熟成高級肉でローストビーフを作ってみた

古いエントリーが表示されているかもしれないので、是非、「投稿日」を確認してください

熟成高級肉っていうのは嘘です。すいません。でもそれを目指してみました。

そもそもそんな肉を売っていても私は買わない。いや買えません。

ではどんな肉を使ったのか?それはローストビーフをする時にいつもスーパーで買ってくる安いローストビーフ用の肉。すでにガーリックとオニオンでマリネしてある状態で売っています。

これ。一キロ13.99ドル。いわゆるグラム130円ぐらいの安い肉です。これで990グラム。3人には丁度良いかんじ。

いつもはこれを低温調理にするのですが、前に日記に書いたように、プロが肉を熟成させる方法を知ってそれをやってみました。

前に書いた日記はこれ 「低温調理の疑問」   ← クリック

どういうことかというと、ローストビーフを55度の温度を維持(ホールディングという)しておくと、一時間が二日間熟成させたのと同じ効果があるらしい。

熟成に関しては、特に牛に関しては「新鮮なものが良い」ということは無いのが常識。肉屋で売っている肉はすでに1-2週間は熟成されているものが売っているわけで、鶏のように「朝締め」の様な新鮮さはない。オーストラリアやアメリカから渡ってくる肉も同じで、船で日本に運ばれる数週間の内にうまい具合に熟成するように考えられているとのこと。

でも美味しいステーキ屋ではそういう肉をもっと熟成させる。昔から「腐る一歩手前」が美味しいと言われるけれど、わざわざ時間を掛けて熟成させる。方法には二種類あって、「ドライエージング」と「ウェットエージング」がある。ドライエージングは枝肉を吊るした状態で乾燥している肉をたまに見ることがあるけれど、あれがそう。ウェットエージングはレストランで布に肉の塊を巻いて冷蔵庫にしまってある、あの状態をいう。

マレーシアでもそれを見たっけ。あれは豚肉だったけれど、ワンウタマの伊勢丹の上にある「まめとん」というトンカツ屋さん。レジの横の冷蔵庫に肉の塊が寝かせてあって、確か「熟成中」なんて書いてあった覚えがあるのだけれど、豚肉も牛肉ほどではないけれど短い期間寝かした方が美味しくなるという。

で、低温調理で55度(芯温度)でホールディングすると熟成と同じ効果があるとのこと。この記述を見つけたのは「食業界のプロ」のブログを読んだから。このプロは調理のプロではなく、また飲食業の経営のプロでもなく、食肉加工工場とかのコンサルタント。

その記述があるページ   ← クリック

該当部分だけ抜粋させてもらう。

熟成

特に牛肉の場合は、これがもっともナチュラルな方法である。牛肉は、屠殺した後は「死後硬直」といって、筋肉が堅く引っ張り合っている状態で、ちょうど鎖がしっかりとつながっている状態である。これが、時間がたつと、鎖状にしっかりとつながっていたものが、肉自体が持っている酵素によって、鎖が次第に切れてきて、肉が柔らかくなっていく。同時に、肉の風味が出てきて、おいしくもなるのである。

どの程度の時間で柔らかくなるのかというと、0〜1℃程度の冷蔵庫に、枝肉、あるいはブロックで、脂肪などを外さない状態で、屠殺後約1週間位で熟成効果が出て来る。2週間で、大体柔らかくなり、これを過ぎると肉の色が次第に黒くなっていく。小売店で肉の色を見せながら販売する場合は、これ以上置くと見た目が悪くなって具合が悪い。しかし、熟成の方は、この後がもっともいい状態に出来ていく。3週間位が食べごろになる。米国の高級レストランなどでは4週間の熟成をするところもある。

熟成というのは、肉を長く置くわけであるから、バクテリアが多いと、熟成するどころか、腐敗に向かってしまう。また、外食レストランで長い間熟成させるためには、それだけの大きさの冷蔵庫が必要になる。3週間の熟成をするのならば、3週間分のストックをしなければならないのである。これはかなりのコストになる。そのために、米国などではこの熟成を専門に請け負う業者がいる。「ポーションカットセンター」と呼ばれているもので、大手のパッカーからサーロインなどの部位別の肉を仕入れ、これをレストラン側のニーズによって熟成してくれるのである。さらに希望すれば、決まった大きさ、重量にカットをして、店に納入してくれる。ポーションカットセンターは、この手間賃を稼ぐわけである。レストラン側では、面倒な熟成やカットをやってくれるのであるから、コストさえ合えば利用が可能だ。実際米国ではこのシステムが完全に定着している。日本においてはまだ一部の業者がまだ模索状態で初めているぐらいだが、これから牛肉の扱い方がわかってくるに従って、普及していくだろう。

低温調理

ローストで行なわれる。普通のコンベクションオーブンでローストビーフを調理する場合、180℃で調理される。しかし、低温調理では120℃で調理され、肉中温度が上がってきてから、55℃程度で数時間保温をする。この保温のことを「ホールディング」と言っているが、この温度と時間が肉を熟成させて柔らかくする。具体的な調理手順は、コンベクションオーブンでは、肉の大きさによって1〜3時間程度で調理を終了する。しかし、低温調理では、例えば夜9時に調理を初め、最初に120℃で1〜3時間調理し、肉中温度が40〜45℃になった後、55℃にオーブンの温度を落とし、そのまま翌朝までホールディングをしておく。12時から翌朝9時までだと9時間のホールディングになるが、この1時間が冷蔵庫の自然熟成の2日間に相当することになるのである。9時間のホールディングならば、9X2で、18日間の自然熟成の効果になるのである。調理時間はかかるのだが、深夜に無人で調理できるので、コストはかからない。さらに、歩留りもいい。低温調理の代表的なオーブンには「ハローヒートオーブン」がある。

コンベクションオーブンだと、2割位は調理ロスで無くなってしまうが、低温調理だと1割程度で済む。ここ数年の間にコンベクションとスチーマーが一緒になった「コンベクションスチーマー」が急速に普及しているが、これだとスチーム(蒸気)を使いながら調理できるので、しっとりと、ジューシーに出来る。

ほんとですかね?なんて思うわけですが、低温調理オタクの私としてはこんな良いことを聞いたら試すしかないじゃないですか。

ここには9時間と書いてありましたが、今回はお腹の都合で(笑)、5時間だけホールディングしてみました。いつもの低温調理器具を大きな鍋にセットし、その中にお湯を張り、真空パック状態の肉を投入し、放置するだけです。

使った低温調理器具はこれ。199ドル。Anova Precision Cooker ← クリック

5時間後取り出した時はこんな感じ。ドリップはほとんど出ていません。ジューシーさは想像できると思います。

鍋から取り出して、熱々のフライパンで表面を焼きます。これは表面は多少の焦げが無いと美味しくないから(メイラード反応)。この時の注意点ですが、結構時間を掛けてしっかり焼くのがポイントだと思います。そうじゃないと周りの表皮だけ焦げているという非常に不自然な肉に仕上がってしまう。

それはそれで良いのかもしれませんが、私としてはやっぱり本来はオーブンで「ロースト」するものだと思っているし、仕上がりもそれに近いほうが良いと思うから。つまり、周りは焼けていて焦げて、周辺部は火が通っていて、内部に行くに従って火の通りが弱く、真ん中はロゼ状態が良いと思います。その方がロゼからウェルダンまで味が楽しめるし。

でも火を入れ過ぎたら低温調理の意味が全くなくなるので、その辺は適当。

薄切りにしてお皿に盛った状態。能書きとは違って、火が良く通っているのは周辺のみ(つまり焼きが足りない)。(笑)

毎回必ず何か失敗があるのですが、今回はちょっと真剣にグレービーを作ってみようと思っていました。そもそもこの肉自体が「美味しい~~~~」ってわけでもないし、グレービーによって出来上がりに大きな差が出るからです。

ところが~~~~

赤ワインを探してもどこにもない。(┰_┰)

犯人は我が家に長年巣食っている大酒飲みのせいですが、これだけは絶対に飲まないでくれと頼んでおいたのにこれですから、仏のダボと巷では言われている私も今日は切れてしまいました(笑)。だからグレービーは中止で、フレンチマスタードとアップルペースト(両方共市販のものをそのまま)を乗せただけ。

点数をつけるとしたら、やっぱり80点が限度でしょう。ただ肉はうまい具合に火が通っていたと思います。実は今まで低温調理でローストビーフを作るにしても55度という温度でやったことがありませんでした。もっと高い温度で短い時間で仕上げます。理由は簡単で、55度なんて低い温度では真っ赤かだろうと思ったことと、そうそう、その通り。雑菌の繁殖が怖いから。

でもステーキでいう芯温55度ってレアなんですね。ヨメサンが真っ赤っかは苦手なのと、長男もミディアムレアが好きとのことで、もう少し温度を上げたほうが良いと思っていました。でも長時間の低温調理でどうなるかわからなかったので、とりあえずプロが言うとおりにしてみたわけです。

それが正解。

火の通り方は完璧だと思います。でもオーストラリアでこれを出したらほぼ全員の客からブーイングが出るんでしょうね。私はいまだかつてロゼ色のローストビーフをオーストラリアで食べたことがありませんから。ウェルダンのパッサパサなら何度も食べました。これって本当に不思議で6ツ星ホテルと言われるベルサーチの中のレストランでもパッサパサのローストビーフを出します。

さて、気になる雑菌はどうなのか。55度って微妙なんですよね。50度以下なら雑菌が大喜びで大運動会をする温度。でも面白いもんで、この55度ってギリギリの雑菌をやっつける温度なのね。この辺のちゃんとしたガイドラインってのがあって、例えば学校の給食とかは何度で何分と決まっているんですね。で、あの辺りを参考にするとやっぱり80度という数字が出てくる。

でもそれが最低温度だとしたら調理の世界ってメチャクチャになっちゃうはず。でもそこはうまい具合にできていて、温度が低くても時間が長いとやっぱり雑菌は生きていられないのね。で、その限界がまさに55度みたいな感じだと思っています。ただし、55度という温度は「自己責任」の温度であって、ガイドラインではその温度での調理は認めていない。(つまり牛のタタキやステーキのレアは学校給食では絶対に出てこない)

また、雑菌というのは外側に付いていて、基本的には内部にはいない。だから生肉のユッケを提供するのなら、それ用に扱った肉を焼いて、真ん中だけ出すぶんにはOKなんですよね。でもそんな面倒なことをしたら採算が合わないのでやらないんでしょう。

ま、どちらにしても55度は境界線ギリギリの温度だと思います。ですから、ローストビーフに限らず、鶏の低温調理も同じですが、最初は沸騰したお湯に漬けるのが良いと思っています。数秒漬けるだけで雑菌は死滅するようで、その後、55度で長時間、あるいは鶏の胸肉なら60度で60分にしても安心なんじゃないでしょうか。ササミの刺し身は湯通しするのが普通ですが、考え方はあれと同じ。

大事な大事な熟成に関して書くのを忘れていました。(笑)

私はちゃんと熟成した美味しい肉で作ったローストビーフを食べたことがないので(ステーキはある)、比べようがないんです。ただこの肉を使って今まで何度もローストビーフは作っていますから、前との違いはわかる。

かなり柔らかいと思いました。でもそれだけ。(笑)

柔らかさですが、生肉の柔らかさではなくて、弾力のある柔らかさ。ゴムの柔らかさ、柔らかいハムのような食感でしょうか。そもそも肉そのものが柔らかくて美味しい肉じゃありませんが、良く噛まないと噛みきれないなんてことは皆無ですし(普通はそうなる)、薄切りにしていますから、ギャルが良く言う「柔らか~~~~~~い、うふっ♪」って状態だと思います。(笑)

つまり、そんな劇的に変わるわけじゃないけれど、やってみるだけの価値はあるし、ちょっと良い肉でやったらかなり美味しいローストビーフが出来るんじゃないでしょうか。最近見つけて凝っている「和牛のブレード(部位名)」でやってみようとおもいます。あの肉はブレードという安い部位ですから1キロ20ドル程度。グラム200円の和牛。これはステーキでも美味しいですから、ローストビーフにしたら面白いかも。本当はもっと高い和牛らしい肉(つまりキロ80-120ドル)で作ってみたいのですが、この数年、あの手の和牛はご無沙汰しています。ていうか、そういう和牛ならやっぱりシャブシャブですよねぇ。(笑)

グラム200円の和牛。結構良さそうでしょ?これで次回はやってみます。

ま、そんなこんなで、5時間という中途半端な「ホールディング」でしたが、今度は是非とも(安い)和牛で9-12時間のホールディング、熟成を試してみようと思っています。

その時には赤ワインを飲まれないように隠しておかなくちゃだわ。 (笑)

「にほんブログ村」のランキングに参加しております。是非、応援のクリックをお願いします。