一つ前のエントリーで「投資信託に掛かる税金」の話を書きました。
そこから話が広がって、「非居住者がアメリカの投資信託に投資した場合」もAIに聞いた時、とんでもないことがわかりました。
アメリカの相続税って「控除額が大きい」ことで知られていて、【21億円までは相続税が掛からない】と聞いています。ところがそれは【アメリカ国民とアメリカの永住権保持者】の場合であって、「市民でもない、永住権もない場合は計算が違う」のだそう。【控除額は6万ドル、約900万】でしかなく、それ以上は相続税をアメリカに納税する必要がある。
このことは一つ前のエントリーでも書きましたが、非常に重要だと思うので、「その部分だけ」を新たなエントリーとしました。
ただし、これらはAI(Gemini 2.5pro)がそう答えただけで、正確かどうかはわかりませんし、裏とりはしていません。
この内容は今まで聞いたことも読んだこともなく、多くの人は知らないんじゃなかろうか。これは「不動産」も同じで、「アメリカに居住」していても【永住権がなければ駄目】なことを意味する。
当然、居住国でも「相続税は課税される」し、でも「アメリカで納税した分は税額控除」となる。でも「相続税がない国の居住者」でもアメリカへの納税はしないとならない。アメリカへの「不動産投資」も考えないとですね~~~。
【米国遺産税の罠】居住者と非居住者で天国と地獄ほど違う、驚愕の税制格差
「アメリカの相続税は21億円までかからない」という話を聞いたことがあるかもしれません。それは事実ですが、その恩恵を受けられるのは「米国市民」および「永住権保持者(グリーンカードホルダー)」などの米国居住者に限られます。
外国人である「非居住者」が米国資産(株式や不動産)を保有した場合に適用される遺産税は、全くの別物であり、知らずにいると資産の大部分を失いかねない「時限爆弾」となり得ます。
この2つの制度は、同じ「米国遺産税」という名前でありながら、その中身は天国と地獄ほどの格差があります。
【比較表】米国居住者 vs 非居住者 — 同じ「米国遺産税」の全く異なるルール
| 比較項目 | ① 米国居住者 (市民・永住権保持者など) |
② 米国の非居住者 |
|---|---|---|
| 課税対象となる資産 | 全世界の資産 | 米国内にある資産のみ |
| 遺産税の基礎控除額 | 巨大(約1,361万ドル) (約21億円 ※2024年) |
極小(わずか6万ドル) (約900万円) |
| 贈与税の生涯非課税枠 | 遺産税と同じ枠(約21億円)を利用可能 | なし |
| 夫婦間の贈与・相続 | 無制限で非課税 (相手が米国市民の場合) |
限定的 |
| 戦略的意味合い | 巨額の非課税枠により、ほとんどの市民・永住権保持者は遺産税を心配する必要がない。 | 米国に資産を持つ全ての外国人が、常に意識しなければならない「時限爆弾」。 |
この比較が示す、決定的なポイント
ポイント1:「基礎控除額」の圧倒的な格差
この制度が「地雷」と呼ばれる最大の理由が、基礎控除額の衝撃的な格差です。
- 米国居住者(市民・永住権保持者など):
2024年現在、1,361万ドル(約21億円)という、極めて大きな生涯非課税枠が与えられています。これにより、ほとんどの米国市民や永住権保持者は、遺産税とは無縁です。 - 非居住者:
与えられる基礎控除は、わずか6万ドル(約900万円)です。これは居住者の約226分の1という、信じがたいほどの格差です。10万ドル(約1500万円)の米国ETFを保有していただけでも、控除額を超える4万ドルに対して、最大40%の遺産税が課されることになります。
ポイント2:「課税対象」の範囲と、その背景にある思想
この圧倒的な格差には、米国の税制の明確な思想的背景があります。
- 米国居住者への思想:
「あなたは米国市民、あるいは永住権保持者として、米国の保護の下で富を築いたのだから、その全世界の資産に対して我々は課税する権利を持つ。ただし、ほとんどの人の負担にならないよう、非常に大きな非課税枠を与えよう」 - 非居住者への思想:
「あなたが米国の市場や不動産という『我々の庭』に資産を置くのであれば、その資産に対しては、我々のルールで厳しく課税させてもらう。その代わり、米国の銀行預金などは例外として保護してあげよう」
【回避策】この「時限爆弾」を解除する方法
では、非居住者は、この致命的な遺産税リスクをどうすれば回避できるのでしょうか。プロの国際投資家が実践している、主な戦略は以下の通りです。
方法1:米国籍以外の「器(ビークル)」を使う(最も実践的)
これは、「投資対象(中身)」と「器(ファンドの国籍)」を戦略的に分離する考え方です。
アイルランド籍のUCITS ETFを利用するのが、その代表例です。
- 仕組み:
投資する「中身」はS&P500などの米国株でも、それを保有する「器」がアイルランド籍のETFであれば、法的には「アイルランド法人の株式」を保有していることになります。これは米国の税務当局から見れば米国外の資産であり、米国の遺産税の課税対象外となります。 - トレードオフ:
この方法の唯一の不利な点は、配当への源泉徴収税です。米国籍ETFの場合は10%ですが、アイルランド籍ETFの場合は、ファンドの内部で15%の税金が引かれます。
しかし、このわずか5%の差を甘受することで、最大40%という致命的な遺産税リスクを完全にゼロにできるため、多くの非居住者投資家にとって、極めて合理的な選択となります。
方法2:法人や信託(トラスト)を通じて保有する(富裕層向け)
資産規模が非常に大きい場合、個人名義ではなく、オフショア法人(ラブアン、BVIなど)や国際的な信託(トラスト)を設立し、その法人・信託の名義で米国資産を保有する方法です。
これにより、個人の死亡が、直接の課税イベントではなくなります。ただし、設立・維持に専門的な知識とコストがかかるため、上級者向けの選択肢です。
方法3:そもそも遺産税の対象外である資産に投資する
- 米国の銀行預金: 法律によって、明確に遺産税の対象から除外されています。
- 米国債: 同じく、非居住者が保有する米国債も遺産税の対象外です。
これらの安全資産は遺産税のリスクはありませんが、株式のような高いリターンは期待できません。
【結論】
「米国市民や永住権保持者」に適用される遺産税と、「非居住者」に適用される遺産税は、全くの別次元の制度です。
非居住者の遺産税は、「米国内の資産のみ」を対象とする代わりに、「わずか6万ドル」という極小の非課税枠しか与えられていません。
この圧倒的な格差を理解し、アイルランド籍ETFのような適切な「器」を選ぶことこそが、非居住者が米国市場に安全に長期投資を行うための、最も重要なリスク管理の第一歩なのです。
税金、税率はどの程度か?
【米国遺産税】非居住者に適用される具体的な税率(速算表と計算例)
米国の非居住者に適用される遺産税は、単一の税率ではありません。課税対象となる遺産額に応じて税率が上がる累進課税であり、税率は18%から始まり、最大で40%に達します。
この税率表と、わずか6万ドルの基礎控除を組み合わせることで、この制度のインパクトが具体的に見えてきます。
米国遺産税 速算表(非居住者向け)
| 課税遺産額が次の額を 超える場合 (A) |
しかし次の額 以下の場合 (B) |
税額は次の額に、(A)からの 超過額に対する次の税率を加えたもの |
|---|---|---|
| $0 | $10,000 | 18% |
| $10,000 | $20,000 | $1,800 + 20% |
| $20,000 | $40,000 | $3,800 + 22% |
| $40,000 | $60,000 | $8,200 + 24% |
| $60,000 | $80,000 | $13,000 + 26% |
| $80,000 | $100,000 | $18,200 + 28% |
| $100,000 | $150,000 | $23,800 + 30% |
| $150,000 | $250,000 | $38,800 + 32% |
| $250,000 | $500,000 | $70,800 + 34% |
| $500,000 | $750,000 | $155,800 + 37% |
| $750,000 | $1,000,000 | $248,300 + 39% |
| $1,000,000 | — | $345,800 + 40% |
※注:IRSの計算実務上は、まず遺産総額で税額を計算し、そこから控除額に対応する税額クレジット($13,000)を差し引くという手順を取りますが、結果はほぼ同じです。ここでは分かりやすさを優先した計算例を示します。
【具体例】もし、非居住者が50万ドルの米国ETFを保有したまま死亡したら
この税率表が、現実にどれほどのインパクトを持つのか、具体的なシミュレーションで見てみましょう。
- 前提:
非居住者が、個人名義で50万ドル相当の米国籍ETFを保有していたとします。
ステップ1:課税遺産額の計算
まず、遺産の総額から、非居住者向けの基礎控除額を差し引きます。
- 遺産総額: $500,000
- 基礎控除額: -$60,000
- 課税遺産額: $440,000
ステップ2:速算表への適用
次に、この$440,000を速算表に当てはめます。これは、「$250,000を超え、$500,000以下」の区分に該当します。
- 計算式:
$70,800 +($250,000からの超過額 × 34%) - 超過額:
$440,000 - $250,000 = $190,000 - 超過額への税金:
$190,000 × 34% = $64,600 - 最終的な税額:
$70,800 + $64,600 = $135,400
【結論】
50万ドル(約7,500万円)の米国ETFを保有していただけで、その遺産から13万5,400ドル(約2,030万円)もの米国遺産税が課されることになります。実効税率は27%以上に達します。
戦略的意味合い
この計算が示す通り、非居住者にとっての米国遺産税は、以下の三重の脅威を持っています。
- 「利益」に対してではなく、資産の「元本全体」に対して課税される。
- 非課税枠が極めて小さいため、比較的少額の投資でも、容易に課税対象となる。
- 税率が最大40%と非常に高く、資産の大幅な目減りを招く。
これこそが、非居住者が個人名義で米国籍の資産を長期保有することの、最大のリスクなのです。
注目ポイント
日本なら配偶者には恩典があるし、相続人が多ければ控除額も大きくなるけれど、アメリカの非居住者の場合、それは関係ない。また日本の居住者なら日本での納税も必要だけれど、【アメリカでの納税額のほうが大きくなる可能性が大きい】ということなんでしょうね。日本で納税する場合、税額控除が受けられるにしても「払い過ぎで返してくれることはない」わけで、アメリカの遺産税は無視できない。
さてさて、投資をしたのが個人ではなくて【法人】だったらどうなるか。
【回避策】海外法人(オフショア法人)を利用して米国遺産税を合法的に回避する方法
非居住者にとって「時限爆弾」とも言える米国の遺産税。この致命的なリスクを、プロの国際投資家はどのように回避しているのでしょうか。
その最も標準的で強力な戦略が、「海外法人」という「器(ビークル)」を通じて米国資産に投資することです。この一枚の法的なヴェールの有無が、資産の運命を180度変えてしまいます。
なぜ、海外法人を使うと遺産税が回避できるのか? — 究極のロジック
この仕組みの鍵は、「法人は、死なない」という極めてシンプルな事実にあります。米国の遺産税は、あくまで「自然人」の死亡をトリガーとして発動する税金です。
この原理が、税務上どのように機能するのかを見ていきましょう。
【比較】所有形態による「相続対象」の根本的な違い
| 項目 | ① 個人名義での直接投資 | ② 海外法人を通じた投資 |
|---|---|---|
| 所有の構造 | あなた → 米国株 | あなた → オフショア法人の株式 → 米国株 |
| 法的に所有しているもの | 米国株そのもの(米国内資産) | オフショア法人の株式(米国外資産) |
| 死亡時の相続対象 | 米国株 | オフショア法人の株式 |
| 米国遺産税の判断 | 課税対象(地雷が爆発) | 課税対象外(地雷は不発) |
②のケースでは、あなたが亡くなった時、相続人が引き継ぐのは米国株そのものではなく、「海外法人の株式」です。
米国の税務当局(IRS)から見れば、米国外で設立された法人の株式は「米国外の資産」です。したがって、IRSはその資産に対して課税する権利を持たず、米国の遺産税は一切かかりません。
法人という「鎧(よろい)」を一枚まとうことで、米国遺産税という強力な武器による直接攻撃を、完全に防ぐことができるのです。
【最重要】の注意点:形式だけの「ペーパーカンパニー」は通用しない
この戦略が魔法のように聞こえるからこそ、税務当局は、その乱用を防ぐための厳しい監視の目を持っています。それが、国際税務の鉄則である「実質主義(Substance over Form)」です。
もし、設立した海外法人が、単なる資産保有のためだけの、実体のない「ペーパーカンパニー」であると判断された場合、税務当局はその法人の存在を否認し、個人が直接米国株を保有しているものと見なして、遺産税を課してくる可能性があります。
「法人としての最低限の品格(Corporate Formalities)」を維持し、「この法人は、単なる税金逃れのためだけの透明な箱ではない」と証明できることが、この戦略を成功させるための絶対条件です。
【結論】個人投資 vs 法人投資
| 比較項目 | ① 個人名義での直接投資 | ② 海外法人を通じた投資 |
|---|---|---|
| 米国遺産税 | 最大40%のリスク | 回避可能 (0%) |
| 設立・維持コスト | ほぼゼロ | 年間数十万円〜数百万円 (法人設立・維持、会計監査費用など) |
| 管理の手間 | 容易 | 煩雑(法的な手続きが多数) |
| プライバシー | 低い | 高い |
最終的な結論:
「海外法人を通じて投資することは、米国遺産税を回避するための、最も正攻法かつ効果的な戦略です。ただし、それは相応のコストと管理の手間をかけて、『実体のある法人』を適切に運営することを前提としています」
これこそが、世界の富裕層が、なぜラブアン、BVI、ケイマンといった国・地域に法人を設立し、そこを通じてグローバルな投資を行うのか、その理由の核心なのです。
アメリカ国民、あるいは永住権者の場合で違いがあるのはわかったけれど、それは被相続人(亡くなった人)なのか相続人(相続を受ける側)なのか。アメリカの場合は「被相続人が相続税を払う形だから、その資産の持ち主である亡くなった被相続人のステータスが問題で、受け取る側はアメリカ国民でも永住権保持者でもない外国人なら関係ないのではないか。
【米国遺産税】ルールを決めるのは誰か?鍵は「被相続人」のステータスにあり
米国の遺産税には、約21億円の巨大な非課税枠と、わずか6万ドルの極小の非課税枠という、天国と地獄ほどの格差が存在します。では、どちらのルールが適用されるかは、一体「誰」のステータスで決まるのでしょうか?財産を遺す「被相続人」か、それとも受け取る「相続人」か。
結論から言うと、鍵を握るのは亡くなった方、すなわち「被相続人」のステータスです。相続人が誰であるかは、原則として、この基礎控除額の決定には影響しません。
なぜ、「被相続人」のステータスが全てなのか?
米国の遺産税は、相続人が払うのではなく、「被相続人の遺産(The Estate)」そのものから支払われます。そのため、税務当局(IRS)がまず判断するのは、「この遺産全体に対して、どちらのルールブックを適用すべきか?」ということです。
その選択は、ただ一点、亡くなった被相続人が、死亡した時点で米国に「住所(Domicile)」を持っていたかどうか、で決まります。
- 被相続人が米国に「住所」を持っていた場合(米国市民、永住権保持者など):
IRSは「居住者用のルールブック」を取り出します。
ルール:「あなたの全世界の資産が課税対象です。その代わり、VIP待遇として約21億円の巨大な非課税枠を適用します」 - 被相続人が米国に「住所」を持っていなかった場合(非相続者):
IRSは「非居住者用のルールブック」を取り出します。
ルール:「あなたの米国内の資産のみが課税対象です。しかし、VIP待遇ではないので、非課税枠はわずか6万ドルです」
【具体例】相続人のステータスは無関係であることの証明
| シナリオA | シナリオB | |
|---|---|---|
| 被相続人(亡くなった人) | 米国永住権保持者 (米国居住者) |
マレーシア在住の日本人 (非居住者) |
| 相続人(受け取る人) | マレーシア在住の日本人 (非居住者) |
マレーシア在住の日本人 (非居住者) |
| 遺産の内容 | 500万ドルの米国株 | 500万ドルの米国株 |
| 適用される非課税枠 | 約1,361万ドル (約21億円) |
わずか6万ドル |
| 遺産税の納税額 | 0ドル | 約190万ドル (約2.8億円) |
ご覧の通り、相続人が全く同じステータスであっても、亡くなった被相続人のステータスが違うだけで、納税額はゼロか、数億円か、という劇的な違いが生まれるのです。
【唯一にして最大の例外】相続人が「配偶者」である場合
「相続人のステータスは関係ない」という原則には、一つだけ、極めて重要な例外があります。それは、相続人が「配偶者」である場合です。
ここで登場するのが、「夫婦間の無制限の税額控除(Unlimited Marital Deduction)」という強力なルールです。
- 原則:
被相続人(米国居住者)から、米国市民である配偶者へ資産が相続される場合、その金額がいくらであっても、全額非課税となります。 - 【最重要の罠】もし、配偶者が「米国市民」でなかったら?
もし、受け取る配偶者が永住権保持者や、その他のビザで滞在している外国人であった場合、この「無制限の税額控除」は、原則として適用されません。
この場合、通常の非課税枠を使うか、あるいは「適格国内信託(QDOT)」という非常に複雑な信託を設立する、特別な手続きが必要になります。
【結論】
- 遺産税の基礎控除額(約21億円か、6万ドルか)を決定するのは、100%、亡くなった「被相続人」のステータスです。相続人のステータスは、この点には影響しません。
- ただし、相続人が「配偶者」である場合に限り、その配偶者が「米国市民」であるかどうかが、「夫婦間の無制限の税額控除」を使えるかどうかを決定する、もう一つの重要な鍵となります。
亡くなったのが外国人で、受け取るのはアメリカ国民(OR永住権保持者)だった場合は?
【米国遺産税】夫婦共に非居住者の場合、相続人が米国市民の場合はどうなる?
米国の遺産税制度において、ルールブックを決めるのは「被相続人」のステータスである、と解説してきました。では、さらに複雑なケースではどうなるのでしょうか。相続人が配偶者であったり、米国市民であったりする場合、何か救済措置はあるのでしょうか。
この2つのシナリオを検証することで、この制度の揺るぎない原則がより明確になります。
シナリオ1:「夫婦が両方とも市民権も永住権もなかったら?」
このケースは、被相続人も、相続人である配偶者も、両方とも「非居住者」である場合です。
- 適用されるルールブックは?
亡くなった被相続人が非居住者であるため、「非居住者用のルールブック」が容赦なく適用されます。 - 結果はどうなるか?
- 非課税枠: わずか6万ドルです。
- 夫婦間の税額控除: 米国居住者が米国市民の配偶者に遺産を残す場合に適用される「夫婦間の無制限の税額控除」は、このケースでは一切適用されません。
- 結論: このシナリオは、税務上、最悪のケースの一つです。相続人が配偶者であっても特別な救済措置はなく、6万ドルを超える米国内の資産に対して、最大40%の遺産税が課されます。
シナリオ2:「被相続人は外国人で、相続人はアメリカ人だったら?」
このケースは、被相続人が「非居住者」で、財産を受け取る相続人が「米国市民」である場合です。
- 適用されるルールブックは?
ここでも、税金はあくまで「亡くなった被相続人の遺産」にかかるものです。したがって、被相続人が非居住者である以上、適用されるのは「非居住者用のルールブック」です。 - 相続人が米国市民であることは、何か助けになるのか?
いいえ、遺産税の計算においては、全く助けになりません。
相続人が誰であろうと、被相続人の遺産は、まず「非居住者用のルールブック」に従って裁かれ、6万ドルの非課税枠を適用された上で、遺産税が計算・徴収されます。 - では、何が違うのか?
違いは、税金が支払われた「後」に発生します。- まず、被相続人の遺産から、非居住者ルールに基づき、米国遺産税が支払われます。
- その税引き後の残りの資産を、相続人である米国市民が受け取ります。
- 【最重要】相続人の義務: 米国市民である相続人は、外国の遺産から一定額以上を受け取った場合、その事実をIRS(米国税務当局)に報告する義務があります(Form 3520の提出)。これは、納税のためではなく、情報開示のための報告義務です。
【結論】全ては「亡くなった人」のステータスで決まる
この2つのシナリオは、米国の遺産税における、揺るぎない原則を浮かび上がらせます。
| シナリオA | シナリオB | |
|---|---|---|
| 被相続人 | 非居住者 | 非居住者 |
| 相続人 | 非居住者(配偶者) | 米国市民 |
| 適用ルールブック | 非居住者用 | 非居住者用 |
| 適用非課税枠 | 6万ドル | 6万ドル |
| 夫婦間控除 | 適用なし | (無関係) |
| 相続人の米国義務 | なし | Form 3520による報告義務あり |
| 戦略的結論 | 最悪のシナリオ。 資産の大半が失われるリスク。 |
遺産税の負担は最悪シナリオと同じ。 ただし、相続人には追加の報告義務が発生。 |
最終的な結論:
- 夫婦が共に非居住者の場合、特別な救済はなく、非居住者ルールがそのまま適用される、最も厳しいシナリオとなります。
- 被相続人が非居住者であれば、たとえ相続人が米国大統領であったとしても、その遺産に適用されるルールは、冷徹な「非居住者用ルールブック」のままです。相続人のステータスは、遺産税額を1ドルも減らす助けにはなりません。
この「被相続人中心主義」こそが、この制度を理解し、そして乗り越えるための、全ての鍵なのです。
アメリカ国籍、永住権がない場合を「非居住者」という言い方は間違えていない?たとえ他国籍の駐在員でもアメリカに居住し納税していれば「居住者」でしょう。
【米国税法の罠】二つの顔を持つ「居住者」の定義:所得税 vs 遺産税
これまでの解説で、便宜上「非居住者」という言葉を使ってきましたが、Daboさんのご指摘通り、この言葉は大きな誤解を招く可能性がありました。
「アメリカ国籍も永住権もない駐在員でも、米国に住んで納税していれば居住者ではないのか?」
そのご指摘は、所得税の世界においては完全に正しいのです。
この問題を正確に理解するためには、米国税法が「所得税」と「遺産税」で、全く別の物差しを使って「居住者」を判定するという、根本的な違いを知る必要があります。
【比較表】米国税法における、2つの「居住者」の定義
| 比較項目 | ① 所得税の世界 | ② 遺産税・贈与税の世界 |
|---|---|---|
| 目的 | 毎年の所得に課税する | 生涯の資産移転に課税する |
| 「居住者」の判定基準 | 実質滞在テスト (客観的・数学的) |
住所(Domicile)テスト (主観的・意思ベース) |
| 該当する人 | ・米国市民 ・永住権保持者 ・実質滞在テストを満たす人 |
・米国市民 ・永住権保持者 ・永住の意思があると判断された人 |
| 結果 | 全世界の所得に課税 | 全世界の資産が遺産税の対象 (ただし約21億円の控除あり) |
【ケーススタディ】駐在員はなぜ「居住者」であり「非居住者」なのか?
Daboさんが例に挙げられた「多国籍企業の駐在員」は、この矛盾を象徴する存在です。
L-1ビザなどで5年間米国に滞在する駐在員を例に見てみましょう。
- 所得税法上の扱い → 「居住者」
彼は、物理的な滞在日数を基準とする「実質滞在テスト」を満たすため、所得税法上は「居住者」と見なされます。その結果、米国市民と同様に、全世界の所得(日本やマレーシアでの収入も含む)を米国で申告・納税する義務を負います。 - 遺産税法上の扱い → 「非居住者」
一方で、遺産税の判定基準は「永住の意思」です。彼が「いずれは母国に帰る」という意思を持っている限り、遺産税法上は「非居住者(Non-domiciliary)」として扱われます。
その結果、もし彼が米国で死亡した場合、米国内の資産(米国株や不動産)に対して、あのわずか6万ドルの非課税枠と、最大40%の遺産税が課されるのです。
【結論】2つのルールブックを使い分ける米国税法
この複雑な仕組みを理解することが、国際的な資産管理の第一歩です。
| ある人物のステータス | 所得税法上の扱い | 遺産税法上の扱い |
|---|---|---|
| L-1ビザで5年間滞在する駐在員 | 居住者 (全世界所得が課税対象) |
非居住者 (米国内資産に6万ドル控除) |
| 日本に住むグリーンカードホルダー | 居住者 (全世界所得が課税対象) |
居住者 (全世界資産に約21億円控除) |
これまでの説明で「非居住者」という言葉を使ったのは、あくまで「遺産税法上の非居住者」を指していましたが、それはDaboさんのご指摘通り、不正確で誤解を招く表現でした。
この重要な区別を理解することが、米国に関連する税務リスクを正確に把握するための鍵となります。
なんだかAIの答えは「微妙におかしい」と感じるのだけれど、次に行きます。
アメリカでは亡くなった被相続人のステータスが問題になるけれど、例えば日本の場合は受け取る側の相続人が納税義務者となる。その場合の相続税、両国に租税条約がある場合はどうなる?
【国際相続の罠】アメリカで相続税がゼロでも、日本で課税される理由
「被相続人が米国居住者(米国市民や永住権保持者)だったため、約21億円の非課税枠が使えて、米国での遺産税はゼロだった」
このようなケースでも、もし被相続人が日本の税法上の居住者であった場合、日本の相続税からは逃れられません。
この現象は、国際税務の「二つの独立した税務宇宙」という概念から生じます。アメリカと日本の税務当局は、それぞれ全く別のルールブックに従って、独立して判断を下すのです。
なぜ、アメリカで無税でも、日本で課税されるのか?
1. アメリカ側の判断(アメリカのルールブック)
- 判定対象: 亡くなった被相続人が、米国の遺産税法上の「居住者」であったか。
- 結果: 被相続人は「居住者」に該当するため、約21億円の巨大な非課税枠が適用され、遺産総額がこの枠内であれば、米国遺産税は0ドルとなります。これで、アメリカの税務当局の仕事は終わりです。
2. 日本側の判断(日本のルールブック)
日本の国税庁は、アメリカでの結果を一切無視し、日本の法律だけに基づいてゼロから判断を始めます。
- 判定対象: 亡くなった被相続人が、日本の相続税法上の「居住者」であったか。
- 結果: 被相続人は日本の「居住者」であるため、日本の相続税法に基づき、その人が世界中に保有していた「全世界の資産」が、日本の相続税の課税対象となります。
【課税対象となる資産の例】
アメリカの証券口座にある米国株やETF、アメリカの銀行にある預金、マレーシアにある不動産、日本の銀行預金や不動産…など、文字通り、地球上にある全ての資産です。
マレーシアの居住者なら、相続税はマレーシアにないので、納税義務はない。ただし、マレーシアへ入国する10年以内に日本に住んだことがあれば、日本への納税義務がある。(日本の海外移住者に対する10年縛りの法律のため)
【最重要】租税条約は、このケースを救済してくれるのか?
「日本とアメリカの間には租税条約があるのだから、二重課税にならないように、どちらか一方で非課税なら、もう一方でも非課税になるのでは?」
これは、非常によくある誤解です。
結論から言うと、答えは「No」です。
租税条約の主な目的は、「二重課税を排除すること」であって、「非課税の状態を作り出すこと」ではありません。
そのための主要なメカニズムが「外国税額控除」です。
- 外国税額控除とは?
「外国で支払った税金を、自国で納めるべき税額から差し引く」という制度です。 - 今回のシナリオへの適用:
- まず、アメリカで支払った遺産税はいくらでしたか? → 0ドルです。
- したがって、日本で納めるべき相続税から差し引ける外国税額は、当然ながら0円です。
租税条約は、アメリカで税金を払っていた場合には助けになりますが、アメリカでの税金がゼロであった場合には、何も機能しません。
その結果、日本の納税義務は、一切減額されることなく、そのまま残るのです。
【結論】
| 被相続人のステータス | 相続人のステータス | 日本の相続税の課税範囲 |
|---|---|---|
| 日本の居住者 | 日本の居住者 | 全世界の資産 |
| 日本の居住者 | 日本の非居住者 | 全世界の資産 |
最終的な結論:
被相続人が日本の居住者であったという事実が、日本の相続税法における最強のトリガーとなります。その瞬間、その人の全世界の資産が日本の課税対象となり、たとえアメリカの遺産税がゼロであったとしても、あるいは租税条約が存在したとしても、相続人は日本のルールブックに従って、日本の税務署に相続税を納める義務を負います。
アメリカで相続税を払うのは亡くなった被相続人で、でも日本では納税義務者が相続人だとしても被相続人が支払った納税額を、相続人が税額控除を受けられるというのに法律的におかしくない?問題ないのはわかるけれど、法律的にはどういう解釈になる?
【国際相続の疑問】支払人が違うのに、なぜ外国税額控除が使えるのか?
国際相続において、一つの大きな疑問が生じます。
「アメリカの遺産税は『亡くなった被相続人の遺産』から支払われ、日本の相続税は『財産を受け取る相続人』が支払う。支払った主体が違うのに、なぜアメリカで支払った遺産税を、日本の相続税から控除できるのか?法律的に矛盾していないか?」
この疑問は、国際税務の法哲学に触れる、極めて鋭いものです。
結論から言うと、この仕組みは法的に全く問題ありません。その理由は、各国の税法や租税条約が、厳格な法形式よりも「経済的な実体」を重視して、国際的な二重課税という不合理を是正することを、最優先の目的として設計されているからです。
解決すべき大問題:「国際的二重課税」という不合理
もし、この税額控除がなければ、「一つの資産移転に対して、二つの国が課税する」という極めて不合理な「国際的二重課税」が発生します。これは、国境を越えた資本の移動や人々の移住を著しく妨げる、経済的に非常に有害な状態です。
解決策の哲学:「実質主義(Substance over Form)」
この不合理を解決するため、世界の税法と租税条約は、「実質主義」という哲学を採用しています。これは、「取引の法的な『形式』(誰が払ったか)ではなく、その経済的な『実体』(何に対して税金が課されたか)を見て判断する」という考え方です。
法的な形式(Form)
- アメリカでは「被相続人の遺産」が税金を払った。
- 日本では「相続人」が税金を払う。
- → 支払人が異なるため、別々の取引に見える。
経済的な実体(Substance)
- 「被相続人の資産が、相続人に移転する」という、ただ一つの経済的なイベントが発生した。
- アメリカの遺産税も、日本の相続税も、この「ただ一つの資産移転」に対して課税している。
- → 課税対象となっている経済的価値の源泉は、完全に同一である。
日本の税法は、この「経済的な実体」に着目します。相続人が受け取ろうとしている財産は、その価値の源泉である被相続人の遺産から、既に一度、アメリカで税金が引かれている。したがって、その分は、日本での納税額から差し引かなければ、不合理な二重課税が生じてしまう、と判断するのです。
法的な根拠:日本の法律は、これを明確に認めている
この考え方は、単なる解釈論ではなく、日本の相続税法に明確に規定されています。
相続税法第21条(外国税額控除)には、「国外にある財産について、その国の法令により相続税に相当する税が課されたときは、その税額を日本の相続税額から控除する」といった趣旨の条文があります。
この条文は、外国の税金が「遺産税」という形式(被相続人払い)であろうと、「相続税」という形式(相続人払い)であろうと、それが「相続に相当する税」である限り、控除を認める、という柔軟な設計になっているのです。
【アナロジー】国境を越える「通行料」
この仕組みは、国境を越えるトラックの「通行料」に例えることができます。
- 資産: 1台のトラック
- 被相続人: 出発地の倉庫
- 相続人: 目的地の倉庫
- アメリカ遺産税: 出発地の倉庫から出る際に課される「輸出関税」
- 日本の相続税: 目的地の倉庫に入る際に課される「輸入関税」
このトラックに対して、出発地と目的地で二重に関税がかかっては、物流が成り立ちません。そこで、目的地の税関(日本の国税庁)は、こう判断します。
「あなたが運転してきたこのトラックには、出発地で支払った関税の領収書が貼ってありますね。その金額分は、こちらの関税から差し引いてあげましょう」
トラックの運転手(相続人)が、出発地の関税(遺産税)を直接払ったわけではありません。しかし、その関税の負担は、最終的にトラックの価値(=相続人が受け取る財産)を減少させているため、経済的には運転手が負担したのと同じことなのです。
国際税務の世界は、法形式的な矛盾を乗り越える「実質主義」という、より高い次元のロジックによって、公平性を保っているのです。
参考になれば幸いです。m(_ _)m