低温調理でローストビーフを作る場合、いつ焼き目を付けるべきか【備忘録】

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前に書いた低温調理のまとめの日記にコメントが入りました。またそこで質問を受けたのは

「低温調理をする前に焼くのか、出してから焼くのか」

という内容。

これは非常に大事だと思う点で、私もかなり悩みました。で、試行錯誤をした中で得た結論は、前と後と二回焼くという結論。(笑)

めんどくせーなー、なんて思う方はそもそも低温調理をやろうなんてまず考えないはずで、どうせやるのならしっかりやった方が良いと思います。出来上がりはかなり変わりますから。

まず、最初に焼いただけですと、低温調理は「茹でる」のとほぼ同じですから、出来上がったときには周りはブヨブヨした茹で肉と同じ状態だと思って良いと思います。つまり、最初に焼いてもブヨブヨは変わらず、そのままですと非常におかしなローストビーフになります。

じゃぁ、事前には焼かずに最後に焼けばいいじゃん、となりますが、それでは焦げのフレーバーを利用できないことになるんですね。オーブンで長時間焼くのは、ある意味スモークにも似たところがあって、非常に大事な周りの焦げのフレーバーは全体にうっすら乗るはず。でも低温調理後に短時間焼いてもそれが起きません。

かといって、最初にしっかり焦げ目を付けてしまうと、茹でるのと同じでその強いフレーバーが全体に「回りすぎる」ことが起きる。苦みや焦げ臭さも回ってしまうと言うこと。

良く、「最初に焼くんです」、なんて言う人の中に「香りや肉汁を閉じ込めるため」と説明する人がいますが、私はそれは大嘘だと思っています。焼き固めた肉を短時間で煽って絡めるように他の物と炒めるのなら話はわかりますが、茹でる、煮る、あるいは長時間低温調理をする時に、香りや肉汁を閉じ込めるなんてことは絶対に出来ないんですね。これは科学の原理原則に反しています。長時間煮込めば味が出るのが当たり前で、もしそれを止めることができたらノーベル賞ものだし、もしそうであるなら焼いた肉(焼いた野菜も同じ)を煮込んだらスープとしては肉の出汁も出なくて意味がなくなるじゃないですか。

つまり煮込む場合にも最初に焼くのは、その焦げのフレーバーを使うってことなんですね。焦げというと真っ黒に焼けた物を連想する方もいらっしゃるかもしれませんが、焦げ、メイラード反応は料理の大事なフレーバーの要素で、それをいかに作り、コントロールするかが洋食のポイントだと私は考えています。

この件に関しては、前に紹介した料理人の集まりである「関西食文化研究会」でのイベントで詳しく説明、実験、討論されていますのでそれをご覧ください。

関西食文化研究会 「メイラード反応」  ← クリック

この中のディスカッションで大事なことが話されています。そこを引用します。

川崎 「低温調理の真空調理とメイラード反応の関係について」質問をいただきました。 真空にして、そのまま低温調理にかけるのもいいんですが、ぞれだと、表面にメイラード反応が起こっていませんから、後で起こしてもいい、ということだと思います。最初にメイラード反応で焼き色をつけておいて、真空パックに入れるのが普通だと思います。それでも、最後にまた焼きをつけるんですね。最初につけただけだと、メイラード反応の香り成分は水に溶けるんです。普通の香り成分は油に溶けます。メイラード反応は、つけて加熱するとドリップが出て香り成分が移ってしまうので、最後は表面を焼いた方がおいしいだろうなと思います。

山根 真空調理の場合、バキュームを分厚くする時に、肉の香りが入り込みやすいんです。吸い込んでしまう。通常につけた焼き色とかハーブの香りよりも、強く反応してしまうので、あまり強い焼き色をつけられないんです。メイラード反応のいい香りの範囲だったらいいんだけど、苦く感じたり、焦げ臭く感じたりするのが肉の内側に入ってしまうと、パックの中に閉じ込められているので逃げるところがないんですね。液体に溶け出て、そういう味につかっている状態になるので、一般には焼き色を最小限にし、真空調理してから最後に焼く方法をとるんですね。

木下 真空調理の場合は二つあると思いますが、一つは低温調理ということ、肉を焼くロゼの温度は58度ですね。もう一つは、バキュームをかける時に中のもの自体にも気圧がかかるのです。縮まる時に組織も縮まる。その時に外側の液体、香りが中の空いたところに入る。表面の焼き色や香りも、縮まる時に中にギュッと入り込んでしまうのです。そこのあたりを真空調理の場合は理解された方がいいと思います。

また低温調理では雑菌が繁殖する温度帯を使うケースも多いですし、雑菌は内部では無くて表面に付いているのが普通ですから、まず外側を焼いて若干の焼き目を作るというのは衛生上の観点からも大事だと思っています。我々はプロと違って素性のわかった素材を使うわけでも無いし、衛生管理に関しても我々は無知であるぐらいの前提で考えた方が安全だろうと思っています。

やっぱり面倒だから焼くのは最後にするわ、という考え方があっても良いと思います。最初に焼くだけより遙かにその方が良いはず。ただ、その場合、熱湯に数十秒浸けるなり、掛けるなりすることを心がけるのは良いと思っています。雑菌は100度の温度では数秒で死滅するとのことですから。これは鶏でも魚でも低温調理をする場合にはそうするように私は心がけています。

低温調理をする場合は必ず衛生面をしっかり考えるのが重要だと思っていますが、ただ熱湯を掛けると色が変わりますから、食材によってはそれをしたくないケースもありますよね。もし日本なら「食品用の消毒アルコール」を売っているはずですから、それを使うのも良いかも。私もそういうアルコールがオーストラリアで売っていれば間違いなく買っています。ところがねー、こっちは消毒用アルコールにはメチルが入っているんですよ(エタノールは入手不可能)。どうしてだかわかります?メチルを入れておかないと酒が高いオーストラリアではそれを飲む人が増えるから。 (笑)

 

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