ジジババになりますと一般的には守りの生活になりますし収入増は期待できませんから、やっぱり気になるのはその地の物価、その変動。そしてその地に住む人達の所得水準。そういう意味において日本人のジジババがマレーシアに住むにはメリットがあるんですね。でもそこで一番注目されるのは物価。
マレーシアの物価は3分の1だという定説は崩れて、今でもそれを信じている人は少ないと思いますが、つまり物価がやすかったのは事実だけれど、インフレが凄いってことなんでしょう。これは海外在住者に言わせれば当たり前のことでも、デフレが長く続いた異常事態の中で生き続けた人達にはきっと衝撃が大きいのだろうと思います。それプラス、円安に大きく近年動きましたから、収入源が円建てである場合、海外での支出も円建てで考えるのが普通ですから、「値上がり感」は半端ではないと思います。
マレーシアの統計局(Department of Statistics)の資料を見てみましょう。
まずは物価変動。
Department of Statistics Malaysia Official Portal
CPI(Consumer Price Index)の2011年から2015年5月までの動き。Y軸の数値は年換算の変化率。黒線がCPI、大きく動いてる赤線が「食料・飲料品」。緑は「食料以外」ですから、食料関連の値上がりがCPIをひっぱり上げていたのがわかります。
また分野別、月別の細かい動きは上のページのグラフ、あるいはそこにリンクが張られている過去のデータを見ればわかります。ま、大雑把な見方としては物価上昇は年間3%。食品関連は5%ってところでしょうか。ちなみに5%毎年上がると5年で約30%、10年で60%を超える。
ここで注意しないとならないのはこの%は全国平均だということ。マレーシアのように地域格差があるところでは、都市部の値上がりが大きいと思って間違いがないと思います。だから我々が感じるであろう体感インフレはこの数値より大きいはず。
それとですね、他人の懐ではありますが、その地の「世帯所得」を見ることも大事だと思うんですよ。世界中どこでもそうですが、下町に住むのと上の手山の手に住むのではまるで違いますから、その地に住む人達の世帯所得から消費傾向を想像しないと、自分を取り巻く環境なんかわかりませんよね。
私がインフレ率だけを見ていても何もわからないといつも言うのはここで、例えば米の値段は変わらないにしても「生活向上による支出増」ってかなり大きいはずなんですね。例えば昔は一人に一台の電話なんて考えられなかった。テレビも同じ。そういう風に社会はどんどん進化していくと商品やサービスの価格は変わらなくても支出増になっていく。子供のいる家庭はこれに拍車が掛かるわけで、子供が大きくなるに連れてとんでもない金が掛かるようになる。インフレって「支出増のある一部分」でしかないと思います。地域住人の所得も増え、生活が向上すれば自ずと環境もそれとともに変わるし、そして物価そのものも上がっていくんじゃないでしょうか。
それを見るのはこのページ。
Department of Statistics Malaysia Official Portal
2014年の数値ですが、私が2013年にこれをチェックした時と表示方法が変わっています。こういうのって困るんですよね。(2013年にチェックした時の日記はここをクリック)
大雑把な数値はこれ。Median Incomeは中央値。Mean Incomeは平均値。マレーシア全体の数値と、都市部、それ以外のもの。
見るべき数値は赤枠の6833RMで、これは2014年の「都市部の世帯所得」で伸び率はなんと2012年に比べて【年換算】で8.7%。都市部ではないところが10.9%の伸びですから、都市部との格差は広がっていないと考えることが出来るんでしょう。健全なのかもしれませんね。
私が注目したいのはこの表です。地域を細かく分けた「平均値」です。
プトラジャヤ、クアラルンプールで10000RM超え。クアラルンプールの10629RMを日本円に直すと約35万円です。
ヤフーのリンギットと日本円のチャートを見てみましょう。
では世帯所得の35万円というのは日本で言うとどういう数字なのでしょうか。日本の世帯所得を見てみます。2013年ですがこういう数字(赤枠で囲った2013年は年収300万円)。これは年収表示ですので12で割って月の金額を入れておきました。高齢者の世帯所得は25万円でマレーシアの30%減です。
日本の高齢者世帯の世帯所得よりマレーシアはKLの一般世帯所得の方が大幅に多いという結果。またKLの一般家庭の収入は日本平均の60%にまで迫ってきて、年間8.7%の伸び率であることも頭に入れておこうと思います。またいつか都市部ではなくてマレーシア全国平均が日本人高齢者所得を上回る時がくれば、マレーシアのどこへ行っても悠々自適に過ごすのは難しくなるはず。
さてさて、この数字から何が見えてくるでしょうか。
私としては一般的日本人退職者がマレーシアに渡り、物価の高い大都市に暮らし、一般的マレーシア人より良い住居に住み、悠々自適に生活する時代はもう終わったと思います。
マレーシアの所得は年換算10%の伸びがあり、また日本人高齢者の収入は減ることはあっても増えることはないと言っても良く、また日本に住居でも残してあればその負担は大きく、また年に必ず何度も日本に帰国するなどの諸経費を入れると、マレーシアでの生活レベルはかなり落とさないと厳しくなるのは明白。ただマレーシアの一般家庭はこの中から子育て経費を出していますし、それが家計の大きな部分を占めていることは考慮しないと比べることはできませんが、一般的にマレーシア人の師弟が金のかかる私立やインター校に入れているわけでもなく、私は日本人のロングステイヤーの生活レベルがマレーシアの人たちより明らかに下がっているのが目に見えるようになるのに時間が掛かるとは思えません。
収入が毎年10%上がるとすると10年で2.6倍です。これがそのまま続くかどうかはわかりませんが、我々の時代の大卒初任給を思い出してみれば、そして1970年代だけでどれほど上がったか、あるいはかつての香港、台湾、シンガポールがどうだったか思い出せば、マレーシアも同じ道を歩むかもしれないことは考えても良いはず。
ま、世界どこでも安く生活するすべはあるわけで、マレーシア人の生活レベルがどれほど上がろうと「そんなの関係ないね」と言えるとは思いますが、普通の人が上の手山の手に住むのと同じことが起きるわけで(ゴールドコーストでもそういう風になったと感じます)、その地域の物価は高いのが当たり前で、生活は厳しくなる。これがまさに近年起こっている日本人MM2Hの地方都市への流出という傾向に繋がっているのでしょう。ゴルフじゃなんじゃやり放題、安いという今の感覚も変わっていくのに時間は掛からないだろうというのが私の想像です。
またロングステイヤー御用達のホーカーズも減っていくのでは無いでしょうか。これに関しては私はホーカーズ事情もわかりませんが、どこのモールに行っても今風の、それなりに高いレストランやカフェが増えているのは明らかで、この波はじわじわ広がるのが普通。減らないにしてもかなりのスピードで高くなっていくんじゃないでしょうか。子どもの教育費も同じで、若い層がどんどん稼ぐ様になれば、良い学校が増え、また学費もどんどん上がるはず。これもまたオーストラリアの発展の中で私が見てきたもの。私が来る前ですが、ゴールドコーストでは家族4人が月15万円で生活できると言われていました。懐かしいです。(笑)
円安も加味していろいろ計算してみるとマレーシアに行くメリットが半減しているのは間違いが無く、それがまさにMM2Hの申請者の激減に繋がっているのではないでしょうか。ただ流行の波、広がりを予想するのは難しく、これからは今までとは違うマレーシアブームが起きることは十分に考えられると思います。つまり、マレーシアに向かう層にも変化が見えてくるだろうということ。マレーシアは日本から見たらタックスヘイブンなのは間違いがありませんから。
今まで楽しんだ人たちは、帰る時期をどう読むかを考えるだけですが、これからマレーシアへ渡る人たちはかなり悩むと思います。また、マレーシアに来た当時に「ここなら大丈夫だ」と永住(許可はないにしても)を考えた人たちにはこれから試練が待っているのではないでしょうか。これはゴールドコーストも同じですし、世界各地で繰り返されている移民の移動や増減も結局は同じことだと思います。
ま、青い鳥はどこにもいないってのは真実で、その時その時、好きなようにつまみ食いできる状態を保つのがロングステイヤーの真骨頂なんでしょうね。私はロングステイ財団は「あくまでロングステイであって移住(永住)ではない」という立場を取っているのは非常にまともだと思っていて、永住権も永住許可もなく、社会保障も一切なく、どの国も金になるから外国人を住まわせているだけだという現実を考えてみますと、「いつかは日本に帰る」が正解だと思うし、帰らないという選択は、私はギャンブル以外の何物でもないと感じます。
私達もマレーシアに渡るつもりに変更はありませんが、マレーシアでどうするか、いつまで滞在するのかに関しては「予定は未定」で、これを続けるつもり。言葉を変えれば「未定のままでも大丈夫な状態を維持」しようと思っています。ゴールドコーストで非常に親しかった「かつての金持ち」が事業にも失敗し、どんどん転落していき、最終的には家族からも見放され、最後は一人寂しくアパートで死んでいったのを思い出します。日本に帰るに帰れない人たちって世界中に結構いるんですね。理由は様々ですが。
そして生活が成り立たないようになって、(永住権を持っていても)夢途中で引き上げていった人の数は半端じゃない。私は問題はここだと思っていて、日本に帰るしか無いものの、日本で再出発するのは簡単では無いんですね。特に子供がいて金のかかる年代だとかなり悲惨なことになる。どうやって生き抜くかということと、あるいはいつどの時点で引き上げるかを両方、常に考えないとならないんですね。
面白いのは、多くの人はそんなことになるとは考えていなかったんじゃないでしょうか。そんな厳しさ、デメリットがあるならそもそも来ませんから。チャレンジするのも良いですが、失敗した時のことを想定していないと大変なことになるのは明らか。実は私自身は背水の陣を取っておりまして、日本に引き揚げることは一切、想定したこともありませんでした。(笑)(でもそれが出来たのは永住権があるからなんですね。セイフティネットがあるわけです)
だから私は調子の良いことばかり書くメディアやコンサルタント的な動きをする人たちに「軽さ」を感じるわけです。美味いことを書き連ねても、何かあれば「それは自己責任でしょう~」と言うはずなんですね。
だったら、「海外のすすめ」を言うならば、その薦める理由と同じ量の「こういう人は海外に出るべきではない」「注意点」も言うべき。誰にでもチャンスはあるとか、やらねば損みたいな口調は、詐欺の手口と全く同じ。特に海外で生活するにあたって「永住権の重要性」に関して一切触れないのは手落ちだし、海外のすすめをいう人でさえ永住権を持っていないなんてお話にならないんですよ。結局そういう人は「旅行に毛が生えた程度のレベルでしか考えていない」ってことだと思います。夢で頭のなかが一杯の幸せな人たちには話は通じても、冷静に世界を見ている人には通じないはず。
家族を連れて国を変えるって、旅行や引っ越しと違うわけで、生き方の根本を変えてしまうのですから、「海外のすすめ」をいう人達は「自分は新興宗教の教祖」と同レベルのことをしている、責任があることをしっかり自覚するべきだと思います。
人生のある時期を楽しく生きるというのは良いと思います。私もそうやって生きてきましたし。そしてジジババはそれで問題ないんですね。どうせ次に行くところは目の前に迫っているんですから。ところが若い内にやりたいことだけやっているとどういうことになるか。その経験を行かして生きるなんてうまい話もあるのかもしれませんが、海外にかぎらず国内でも、好きに生きたしわ寄せはいつかず来るってことを忘れてはならないと思っています。稼げなくなる時はすべての人にいつか必ず訪れるんですから。だからここでも「最低限永住権は必要」だということがわかるはず。永住権もないって社会保障もなければ、その地に住み続けることさえ出来ないんですから。国外追放になるってことです。我々日本人が日本に住んでいて、稼げなくなったらいつか国外追放になるのと同じことなんですよ。その地における夢も希望も計画もそこで全て終わりになる。
普通そういうことは誰でもわかっていることなのに、マレーシアに関しては無頓着な人が非常に多いのね。不思議だと思います。
永住権は取れないから・・ということだとしたら、そもそもそういう国にいつまでも住み続けることは無理ってことなんですね。国はそもそも住み続けて欲しくないから永住権を出さないんですから。病気でもしたり自分で稼げなくなったら即、アウト。家族全員で国外に出るしか無い。また子供のビザは別ですから、子供が成人したらどうなる?子供だけ日本に返しますか?
イヤイヤ、一生住むつもりはないよ、というのなら、次にどこへ行く?その国でも永住権がなければ同じことが起きる。
永住権がない海外住まいって、「日本に帰ることが大前提」になるってことなんですね。本人の希望や意思は関係なし。
「楽しかったね~」と笑って日本に帰れる状態を作ることに集中するのも良いかもしれないと思います。固執しても海外で生き延びるのは簡単だとは思いませんし、ましてや社会保障もあてに出来ない、そもそも永住権もないとなったら、いつかどこかの時点で追い出される(あるいは自主退去の)可能性大ですから。海外でうまくいかない時でも「日本に帰ってもどうにか生き延びることは出来る状態の確保」が大事だと思いますが、この見極めって簡単そうで簡単ではないんですね。「まだ大丈夫」「もう少し頑張ってみよう」って思うのが普通ですから。ゴールドコーストでロングステイではなくてこの地に永住しようとしたのに帰っていった人はかなりの数ですが、帰り方もいろいろで、さっさと見切りをつけた家族は良かったと思います。でも固執しつづけて結局知らないうちに消えていった人もいる。独り身なら好きに生きれば良いですが、家族は大変な思いをすると思います。離婚、一家離散なんてのも他人事じゃないんですね。
これを書くと日本も同じだって人が必ず出て来るんですね。でも日本にいれば就労の自由もあるし、セイフティネットもあるんですね。国外退去を命じられることは絶対にない。ここは大きな違いだと思います。バリバリ頑張っている人たちはそんなことを考えたことさえないでしょうが・・・。でも稼げなくなる時は必ず来る。また私の祖父は60代で寝たきりになって20年生きましたが、それも他人事じゃないと思っています。日本でさえ大変でしたが、海外だったらアウトです。
あるいは倒産しようが、無一文になろうが、シングルマザーになろうが、寝たきりになろうが我々外国人がどうにか生きていけるセイフティネットを持っている国も存在するんですね(例えばオーストラリア)。でも永住権がなければ絵に描いた餅。全ては自己責任の自己負担。
自己負担でも物価がやすければ良い、というのがマレーシアのメリットだったと思いますが、今日、色々調べてわかったことは、それも近い将来、そう簡単には行かなくなる可能性大ってことだと思います。
私達はこれからマレーシアに行く計画に変更はありませんが、いつか日本に帰りたいという考えを持っているのはいつもここに書いている通り。ですから最近は結構日本のことを調べています。身体も弱り、頭も(もっと)ボケてくるのは間違いがありませんし、そんな頃にはストレスがないところでノンビリとそして日本の山海の珍味を食べながら過ごしたいから。私は「楽天」さえあれば日本のどこにでも住めると思っていて(笑)、生活環境の良いところがいいなぁ。南洋が昔から好きですが、沖縄は意外にヨイヨイになるころには辛いかもしれないと考えていて、やっぱり台風被害の少ない九州のどこかが良いかと。ヨメさんが福岡の田舎出身ですが、福岡も良いと思ったり。
都心部でのジジババが増えますから、地方へ分散させようとする動きがありますが、是非ともうまい具合に良い計画を作って欲しいと思います。かつて1980年代に当時の通産省がシルバーコロンビア計画なるものを立案し、ジジババを海外に積極的に送り出そうとしましたね。ただ追い出すだけではなくて、受け入れ地には新たに近代的な30万都市(シリコンバレーみたいな)を日本が主導して作るような壮大な計画(オーストラリアで)でもあった。だからそこにジジババも住まわせてね、という計画(笑)。あの当時に日本から海外に出た人たちの数も多く、オーストラリア移住ブームがあったのもそれが理由。
そのシルバーコロンビア計画を是非、日本でやってほしいと思います。地方再生にもなるんですから。