人が多い。

これはとんでもない誤解なわけですが、租税条約は「二重課税防止条約」とも呼ばれるわけで、「二重課税されない」ということは「一方で払えばそれでよし」と考えてしまうんじゃないでしょうか。

さて、二重課税ってなんなんですかね。ここの考え方が重要だと思うんです。

A国で収入が発生したとします。それは給与でもキャピタルゲインでも不動産所得でも良いですが、当然、その国で税金を払いますよね。ところが本人はA国ではなくてB国の居住者で、B国に納税義務があるとします。ここで「A国で納税したのだからB国では納税の必要がない」と考えてはならないんですね。これは世界の常識ですが、なぜかマレーシア在住の日本人はここを誤解する人が多い。その理由はあとで明らかになりますが。

A国で税金を払ったとしても、B国でも納税義務者として納税しなければならない。これが世界では一般的。

でもA国で20%の税率で納税したとして、B国では30%だとしましょう。これを両方払ったらトータルで50%になっちゃいます。とんでもないですよね。これを「二重課税」と呼ぶわけです。

ここでいくつかの解決案が出てきます。

① 居住国で納税すれば良いことにしよう。
② 非居住者には課税しないことにしよう、あるいは非居住者には低率の源泉課税にしよう。
③ 差額を納税すれば良しとしよう。

所得が生じた国にしてみれば、非居住者だからといって免税にするなんてとんでもないですよね。国の富も金持ちもどんどん外に出てしまうのですから。でも居住国の方では「世界所得に課税する」のが基本ですから、海外での所得には課税しないとなれば、国から金がどんどん出て行って外国に投資するようになってしまう。そこで折衷案が出てくるわけで、それが「租税条約」だと考えれば良いのじゃないでしょうか。これは国対国の条約であって「多国間条約」ではないのでそれぞれ内容が違う。それぞれの国にはその国の事情があるわけですから。

ですから、上の3つの考え方が入り乱れているのが現実じゃないでしょうか。

例えば日本の年金ですが、租税条約を結んでいる他国に居住する場合は非課税とするという決まりがある。だから居住国で納税することになる。これは例えば預金金利もそうで「非居住者には課税しない」国々は結構多い。中にはその考え方を広げて「金融関連の投資から生じる所得には課税しない」国も多い。これで海外からの投資を呼びこむわけですが、もちろん居住国では納税しなければならない。

ところが「それはちょっと・・・」と考える国もあるわけで、日本の場合は「【預金金利】は非居住者でも課税する」するようになっていますよね。居住者は20%の源泉分離課税ですが、15%が所得税、5%が住民税で、非居住者の場合は5%の住民税は納税義務はないけれど15%は納税しなくてはならない。オーストラリアもそうで「租税条約を結んでいる国の居住者(オーストラリアの非居住者)の金利に対しては【10%の源泉徴収をする】」ことになっている。

だから租税条約を結んでいるからといって「税金が掛からないとか、掛かるとかは一言で言うのは不可能」なんですね。

このように所得の源泉がある国において、非居住者が免税になるのか減税になるのかはそれぞれの国、所得の種類によって違うということ。日本がまさにそれで非居住者の年金は非課税になっても預金金利には課税するわけですし。

そして世界の国の多くは「世界所得に課税する」のが普通ですから、居住国では居住国の決まりに従って納税しなくてはならない。

でもここで上に書いたようにA国で20%支払ったのに、居住国のB国で30%払うなんておかしいじゃないかとなるので、「外国税額控除」というのをやるわけです。つまりB国で納税するときに、A国で納税した税額は控除される。これはまた国によってややこしい計算方法があったり控除額の限度があったりいろいろですが、基本的には「差額を納税する」と考えれば良いんじゃないでしょうか。たとえば、オーストラリアの居住者(納税義務者)が日本に預金を持ち、金利に15%の所得税が課されているのに、オーストラリアでは海外での所得として申告して納税しなければならない。日本=オーストラリア間に租税条約がありますが、だからといって「どちらかで納税すれば終わり」にはならない。これが普通。

これを「二重課税防止」と呼ぶのであって、「どちらかで払えばそれで終わり」ってことは非常にレアなケースで、一般的にはあり得ないんですね。

ところが国によっては「海外での所得には課税しない」という太っ腹な国が存在する。こういう国々は世界から金持ちを呼び込みたい国がほとんどで、「お金持ちさん、いらっしゃ~~い」という優遇税制を取る。マレーシアがまさにこれで、上の例でいえば、A国で課税されようがされまいが全く関係なく、マレーシアでは課税されない。これは非常に珍しいケースだと思います。先進国にはこういう優遇税制はないのが普通。でも香港やシンガポールはマレーシアと同じなはず。

こういうマレーシアには特例があるから「他国で税金を払えば居住国では納税義務はない」と考えてしまう人が多いのだろうと思います。でもマレーシアで納税しないで良いのは「そういうマレーシアの優遇税制」があるからであって「租税条約」があるからではないわけです。ここに勘違いの大元があるんじゃないでしょうか。

この辺をちゃんと理解しておかないと、マレーシアの税制が変わって海外所得にも課税される日が来た時に「日本で納税しているんだから関係ないよね?」なんて思ってしまったらうまくない。あるいはマレーシアから他の国に移動したとして、「この国も租税条約があるから納税しなくて良いんだよね?」と考えてはならない。

そして、もしマレーシアで納税義務がある収入を得て(例えば不動産所得)納税している人が、日本へ帰ったとします。ここで「マレーシアに納税しているんだから日本では納税しなくて良いんだよね?」と考えてはならないってこと。

これって海外に出ている人たちの常識なんですが、なぜかマレーシア在住の人たちは勘違いしているケースが非常に多い。これはたまたまマレーシアが「海外所得に課税しない」という優遇税制があるからでしょうし、また基本的に「二重課税防止」の考え方を理解していないからだと思います。そして「租税条約」そのものを誤解する。

私はここで税務アドバイスをするなんて事は考えてもいませんし、それが出来る知識も権利も許可も持っていません。でも納税義務者として、そして海外に住む者として「知っていなければならない常識」があるわけで、それを共有するのは大切だと思いますのでこれを書きました。

免税であることは素晴らしいことですが、なぜ免税になるのか、課税されるとしたらどういう所得なのか、その辺を理解するのは我々の「義務」だと思っています。でも我々の知識や理解も完璧なんてことはなくて勘違いしているところは多々あるはず。だからやっぱり詳しいことはプロに聞くしかないんですね。

 

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