低温調理に興味を持った方から、何かお勧めの調理器具があるかとのご質問を頂戴しました。
これに関しては私も随分探したのですが、家庭用で安くて良いものは無いという結論です。でもこの1,2年は調べていませんから何か出てきているかもしれません。
基本的には湯煎の考え方で、調理する材料を真空パック、あるいはジップロックの様な袋に入れてお湯に浸し調理するというだけのことで、何も難しいことではないし、こんな調理器具は1万円もあれば作れるはずなのに作らないのね。今はなくなってしまったサンヨーという家電メイカーが出していた炊飯器には素晴らしい機能が付いていました。50度から90度ぐらいまで細かい温度設定ができたはず。
ネットを調べますと低温調理に興味をもった人がまずやるのは普通の炊飯器の保温機能を使うという手。私もこれをやっていましたが、細かい温度調節ができないんです。そしていろいろやるようになると細かい温度調節をしたくなる(材料、料理によって温度が違う)んですね。でもま、とりあえずやってみるというのなら、炊飯器のない家庭はないですからやってみるのは良いと思います。炊飯器にお湯を入れてそこにジップロックなどで密封した材料を投入してボタンを押すだけですから。炊飯器の保温温度は大体70度ぐらいでしょうか。メイカーによって微妙に違うようです。ただ問題は70度という温度は多くの低温調理の場合、温度が高過ぎるってこと。だから時間を考えて取り出さないと駄目なわけで、結局はオーブンを使うのと同じ気を使わないと駄目なんですね。ステーキ、あるいはローストビーフ、海南チキンにしても、時間を間違えたら全く駄目。調理し過ぎになってしまう。(ローストビーフは60度弱、鶏肉は65度程度)
世にはスロークッカーという名の調理器が売っていて、私もそれを買いました。ガラス製で中が見えるものなのですが、結局は炊飯器の保温機能を使うのと同じで、温度調節も二段階にしかできないという半端なものでした。でも炊飯器を使っていると当然、炊飯できなくなるわけですからこういうスロークッカーを欲しくなるのですが、いらないかもです。
でもそれはそれで煮込みをじっくり煮こむとか、カレーを突っ込んでおくと美味しいのが出来ますから良いとは思います。でもそれは本来の低温調理とは違う。
ご存知のない方の為に説明しますと、魚にしても肉にしても加熱調理をする場合、タンパク質は温度で変性し凝固するわけですよね。そしてもっと温度を上げると今度は水分が抜けていく。つまり、タンパク質が凝固し、水分が出て行かない温度で調理すれば、みずみずしく調理できるという理屈。これはしゃぶしゃぶとか鍋料理を思い出せばすぐわかるはずで、ボコボコ沸騰させてしまうと肉でも魚でも固く、そしてパサパサになりますよね。だからしゃぶしゃぶなら温度は80度ぐらいに保つとか、鍋も同じで、なおかつ取り出す瞬間にこだわるわけですよね。マレーシアの海南チキンが美味しいのもこれが理由。どんなに鶏が美味しくても海南チキンは調理温度が命だと思います。
温度調節が出来るものなら、それこそ肉、魚、そして温泉卵だ、煮物だとなんでも出来るのですが、そういう調理器具ってプロ用は存在しますが家庭用がない。ネットで調べている時に、自作した強者も発見しました。ちょっと電気関係の知識があれば、お湯にセンサーを入れて温度を計り、ある温度になったらサーモスタットが切れる、入るという風にするだけですから簡単に作れるのかもしれません。また研究用機材にこういうのがあるんですね。試験体を一定の温度に保つ必要がある実験ってあるんでしょう。それも使えるのですが、精度がちゃんとしている必要もないわけで、高いお金を出してそんなものを買うのは馬鹿げています。プロ用も同じ。
アメリカ(イギリスかな?)のメイカーが売っているSous Vide Supremeという製品が今のところ一番良さそうですが、結構高い。こんなもの中国で作らせれば間違いなく2万円以下で売っても利益がでるだろうにと思うような商品。日本には代理店がないようで日本からは個人輸入するしか無いかもしれません。マレーシアには代理店があってハービーノーマンで売っているようです。私は買う予定でいます。このメイカーは具材を真空パックする機械も売っていて、それが抱き合わせなのか別売りなのかわかりませんが、この真空パックは必要ないと思います。ジップロックとかオーブンで使えるプラスチックバッグを使えば十分。ただし、ジップロックもメイカーによっては耐熱性が悪いものもあるようで注意が必要だと思います。また品質が悪くて調理中に口が開いちゃったなんてことが起きたらがっかりです。私が家で低温調理をするときに破けたことが何度もありますので、オーブン用のプラスチックバッグを使っています(これはかなり大きいので結んだところはお湯の上に出す)。もしかしたらこれはプラスチックじゃないかもしれません。パリパリした素材ですが180度ぐらいまでは持つはず。
Sous Vide Supremeでどんなことができるかの紹介ビデオです。英語ですが問題なくわかるはず。
Sous Vide Supreme Malaysiaのフェイスブック ← クリック
私が家でやるときにはどうするかですが、長時間煮こむような時にはスロークッカーを使いますが、海南チキン、ローストビーフ、温泉卵を作る時などは圧力鍋を使います。これは圧力を掛けるということではなくて、鍋が分厚くて保温性能が高いということと、鍋そのものが結構大きいので多めのお湯を使えるということ。これは温度変化が少ないということを意味します。これと温度計を使って温度を調節して調理します。温度変化は思ったより大きくなく、また厳密に何度ぴったりじゃないと駄目というわけでもないですから、これでどうにかやっています。やっているうちに、どういう材料ならどのくらいの頻度で温度を測り加熱するべきかというのがわかるようになるはず。
ただ低温調理で気をつけないとならないのは、殺菌だと思っています。例えば肉を調理するにしても、私は最初は沸騰させたお湯を使います。これに2分程度漬ければ表面の殺菌は十分なはずで、その後、65度なら65度前後に調整するようなやり方をしています。ローストビーフなら低温調理が終わった後にフライパンで表面をしっかり焼くわけですが、他の具材でも調理前じゃなくて調理後に焼くとか沸騰させたお湯に漬けることは心がけています。
それともう一つ注意しないとならないのは、大きめの鍋でお湯を使う場合ですが、お湯の対流を考えないと駄目だということ。上と下と温度がかなり違うということが普通に起きます。もしかしたら温度を測ることよりお湯を混ぜるほうが面倒かもです。スロークッカーも上に紹介したSous Vide Supremeも必ずお湯が対流するように出来ているのはそういうことだと思います。
経験したことの無い方には是非トライしてもらいたいと思います。私は鶏は大好物ですが、胸肉はパサパサするので大嫌いです(笑)。でも低温調理で胸肉でもササミでも調理すると、これなに?みたいなシットリしたものになる。調理前に胸肉、ササミをフォークでブチブチ刺して穴を開け、なおかつちょっと塩を入れた水なりスープストックを少量あわせ揉み込むと(あるいは卵の白身を揉み込むと)、今まで全く食べたこともない、魔法でも掛けたような胸肉が出来上がります。
なんでこんな凄いことが出来る低温調理器がいろいろ売っていないのか、本当に不思議です。衛生上の問題かなぁ。家庭に低温調理の概念が広がらないのも衛生上の問題があるかもですね。55-70度辺りの調理が当たり前になってくると、間違いなく食あたりが増えるはず。材料の管理をプロみたいにちゃんとしない家庭が普通なわけで、しっかり火を入れましょうってのは当たり前ですよね。外人がステーキのウェルダンを食べるのも歴史的な理由があるのかも。日本の学校給食の決まりでは加熱調理の最終芯温は85度とされているらしいし、これで美味しい給食を作るのはまた特殊な技術、材料選びや調理法の難しさがあるんでしょうね。
いくら刺し身が好きだと言っても、何でもかんでも生で食べるわけがないのと同じで、低温調理もその辺を考えないといつか大当たりするかも。(笑)
(後記)低温調理(器具)に関してはまとめたものがありますので、こちら(クリック)をご覧ください。
(後記)スロークッカーはまるで使えないというのが2014年9月になってやっとわかりました。誤解があったようです。くわしいことはここを参照(クリック)