金持ちが資産を海外に逃し、隠し、運用するなんてのはかなり古い歴史があるわけですが、この数年で世界的にそれの防止策を講じるようになっているのは周知の事実。
面白いニュースがありました。
どんなに隠しても金持ちの海外資産が国税にバレる新制度の中身とは?
’17年11月の「パラダイス文書」や’16年の「パナマ文書」など、富裕層の租税回避スキームを潰そうと各国の税務当局が躍起となるなか、画期的な制度が導入された。海外に口座を持つ中間層にも影響する制度の概要とは?
◆もはや資産フライトはできなくなった!
「パラダイス文書」で世界の富裕層たちの巨額な「税金逃れ」の実態が明るみになるなか、各国は連携して租税回避に対策を講じつつある。そして、その国際的な包囲網は、上位数%の資産家以外にも広がりつつあるのだ。
OECD(経済協力開発機構)が策定したCRS(共通報告基準)の導入である。’19年9月までにタックスヘイブンを含む世界の大半の国・地域が協力し、非居住者が保有する預金や証券、投資ファンドなどの金融口座情報を自動的に交換できるようにする試み。日本も参加する予定で、資産規模にかかわらず、各国の税務当局によって情報が共有されることになる。
国際税務に詳しい公認会計士で税理士の高鳥拓也氏は、CRSについてこう説明する。
「日本の国税庁はまず’18年9月末に、CRS適用国のうち当局間合意がある64の国・地域に日本居住者が保有する金融口座のうち、’16年末の残高が1億円超の個人口座と、’17年以降に新規開設された口座について、’17年分の情報を入手することになります。さらに、’19年9月末からは、’16年末の口座残高が1億円以下の個人口座に関しても、国税庁に提供されるようになる」
情報共有の形態について、高鳥氏は「OECDのガイドラインで明らかになっており、データ交換で日本に入ってきた情報は国税庁のサーバー上に置かれ、税務署はそこにアクセスして情報を入手することが予想されます」と話す。
OECDでは国際的な課税逃れを議論する専門の委員会もある。
一方、『元国税調査官が暴く 税務署の裏側』などの著書がある元国税庁職員で税理士の松嶋洋氏は、このCRSが各国の税務当局にとって大きな武器になると指摘する。
「現状、ある人物の海外預金情報を入手するには原則、その国の税務当局を介して現地の金融機関に情報提供を依頼する方法しかなく、国税にとって迅速な税務調査は難しい。CRSにより自動的に情報が共有されるのであれば、これほど便利なことはない」
そんなCRSの運用まであと1年足らずとなるなか、前出の高鳥氏によると“CRSパニック”ともいえる状況がすでに発生しているという。
◆もはや資産フライトはできなくなる!新制度(CRS)開始の恐怖
「最近、CRS適用国の各銀行から日本在住の口座保有者宛てに居住国の確認資料としてマイナンバーなどの提出を要請するレターが送付されているようです。現在、日本の銀行は、口座とマイナンバーの紐付けを行なっていませんが、海外の銀行が先行してマイナンバー提供を求めるため、このレターを受け取って、慌てて税理士に相談に来る人が増えています」
ただ、『マネーロンダリング』などの著書のある作家の橘玲氏によると、一部の富裕層の間では’14年にCRSの骨子が公表された直後から、対策が講じられているようだ。
「数億円レベルの資産を租税回避目的で保有し、かつまとまった運用益がある富裕層に対しては、海外のプライベートバンクはすでに法人化による租税回避スキームを勧めているようです。EUとスイスでは今年からすでに非居住者の銀行口座情報の自動交換がはじまっていますが、巨額脱税などは今のところ発覚していない。CRSが導入されても同様でしょう。さらに言うと、台湾やタイ、カンボジアなどはCRSに参加しないので、それらの国々の金融機関については情報共有の対象外。資産を移せばバレないし、それらの国の居住者になってしまえば、CRSに情報を共有されることを回避できる」
日本では5年ほど前に資産フライトがブームとなり、まとまった資産を持つ高齢者から、普通のOLなど中間層まで香港やシンガポールなどに“口座開設詣で”に出かけた。そんな、にわか資産フライヤーたちは、CRSにどう対処すべきなのか。
「残高が数千万円以下で、しかも額が増えていない口座に関しては、追及しても税金が取れないため、おそらく関心は持たれないのでは」(橘氏)
しかし、前出の高鳥氏によれば、およそコスパに見合わないような税務調査が入った例もあるという。
「近年、オーストラリアに金融資産を持つ日本人のもとに税務署から『お尋ね』が来たり税務調査が入ったりする例が増えています。これは、数千万円程度の資産に対しても同様です」
別の税理士によると、オーストラリア人富裕層の間で、スキーのできるニセコに別荘を持つのが流行したことで、同国の税務当局が日本の国税に彼らの資産についての情報提供を求め、その見返りとして同国内の日本人の金融資産情報を国税に提供したためだという。
◆CRSで海外だけでなく、国内の所得隠しもバレる
さらに「CRSは国内資産の徴税強化にも利用されるだろう」と指摘するのは、前出の松嶋氏。
「’14年から、5000万円を超える海外資産がある人は、国外財産調書の申告が義務付けられました。CRSを利用すれば、申告すべきなのに申告していない者を効率的にリストアップすることもできます。また現在、100万円以上の現金を国外に持ち出す際には申告義務がありますが、未申告で持ち出して海外で運用している人も露見するでしょう。その他、多額の海外預金がある者に、お金の出処についての『お尋ね』を送れば、国内での所得隠しを発見することにも繋がります。このため、相続などで未申告の海外資産がある人や、海外預金の原資となった所得などについて申告していない人は、速やかに期限後申告をするべきです。そうすれば、加算税は原則、追加で納付税額の約5%で済みます」
これからは正直が一番ということ!?
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《CRS(共通報告基準)の概要》国税庁はデータベースをいつでも閲覧可能
●交換される海外の銀行に口座を持つ個人・法人の情報
○氏名(名称)
○住所(所在地)
○居住地国
○納税者番号(マイナンバーではない)
○口座残高
○利子・配当等の年間受取総額等
《CRS加盟国一覧(全101の国と地域)》
○2017年までに交換(2016年分から報告)1回目の情報交換(’18年9月)
’16年12月末の口座残高が1億円以上ある個人口座
アングィラ、アルゼンチン、バルバドス、バミューダ諸島、ベルギー、英領ヴァージン諸島、ブルガリア、ケイマン諸島、コロンビア、クロアチア、キュラソー島、キプロス、チェコ、デンマーク、ドミニカ、エストニア、フェロー諸島、フィンランド、フランス、ドイツ、ジブラルタル、ギリシャ、グリーンランド、ガーンジー、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、ジャージー島、韓国、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、メキシコ、モンセラト島、オランダ、ニウエ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、サンマリノ、セイシェル、スロバキア共和国、スロヴェニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、イギリス(55の国と地域)
○2018年までに交換(2017年分から報告)2回目の情報交換(’19年9月)
’16年12月末の口座残高が1億円以下のすべての個人口座
アルバニア、アンドラ、アンチグアバーブーダ、アルーバ、オーストラリア、オーストリア、バハマ、バーレーン、ベリーズ、ブラジル、ブルネイ・ダルサラーム、カナダ、チリ、中国、クック諸島、コスタリカ、ガーナ、グレナダ、香港、インドネシア、イスラエル、日本、クウェート、レバノン、マーシャル諸島、マカオ、マレーシア、モーリシャス、モナコ、ナウル、ニュージーランド、パナマ、カタール、ロシア、セントキッツ・ネイビス連邦、サモア、セントルシア、セントヴィンセント・グレナディーン、サウジアラビア、シンガポール、シント・マールテン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦、ウルグアイ、バヌアツ(46の国と地域)
ちなみにアメリカは入ってない!!
<取材・文/奥窪優木>
この中であれれ?と思ったのはこの部分。
OECD(経済協力開発機構)が策定したCRS(共通報告基準)の導入である。’19年9月までにタックスヘイブンを含む世界の大半の国・地域が協力し、非居住者が保有する預金や証券、投資ファンドなどの金融口座情報を自動的に交換できるようにする試み。日本も参加する予定で、資産規模にかかわらず、各国の税務当局によって情報が共有されることになる。
不思議なのは「日本も参加する予定」ですと。なんじゃ?もうやっているんじゃなかったのか・・・。そして資産は「一億以上」だったはず。
OECDでこれを決めたという第一報を聞いたのは2014年の8月でした。こんな内容。
富裕層の税逃れを防ぐため、海外に住む個人の金融口座の情報を多国間で交換する経済協力開発機構(OECD)の新ルールの詳細が30日、明らかになった。各国の金融機関に海外居住者すべての口座情報を毎年1回、税務当局に報告させ交換するのが柱だ。2015~16年の導入を目指す。
主要20カ国・地域(G20)もOECDルールの活用で合意しており、9月にオーストラリアで開くG20財務相・中央銀行総裁会議でも詳細を確認する。
米国は海外の金融機関に米国人の口座情報の提供を義務づける法律を10年に成立させ、海外口座情報管理を強化。これを機に、多国間で情報を交換すべきだとの機運が国際的に高まった。
新ルールに参加する国の税務当局の間で、海外に住む人の情報を交換し、資産隠しや税逃れに歯止めをかけるのが狙い。
日本の国税当局が米国に送るのは、日本の金融機関に口座を持ち、米国に居住する日本人や米国人らの情報だ。逆に米国の当局は米国で口座を持ち、日本に居住する米国人や日本人らの情報を日本の当局に送る。
各国の金融機関に海外居住者が持つ預金口座や証券口座の情報を税務当局に毎年1回オンラインで提出することを義務付ける。海外居住者が持つすべての口座の名義人、住所、残高、利子や配当の受け取り記録などを報告の対象にする。
金融機関の事務負担を減らすため、残高100万ドル(約1億円)以下の口座はシステムでの検索など簡易な方法での確認を認める。一方、100万ドル超は営業担当者への聞き取りや保存する書類の確認など、より詳細な作業を求める。
口座情報の交換は当初15年末までに始めるとしていたが、準備が間に合わないため、16年末まで延期することも検討する。
各国はこれまでも税逃れを防ぐために、租税条約を結んで情報を交換してきた。ただ、不定期に情報が入ったCDなどを郵送でやりとりする程度だった。
新ルールでは年に1回オンラインでやりとりするため、情報の質や更新頻度が高まる。ただ、金融機関の手間やコストの増加につながる。日本の金融機関は口座を特定する作業が膨大になることを懸念し、一定額以上の残高がある口座に対象を限定するよう求めていた。新ルールにはOECDに加盟する34カ国などが参加する見通し。G20の枠組みで新興国にも広げ実効性を高める方向だ。
その後、銀行からもこの件を聞くようになり、居住地がどこかとか、非居住者の口座開設に関してもうるさくなってきたのはこのブログでも書いてきました。そして2017年にはもう始まったという理解でいたのですが、このニュースを見ると「2019年までに」となっていますね。ま、そのずれは大した問題ではなくて、こういう方向性なのは間違いがない。
ただし、こういう今までの流れを見ると、報道ってのも真偽がよくわかならないと思うし、「大変だ~~」みたいに煽る記事が今までも多かったような気がします。ということは今回のこれも「やりたいこと」と「現実」には大きな差があるのかもしれない。
でもま、「海外での資産隠し」そのものが日本では犯罪となったわけで(2014年から、5000万円を超える海外資産がある人は、国外財産調書の申告が義務付け)、収入があるのに申告しないのは脱税なのは昔から同じ。
ただし、これらは「日本の居住者(日本の納税義務者)の場合であって、日本の非居住者には関係のない話。ただし、このブログには何度も書いていますが「日本の非居住者」と認定されるのを簡単に考えるとうまくなくて、「住民票を抜いた」とか「半年上海外に出ている」とかそれだけで「非居住者に間違いない」と思うのは本人だけで、当局がどう見るかはまた全く別。この辺の詳しいことはこのブログにも何度も書いていますし、国税局のサイトでも見ればわかるはず。特に我々海外居住者が知らないとならないことは「日本には183日ルールは存在しない」という点。
この辺は本当に注意して調べないとネットにはいい加減な情報が氾濫していて、中には税理士でも間違えている例があるくらい。そして昨年改正があった「10年縛り」、つまり海外に出て「非居住者となって」10年以内は、贈与と相続に関して(所得は関係なし)は申告義務があるという点。これを知らない人はまだまだ多いようで、マレーシア関連のブログにも間違った情報を書く人がたまに出てきます。これも要注意で、「不動産や定期預金を(本来資産のない)伴侶や子供の名義にしてしまうと、その時点で贈与となる」わけですね。
いつの時代も「見つからなければ大丈夫」とか「日本に持って帰らなければ大丈夫」とか言う人はいますが、好きにやれば良いものの、そういう「俺は脱税は平気でやる」と公言する人たちってどんなもんなんでしょうかね。
今回のニュースをなぜブログで取り上げようかと思ったのは、こういう一文があったからです。
「数億円レベルの資産を租税回避目的で保有し、かつまとまった運用益がある富裕層に対しては、海外のプライベートバンクはすでに法人化による租税回避スキームを勧めているようです。EUとスイスでは今年からすでに非居住者の銀行口座情報の自動交換がはじまっていますが、巨額脱税などは今のところ発覚していない。CRSが導入されても同様でしょう。さらに言うと、台湾やタイ、カンボジアなどはCRSに参加しないので、それらの国々の金融機関については情報共有の対象外。資産を移せばバレないし、それらの国の居住者になってしまえば、CRSに情報を共有されることを回避できる」
この情報を読み間違えると非常にうまくなくて、「法人化」ってのはタックスヘイブンができた時と同時にやっているんですね。今更始まったわけじゃなくてその法人化こそがタックスヘイブンに作る「ミソ」だと思うんです。つまりですね、その法人ってのは「所有者も株主も全くわからないようにできている」のが普通なんです。また社長や重要ポジションに自分(あるいは自社)の名前も一切なくて、「本当のオーナーとの繋がりが全く見えない法人」だから意味があるんですね。
タックスヘイブンの多くはその国の法律で「個人情報は出してはならない」となっているのが普通で、本来はどの政府が「情報を出せ」と圧力をかけても絶対に出さない。というのがタックスヘイブンの歴史だったわけです。
でも最近はかなりそれも変わっていますし、その法人そのものの内容は隠せても、「それを仕掛けたコンサルタント」から情報が出るケースが有るんじゃないですかね。私はパナマ文書はその類だと思っています。
私もかつてはグランドケイマンに法人を持っていたと書いたことがありますが(興味本位です。作ってみないと何もわかりませんから)、それを仲介したのは旧三和銀行です。でも日本国内でその事業はできないので、「香港支店のある部署がその手の仕事も兼ねていた」のです。タックスヘイブンの法人情報は全くわからないようになっていても、それをコントロールしていたコンサルタント(この場合は旧三和銀行)から情報が出ることもあるだろうことは忘れてはならないと思います。
近年、「データ流出」があちこちで起きていますが(数年前にあのUBSからも大量に顧客データが流出して大騒ぎになった。でも日本では大して報道されなかった)、私はあれは「データ流出」という形を取ってアメリカ等の大国の圧力に屈した可能性もあると思うんです。パナマ文書も同じで、なぜアメリカ人の情報が極端に少なかったのか。これってかなりおかしな話でしょ。パナマ文書は「中国潰し」だと言われるのもわかるような気がします。
基本的にはタックスヘイブンを利用した節税、脱税は認めないということで世界は一緒に動いていますし、その圧力から逃れられるタックスヘイブンは今後減るんじゃないですかね。今の時点でも「お金を持ってる人はどうぞ~」と門戸開放しているわけではなくて、アメリカ在住者は絶対に駄目ですが、オーストラリアや日本の在住者も取引不能というところが増えています。
でもマレーシアの居住者ならOKのはず。どうしてだかわかりますよね?そもそも金融資産から生まれる所得に関してはマレーシアでは課税しませんから、タックスヘイブンに「脱税目的」で法人を作る理由がないんですね。でも将来の相続人とか分配で問題が出ないように作るケースはあるんでしょう。あるいはビジネス目的。
日本居住者の場合は、タックスヘイブンに関わらず海外に「子会社」を作っても「合算」しないとならない法律があります。だから所得を隠せば脱税となる。それをわかっているタックスヘイブン側は「日本の居住者の場合は口座を開けません」というわけ。
でも全部が全部そうではなくて、口座を開けるプライベートバンクもあるんでしょう。でも彼らも下手をするとその存在そのものが脅かされるわけで、決して「顧客側に立っているわけではない」という考え方は大事だと思います。
対処方法って簡単で、「脱税なんか考えない」ってことでしょう。
マレーシアの居住者になれば、それで全て解決です。
でも自分が居なくなったあとのことが・・・という心配があるんでしょ?どうにか隠して、後に日本に帰ってもそのままにして日本に住む子供たちに譲りたいとか。
どの国も税金が国の成り立ちの根源で、脱税は許さないという方向性をはっきり打ち出していますし、これが厳しくなることはあっても緩くなることはないはず。そしてお金を埋めてしまって一切触らなければ無いのも同じですが、普通は触りますよね。その時にはクラウドデータとIT技術、AIも駆使して、いつかあるとき税務署から「お尋ね」が来る時代は目と鼻の先にあると思って間違いがないと私は思います。
脱税は犯罪ですが、節税は問題ないわけで「合法的に考える」癖をつけるのは重要だと思います。
MM2Hでペナン在住だった日本人が、日本へ返ってから脱税で逮捕され、名前も全国的に晒されたことをお忘れなきよう・・・。