48時間かけて「角煮」を作ってみた【低温調理】

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このブログの読者の方で、「低温調理」に目覚めた方がいらっしゃいます。

その方が、コメントで豚肉を48時間、低温調理をしてみると書いていらっしゃいました。角煮を作るためです。

これには思わず、うーーむ、意味が無いんじゃないかなと思い、そのように偉そうにコメントしてしまいました。その理由は、そのように長時間調理する理由がですね、「XXXの問題を解決するため」じゃないんですね。やってみたらどうなるかという実験。そして「イマイチでした」とのこと。

私としては何を狙って、どうイマイチだったのかがまるでわかりません。またイマイチだと感じたのは「もっと良い物が出来る」と想像していたからなはずで、ではどうして「良い物が出来る」と思ったのかもわからず。

そんな偉そうなことを考えていた私ですが、では実際に48時間煮込んだらどうなるかはやったこともありませんから知らないわけです。想像はできますが。ではその想像が正しいのかどうかの検証をしないとならないと。

やってみました。48時間、低温調理70度です。

出来上がった角煮はこれ。柔らかすぎて簡単に崩れてしまいます。

前回の実験と同じで、美味しく出来ました。

タレは煮汁をそのまま使うのではなくて、新たに作る感じで「煮汁を利用」して最後はちょっとトロミをつけただけですが、うまく行きました。ただ身が柔らかすぎて、箸で持つと崩れちゃう。また柔らかいというのも「フワっ」とした柔らかさではなくて、赤身の部分は「硬い豆腐」みたいで、繊維質がまるでわかりませんでした。これってある意味、違和感があるんですね。肉には「繊維がある」のは当たり前で、それを感じない肉って、柔らかいとか美味しいとかの前に「何これ?」って思ってしまう。

でも低温調理で長時間調理すると、繊維が固くなること無く全体として柔らかくなるのは間違いがない。でもこれは行き過ぎだと思いました。

まず用意したのは、いつもの豚バラブロックではなくて、切って売っているもの。この手は「厚手で硬い肉」が多く、角煮向きではないと思っています。

でも角煮用に良さそうなものも入っていた。この写真の左側みたいな肉付きの物はどうしても赤身の主張が強すぎると私は思います。角煮の美味さは「脂が抜けた脂身」にあると私は思うので、脂身が多い、薄手の肉が好きです。右側のがその手の肉。

これを袋に入れ、油を入れて70度で48時間、低温調理。なぜ油を入れたかですが、隙間を作りたくなかったのと、油で油を落とせるから。油で煮ると油っぽくなると思いがちですが、油で煮るから油が落ちやすいんですね。

48時間ってさすがに半端じゃない長さで、出来上がりはこんな感じ。この時点で箸で簡単に切れる状態になっていました。これは想定外でした。

これには味も何も付いていませんし食べても美味しくもなんともない。ただの「茹で過ぎたゆで豚」です。でも硬くはなっておらず、要は「これを素材として」どうやっつけるかが一番のポイントだと思います。

低温調理時に汁がでますが、それに多目のオイスターソース、少なめの醤油。そして紹興酒、味醂。砂糖、塩は使わず、ウーシャンファン(五香粉)を少々いれて約1時間煮込みました。プルンプルンで良い感じ。この「高い温度で煮る(蒸す)」のが大事で、これで最終的に脂を落とし、ゼラチンを出すんですね。でもやり過ぎれば脂もゼラチンも抜けきってパサパサになるだけ。「ふやかしたミイラ状態」になる。

これをそのまま放置し、温度が下がり、次の日にはしっかり味も染みているはず。次の日にはこんな状態。

脂がかなり浮いていますが、この状態にするのも大事だと私は思っていて、この脂を綺麗に取りのぞきます。高い温度で調理してこの脂を肉からうまく抜かないと「オエッ」ってなるはず。

ああ、それと不思議だったのは「皮」があるんだかないんだかわからない状態。調理前に皮は剥がしたっけ?って思うほど。厚手の肉は皮も厚く硬かったのですが、まったく「皮がないのも一緒」。でもこれって良いことじゃないと思うんです。皮は皮の主張がないと皮付きの意味が無い。

プロがお店でどういうふうに作っているのかはわかりませんが、こういう状態で保存しているんじゃないかと想像しています。まさか注文が入ってから煮込みなんかできませんし、注文があればこの状態のものを冷蔵庫から出して「温めて出す」という感じじゃないでしょうか。これは家庭でも同じで、今作るから2時間待ってね、なんて言えませんし、この状態で保存しておけばいつでも20分以内には出せる。ただこの状態でどのくらいもつのかはわからず。いつかこの状態のものを冷凍してみるなんてこともやってみようかと。

これを暖めるのに10分もかかりません。沸騰直前で火を超弱火にして保持。そしてその煮汁を使って新たにタレを作り、その中に移す。適当な頃合いをはかって(3,4分)、肉は取り出し、タレには片栗粉でトロミを付けてそれを掛けて出来上がり。

それが一番上の写真です。って、また出しましょう。(笑)

柔らかすぎて簡単に崩れてしまいます。

タレにはこだわりたいと思っていて、ご飯に掛けても美味しいというタレにしたい。これって濃すぎても薄すぎても駄目だし、酒のツマミとして食べることを想定しないとならず、どうタレを決めるかって大事だと思います。焼き鳥や鰻のタレと同じでしょう。

ちょっと味が濃い感じがしました。これはタレというより肉の味が強すぎるような感じ。これは前回も気がついていて、「低温調理後に煮るときには薄味で煮る」のが良いと思います。今回もそうしたつもりでしたが、それでも濃すぎた。

そして大事なのはこれ。タレが掛かったご飯の最後の一口(笑)。これが美味しいと思うか、もっと食べたいと思うのか、それでタレの味がうまくいったのかどうかが決まると思っています。

最後の一口、美味しい~~。ご馳走様~~~~と思いました。でもですねぇ、もうちょっと食べたい・・・ってほどじゃなかった。ここなんですよね、美味しい店の凄いところは。このタレが美味しいだけでご飯が止まらなくなる。(笑)

結局わかったことを書きますと。

○ 48時間は長すぎて、テクスチャーが柔らかいというだけではなく違和感を感じるぐらいになってしまう。
○ 煮こむ時には薄味で煮込む。
○ タレは煮汁をそのまま使うのではなくて、煮汁を利用しつつ新しく作りそれでちょっと煮込む。

こんな感じかな。

もう一つなるほどと思ったことがありました。本場中国の東坡肉(トンポーロウ)は四角く切った肉の全面を焼いたり(揚げたり)、紐で縛ることが多いんですね。それをやったことはありませんが、周りを焼き固める、あるいは縛ることによって、「中がフニャフニャに柔らかくなっても大丈夫」ってことなんだろうと。これって食べた時にも外側と内側の違いがわかるって、ローストポークと同じで大事な点かもしれませんし、お店で扱うのに「くずれちゃったよ~」なんてのじゃ困りますもんね。

ただ多くの人がよく言う、「焼き固めるのは味を逃さない為」というのは嘘だと思っています。焼き物ならわかりますが、煮物にして「味が逃げないように」なんて出来るわけがない。非科学的だと思います。これに関しては料理会でも論争があったようで、何十年か前にヨーロッパで科学的に「味を閉じ込めることは出来ない」のが立証されたはず。洋食で焼くのは「キャラメライズ」が目的であって、その焦げが味となり、食感となるからじゃないでしょうかね。

またこの辺は低温調理をするにあたって絶対に知っておかなくてはならないことで、低温調理とは「密封調理」でもあるわけで、「肉は最初に焼き固めなければならない」なんてのを信じていると「焦げ臭いもの」ができちゃうんですね。密封調理は味や香りが逃げませんから、焦げ味も全体に回っちゃう。でもそれも味のうちですから焼いたほうが良いと思いますが、「ほどほどに」ってことで、最後にはやっぱりしっかり焼かないとならないのは同じ。

逆を言えば、味や香りが逃げづらいってことはそれを想定して最初の味付けをしないとならないんですね。

これは低温調理というかプロの世界で多く使われている「スチームコンベクション」の使い方ノウハウでも注意点として紹介されています。

密封調理とは何か。これも知識として必要となる。そしてそれを低温調理するわけで、味や香りは「低温で調理する」ことでも違いがあるんですね。これは圧力鍋を使う場合と比較するとすぐわかりますが、圧力鍋でスープを作る時に「ニンニクを一欠片」いれたところでそんな風味は消えちゃう。ところが低温調理だとそのニンニク一欠片がちゃんと仕事をするってこと。だからスパイスやハーブを入れ過ぎると大変なことになる。(笑)

ここで想像できることは、「密封調理」で「低温調理」をしたら、「素材の味もしっかり残ったものが出来る」であろうということ。これはまさにその通りで、和食の「土瓶蒸し」がそれの代表だと思います。あるいは中国の壺料理。あるいは西アジアのどこでしたっけ。土鍋で密封して「水分も入れずに」調理する調理法、鍋がありますよね。

私の書く理屈は理屈っぽいと思う方が大半だろうと思いますが、やっている内にやっぱり調理は科学であって、それを利用した料理が世界中にあって、プロが「沸騰させるな」という時に、なぜ沸騰させてはならないのかの理由もわかってくるんですね。

「言われたとおりにやれ」「レシピ通りに作れば美味しい」という時代から、「美味しく作るための理論を理解する」のが現代の調理法ではないかと思っています。

この動きはプロの中にもあるのは前にも書いたとおりで、日本では「関西食文化研究会」なる面白い会があります。料理会の重鎮、それも和食から中華、フレンチ、イタリアンの有名なシェフたちがあつまり、そして科学者も呼び、調理を科学的に考え、それが各国の料理にどう活かされているか知り、そしてそれを「自分の料理に取り入れる」という非常に前向きな集まりです。門外漢の私がそのレポートを読んでいても本当に面白いと思います。

熟成とは何か。煮るとは?蒸すとは?とかそういう基本的なところから、キャラメライズ、乳化とか、普通に料理に使う手法を科学的に解明し、前進しようとするプロたちの思いには頭が下がります。このサイト、オススメです。

伝統は伝統で守り、科学の力を借りて前に進む。かっこ良いと思いました。(笑)

関西食文化研究会

またあのハーバード大学でも調理のクラスがあるんでしょうか。それの公開クラスの動画もあります。

全部で48話あります。英語です。

 
 
 

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