えーと、あれはいつのことでしたっけね。OECD、G20で、各国の金融機関(銀行、証券会社等)にある口座の情報がその持ち主の居住国に知らせるシステム構築が合意されましたよね。
その時に書いた日記はこれ。2014年の8月。
大事なところを再度ここにも出します。
富裕層の税逃れを防ぐため、海外に住む個人の金融口座の情報を多国間で交換する経済協力開発機構(OECD)の新ルールの詳細が30日、明らかになった。各国の金融機関に海外居住者すべての口座情報を毎年1回、税務当局に報告させ交換するのが柱だ。2015~16年の導入を目指す。
主要20カ国・地域(G20)もOECDルールの活用で合意しており、9月にオーストラリアで開くG20財務相・中央銀行総裁会議でも詳細を確認する。
米国は海外の金融機関に米国人の口座情報の提供を義務づける法律を10年に成立させ、海外口座情報管理を強化。これを機に、多国間で情報を交換すべきだとの機運が国際的に高まった。
新ルールに参加する国の税務当局の間で、海外に住む人の情報を交換し、資産隠しや税逃れに歯止めをかけるのが狙い。
日本の国税当局が米国に送るのは、日本の金融機関に口座を持ち、米国に居住する日本人や米国人らの情報だ。逆に米国の当局は米国で口座を持ち、日本に居住する米国人や日本人らの情報を日本の当局に送る。
各国の金融機関に海外居住者が持つ預金口座や証券口座の情報を税務当局に毎年1回オンラインで提出することを義務付ける。海外居住者が持つすべての口座の名義人、住所、残高、利子や配当の受け取り記録などを報告の対象にする。
金融機関の事務負担を減らすため、残高100万ドル(約1億円)以下の口座はシステムでの検索など簡易な方法での確認を認める。一方、100万ドル超は営業担当者への聞き取りや保存する書類の確認など、より詳細な作業を求める。
口座情報の交換は当初15年末までに始めるとしていたが、準備が間に合わないため、16年末まで延期することも検討する。
各国はこれまでも税逃れを防ぐために、租税条約を結んで情報を交換してきた。ただ、不定期に情報が入ったCDなどを郵送でやりとりする程度だった。
新ルールでは年に1回オンラインでやりとりするため、情報の質や更新頻度が高まる。ただ、金融機関の手間やコストの増加につながる。日本の金融機関は口座を特定する作業が膨大になることを懸念し、一定額以上の残高がある口座に対象を限定するよう求めていた。新ルールにはOECDに加盟する34カ国などが参加する見通し。G20の枠組みで新興国にも広げ実効性を高める方向だ。
これの元はやっぱりアメリカで、アメリカの税制って「属人主義」じゃないですか。だから日本みたいな「属地主義」と違って、アメリカの場合はアメリカ人は「世界のどこにいてもアメリカへの納税義務がある」んですね。マレーシアに住んでいるからアメリカには納税しないでも良いということにはならない。これはフィリピンも同じ税制を持っていますが、これって世界にあるタックスヘイブンに住もうが、税率の安い国に住もうが全く意味を成さないかなり厳しい税制。
それでも海外に出たり、海外に口座を持ってそこで運用していれば「アメリカ本国ではわからないだろう」といろいろ考える人は歴史的に多くいた。それじゃアメリカとしてもその税制の意味がないわけで、各国の金融機関にかなり強い圧力を掛けていたんですね。私達が海外の銀行や証券会社に口座を開く時でも「アメリカ人ではない、アメリカの納税義務もない」というW-8BENという書類の提出をさせられることはかなり前からありました。これを出さないと口座が開けないのね。
アメリカはFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)という法律の下、動いていた。
またいつのころからか「マネーロンダリング」が問題になって、アメリカ人ではなくても海外に口座を開くのも難しくなってきた。そしてそれが強化され、世界的な合意として「脱税を許さない」方向へ進んできて、各国間でそのシステム構築が進んだ。
そして国によっては今年からそれが始まった。マレーシアは来年、2017年度からそれが始まるとのこと。オーストラリアも来年から。この件は前に何度か書いていますが、ある海外の銀行から「(私の)オーストラリアのタックスファイルナンバーを教えてくれ」と言ってきたので、それの準備が始まっているのは間違いがない。
このシステムはCRS(The Common reporting Standard)と呼ばれるもので、この言葉は覚えていたほうが良いし、頻繁に聞く言葉になるんじゃないでしょうか。
このシステムが半端じゃ無いのは、元々その国が「個人情報を出してはいけない」と法律で定めている国でも(たとえばケイマン諸島)「情報を出す」方向に動いたこと。つまり、かつては絶対に大丈夫だと言われたケイマン諸島やマン島もこれに参加しているということ。だから昔みたいにスイスならどうじゃ、タックスヘイブンならどうじゃってこともなくなってきた。
ま、当たり前といえば当たり前で、そう簡単に資産を隠すことができたら世界各国の税収はメチャクチャになりますもんね。
またどういう内容、情報が交換されるかというと、
◯ 口座の持ち主(法人含む)の名前、住所及びタックスID(日本居住者ならばマイナンバー)
◯ 口座番号(それに準じるものを含む)
◯ その口座がある金融機関名、ID
◯ 口座残高、支払われた利子
これがその口座の持ち主の「居住国」に知らされる。
え?居住国?と思いますよね。
日本人だとしたら日本の国税局ってことじゃないの?と思う。
アメリカ人の場合はどこに居住していようがアメリカの当局に知らせが行くわけですが、日本の場合は「属地主義」ですから、日本人であること=日本の納税義務者ではなく、また多くの国々がそういう税制を持っていますから、その人の「居住国(つまり納税義務がある国)」へ情報が送られるということ。これがCRSの仕組み。
たとえばマレーシアに住んでいる日本人が香港、シンガポール、あるいはアメリカやオーストラリアにある銀行口座、あるいはケイマン諸島やマン島、スイスやルクセンブルグのプライベートバンクに口座を持っている場合は、それらの情報が「マレーシア当局」に報告されるということ。
なーんだ、問題無いじゃんって思いますよね。マレーシアは海外でのその手の収入には課税されませんから海外でいくら儲けても関係ない。贈与・相続も関係ないから好きなようにいじれる。
でもマレーシアに居住しながら、日本に住民票も置いてある、納税義務はそのままの場合はどうなるんでしょうか。
当然、口座情報は日本にも伝わらないと意味が無いですよね?
でもどうやって?
金融機関はその口座の持ち主の「現住所」を見るんですね。そして非居住者だとすればどこの居住者だかわかるようになっている。でも現住所がマレーシアになっていれば、その人が日本にも住所があろうが納税義務があろうが、そこまではわからない。
ここにこのシステムの盲点があると思います。というかザル法だと言っても言っても良いくらいで、たとえば日本在住の日本人が「住所はマレーシアです」と銀行に登録してあったら、それは当然そのまま「マレーシアの居住者」として扱われるんじゃないですかね。でも銀行は「住所の確認書類を求める」のが普通だから適当な住所を言ってもダメ。
では、「かつてマレーシアに在住し住所もあってその住所で口座を開設」し、その後、「日本に帰って住所変更手続きを取らない」としたら?銀行の記録上はマレーシア在住のままですよね。
こういう手を使っている人って(歴史的にも)結構いるんでしょうね。でもこのブログではこういう手を使った「悪意の脱税」とか「裏ワザ」の情報交換はしない方針ですし、「気をつけましょう」なんてバカなことも書きません。この辺は誤解なきよう、よろしくお願いします。また前に書いたことがありますが、その手を使っていたかつてはペナン在住だった日本人が脱税で御用になった話もありました。こういうことがあると名前もマスコミに出ますし、また自分は何もやましいことがないにしても、日本の当局は違う目で見るのが普通ですから、バカなことは考えないほうが良いのは当たり前だと思います。そんなことをしなくても節税、あるいは一切税金を払わないで良い方法があるんですから。
また最近、ブログには書かなくなりましたが、「日本の居住者、非居住者」の認定も決して簡単に考えないほうが良いと思います。大事な点は「住民票は抜いてある」「社会保険庁に届け出を出してある」なんてのは「ただの自己申告」でしかなく、それで「非居住者の確定」にはならないということ。また多くの人が勘違いしていますが「日本には183日ルールは存在しない」ということ。意味がわかりますよね?183日(半年)以上海外に出ていれば非居住者になると、そんな簡単にはなっていません。また世界を何年も旅行して歩いていても駄目ですし、留学生が何年留学しようが、税法上は日本の居住者のままです。
これらは国税庁のホームページを見るとわかりますが「居所がどこにあるのか」というのを「客観的に判断する」ということになっていて、半年以上海外に出ているとか、そういうのは「参考」にしかならないのであって、それで決定にはならない。またこれは183日ルールがあるオーストラリアもそうですが、「183日以上滞在したら納税義務が生じる」という意味であって「183日以内の滞在だったら納税義務が生じない」という意味ではないんですね。
そしてこれが非常に重要ですが、マレーシアも183日ルールがあって、183日以上滞在すれば納税義務が生じます。ここで勘違いする人が多いのですが、「ある国の納税義務者になったら、他の国の納税義務はなくなる」という風にはなっていないということ。納税義務が二国にあるということは普通に起きます。この勘違いは「租税条約」を自分勝手に解釈する人に多く見られる現象です。二重課税や脱税を防止するための租税条約は「課税権がどの国にあるのか」というより「第一課税権はどの国にあるのか」という「順番を決める条約」だと考えたほうが良いと思っています。
この辺が気になる方は「武富士事件」を検索してみると良いと思います。武富士の息子さんは誰がどう見ても香港在住で日本の非居住者であるのに、日本の当局は「居住者(納税義務者)である」として裁判を起こしたんですね。一審では武富士の勝ち。二審は逆転判決。最高裁では武富士が勝ちましたが、我々は「当局は居住者だと判断した」ことと「少なくとも二審では武富士は負けた」ことを忘れてはならないと思います。
それとこれもたまに書いていますし、もう知らない方はすくないかもしれませんが、「相続・贈与に関する5年縛り」があります。海外に転出し、海外の居住者となり、日本の非居住者になっても相続・贈与に関しては5年間は「日本に納税義務がある」ということ。つまり、伴侶や子供の名義で定期を作ったり、不動産を買ったり、厳密に言えば共同名義も贈与とみなされることがあるんじゃないですかね。また海外滞在中に不幸があって相続が発生すれば、転出後5年以内なら日本で申告しなくてはならない。
これは「海外を利用した節税」を考える人が非常に多かったからこういうことになったんですね。逆を言えばこの法律が無い頃は、たった数年、家族とともに海外に居住すればどんな莫大な資産でも簡単に贈与が出来てしまったということ。でも今でも5年待てば日本は全く関係ありませんから、武富士のように2000億円贈与しても(笑)問題なし。
ただし、多くの人が考えるほど「非居住者の認定は甘くない」ということ。例えばですが、家族は日本にいる。日本に不動産(自宅)もある。収入の源泉は日本。海外には不動産(自宅)も持たず収入の源泉もないとしましょう。こういうMM2Hの方も少なく無いですが、こういう人を客観的に見て「日本の非居住者」だと思います?「貴方は長期旅行者(居住国は日本という意味)ですね?」と言われて反論できるんでしょうか。こういうケースは誰しも「日本の非居住者」だと信じているはずだし、今のところは非居住者として扱われていますが、もしそのとおりだとしたらそもそも武富士事件は起きなかったんですね。
ここで注意しないとならないのは「海外駐在経験がある人」はこれを簡単に考える傾向があるということ。海外赴任は「普通は」個人の意志ではなくて会社からの命令。収入も現地で得るのが普通で、そしてこれは数が半端じゃ無いですから「裏に何か計画があるかもしれない」という前提で当局は見ないんですね。ところが個人が海外へ出る場合は別。どんな資産を持ち、どんな収入があり、「どんな計画を持っているか」はわからないわけですから。我々のようなMM2Hも同じで、海外赴任者を見る目で当局は見ないということぐらいは想像するべきですね。海外ロングステイという流行りものを利用していろいろ考えている人がゴマンといるのは彼らもわかっているんですから。これは今更始まったことじゃなくて、もう何十年もいろいろあるわけですよ。だからこそ「5年縛り」も出来たし、以前から国家間同士で情報交換は活発。
前にも書きましたが、私のゴールドコーストの知人(行ったり来たりの日本の納税義務者)で、ハワイの別荘を売って利益が出たのに日本で申告をしなかったそうです。そうしたらある日ある時、日本の税務署から「お尋ね」が来たとのこと。私はそれを聞いた時に、「税務署もやるじゃん、頑張れ」って思ったくらい。(笑)
マレーシアのMM2Hってそういう意味でも「海外在住の日本人」から見るとちょっと変わっていて、例えばオーストラリアやアメリカに住む人達が考える常識とちょっと違うんですよ。私が住んでいるオーストラリアですが、私達の中でその話になりますと、「永住権を持ち」「現地で仕事もして」「家族も居て」「自宅も持ち」「現地で収入を得て」「日本には一切の資産も持たず収入もない」形にするのが当たり前だという考え方があります。そもそも「居住する」ってそういうことですよね?香港在住だった武富士の息子さんもそうなのに、日本の当局は「日本に納税義務がある」と裁判を起こしたんですから、簡単に考えないほうが良いと思います。私の場合はオーストラリアに納税義務があるなんて言われたくないですから、一切オーストラリアに資産も残しませんし、収入の源泉もオーストラリアには残しません。
マレーシアの日本人の中には日本に住民票を持ちながら非居住者として日本での収入に対しても税金を払わないという裏技を使い、それを「良い手だと薦める人」までマレーシアにいるのがいかに異常かおわかりになりますでしょうか。
ま、好きにやればいいだけのことですが・・・。
この各国間の包囲網は始まったばかりだと思っていますし、将来的に厳しくなることはあっても緩くなることはあり得ないと思います。日本の税制もそうで「海外での収入に関しては時効無し」なんてことになるかもしれませんし、アメリカのような地の果てまで追いかけてくる執拗さも出てくるかもしれません。アメリカの税務署って凄いんですよね。かつてあのアルカポネを捕まえたのは「脱税」であって、警察、FBIより強力。世界のグローバル化が進めば世界はその方向に動くだろうし、それを強化するのは国民にしてみれば「当たり前だろう、早くやれ」ってことになりますし、長期計画を持つ場合はそれなりの計画じゃないとダメだろうと思います。そもそも、隠そうとか脱税しようなんてのがおかしいことだというアタリマエのことに気がつくべきですね。
私自身はこういうCRSの様な動きを「嫌だなぁ」なんて全く思っていなくて、どんどんやるべきだと思っています。今まで野放しに近かった事自体が異常なのであって、脱税が出来ないシステムをしっかり構築するべきで「真面目な納税者はバカを見る世界」であってはならないはず。ですからこのCRSは私は「大歓迎」です。節税方法なんていくらでもあるんだから、汚いことを考えて金を残そうなんて思うほうがおかしい。こういう話をすると「困りましたねぇ」なんて言う人が多いですが、私は一切それには同調しませんし、そういう素振りを見せる人は「ああ、この人はそうやって金を作ってきた人なんだ」って思うくらい。そういう人がどれほど偉そうなことを言っても私には「嘘つき」に見えるんですよ。まともに付きあおうなんて思えるわけがない。
最後に書いておきますが、私がここに書いたことはアドバイスでもなんでもなく、納税義務者としての常識の確認でしかありません。税務アドバイスに関してはどの国でもその資格を持った人しかしてはならないんですね。つまり私のいうことを信用するべきではないし、誰それがああ言っていたとか、あの人の言うことは間違いがないはずだなんてのも全く意味を成さないわけです。これはMM2Hのエージェントもそう、銀行員に聞いてもダメなんですね。
気になる場合は、ちゃんとプロのアドバイスを受けるしかありません。