シドニーから突然帰ってきた次男坊だけど、昨晩も兄貴と友人たちと飲みに行って、帰ってきたのは夜中。
二人で帰ってきたけれど、真夜中に大声で怒鳴り合ってる。半端じゃない大喧嘩。近所にも聞こえているはずで、警察が来てもおかしくないレベル。
「話を聞いてくれ」と私が呼ばれて二人の話を聞いたけれど、二人共ベロンベロンで話が話になっていない。でも他愛もないことで喧嘩しているって感じではなくて、かなり真剣。怒鳴ったり、泣いたりしながら数時間のゴタゴタに私も付き合った。
結局は「仲が良いから起きた喧嘩」で、お互いが好き同士だから「お前のあの言葉、態度は許せない」、みたいな。
でもあそこまでの喧嘩って異常で、二人共悩みを抱えているのがわかった。それをお互いに理解したいのだけれど、二人共その余裕がない。
次男坊の話を聞いてびっくりしたのが、ただの悩みじゃないようで精神科に通うほどおかしくなっているとのこと。
結局は仕事がらみで、かなり追い詰められている様子。ブラック企業に勤めて、辞めるに辞められないのと同じ状態に思えた。
でも次男坊が働いているのはブラック企業ではなくて、世界的に有名な会計監査法人(世界4大会計会社の一つ)。21歳で大学院を卒業して就職。とにかく負けず嫌いで仕事を頑張って昇進し、同期じゃ俺だけ管理職、なんて威張っていたのがつい去年の話。そのまま突っ走って会社でも認められて責任も仕事の量もどんどん増えていった様子。でも負けなかった。頑張った。また昇進して給料も上がった。年上の部下も持つようになった。まだ25歳だけれど、その会社でも異例な高給らしい。
でも体力的にも精神的にもボロボロになっていた。上司にもスローダウンしろと言われるくらい。その上のパートナーからも長期休暇を取れといわれている。トップも出てくる会議中に、疲れ果てて居眠りというか気絶したこともあるらしい。
でも彼はどうしたら良いのかがわからない。まだ25歳でやる気満々なのは良いけれど、頑張り過ぎが自分の体も精神も蝕んでいた。ブラック企業じゃないのに、自分がブラック企業にしてしまったようなもの。
「お金もいらない、出世もしたくない。ただ普通に幸せになりたい」って泣く次男坊。そんな自分を自分でコントロールできなくて精神科に通っている。
確かに競争は激しく、仕事がきつい会社なのは間違いがなくて、入社時にいた同僚50人(20人だったかな?)のうち、この4年間で4人しか残っていないらしい。でも次から次へと優秀な人たちが入ってくる。会計監査法人ってそんなに出入りが激しいのか?
そんな話を聞いて、何も出来ない私はどうしたらよいのか。
「心が思うままに生きてみろ」と言うしか無かった。でも「お前の中に流れている日本人の血を信じろ」とも付け加えておいた。
今までも「もうダメだ。やってられない」なんて泣き言を言うこともあったけれど、そんなことを言いつつ「ガス抜き」をしていたと私は思っていたわけです。でも今回はガス抜きも出来ない様子。
マラソンレースに参加して、最初から全力疾走していたような次男坊。そりゃ出世もするし、一番前を走ることもできるし、周りからも期待される。でもそんなのが続くわけもない。
本人もそんなことはわかっている。でも全力疾走を続ける。いや、手抜きも覚えたらしいのだけれど、そういう自分が許せないのね。
昔の私なら「どこまで走れるか走りきってみろ。頑張れ」って言っていたけれど、今回はそれは言えなかった。うつ病患者に頑張れっていうのは禁句なのと同じだと思ったわけです。
ただ、あいつの人生はあいつのものだし、あいつが決めるしか無いし、親がああしろこうしろ、こうなって欲しいなんてことは言えない。どんな結果になろうと、自分が自分を潰してしまうようなことになっても、それもまた人生。「心のままに生きてみろ」というしかなかった。
長男と次男坊とコンドに帰ってくる前は外で胸ぐらをつかみ合って喧嘩をしていたらしい。そのまま大声で怒鳴り合いながら部屋に帰ってきたわけだけれど、私も入って三人で話しているうちに、どうにか治まってきた。
後で長男だけ私の部屋に来て泣いていた。「あいつが可哀想だ」と。「あいつのためにも俺達が頑張らないと」と。
優しい兄貴だと思った。
そして一夜開けた今日。何事もなかったように二人はいつものようにケラケラと他愛もない話をしている。そして次男坊は帰っていった。私もヨメさんも「来てくれて有難う、元気でな。次はクアラルンプールで会おう」と見送った。長男は次男坊の荷物を持って、「タクシーに乗るまで見送ってくるわ」と一緒に出て行った。
神様、どうか二人の息子たちに温かい光を、優しい風を・・・・・・・・・