海老のビスクに関して書きましたが、もちろんビスクはスープであってメインではありません。今日のメイン料理はローストビーフ。
最近、また低温調理の事を書くことが増えていますが、うんちくばかり書いて実際はどうなんだ?なんて声が聞こえそうですし、久しぶりに作ってみました。それも7時間も掛けて。温度は57度です。
7時間も?なんて驚く方がいらっしゃるかもしれませんが、時間が掛かるだけで全く手間は掛かっていません。これが低温調理の良い所で、材料をお湯の中にぶち込んで放置して7時間ですから。
出来上がりはこんな感じ。写真だとちゃんと色が出ませんが、いい感じに出来上がりました。ジューシーさが写真から伝わりますかね?噛むとジューシーってのは結構簡単にできますが、今回は押すと肉汁が溢れるぐらいジューシーに仕上がりました。こういうのって珍しいと思います。うまく焼けたハンバーグみたいな感じ。
使った肉はこれ。ローストビーフ用に味付けされて売っているもの。売れ残りでしょう、値引きして売られていたものです。約1.3キロで1300円ぐらい。グラム100円の肉。(笑)
この手の肉は味付けが違うものが数種類売っていまして、これは「Classic marinated」とあります。オーストラリアスタイルのクラシック味ってことだろうと思いますが、前回もこの肉で、その前にずーっと買っていた「Onion & Garlic」の方が味は良いと思うのですが、なぜか肉質が違うんですよ。そんなことはないはずなんだけれど、確かに違うとしか思えなくて、肉質はクラシックのほうが良いと思います。
前回はかなり塩っぱくて、肉は美味しいのに非常に残念な思いをしたので、今回はそのリベンジ。もしかしたらあの塩っぱさは「何かの間違い」かもしれないと思っていたのですが、今回も前回ほどじゃないにしてもやっぱり塩っぱい。でもこれを「ジャガイモ」と食べたり、パンと食べるにはきっと調度良いのかもしれません。
この手の肉は真空パックされていて、本来そのパックから出してオーブンに入れて焼けばOKという肉。ネットでちゃんと包まれていますので、肉がばらけることもありません。で、私の場合、低温調理をするときにはこのパックごと調理しちゃいます(吸湿用パッドが使われていない場合)。(笑)
深めの鍋にたっぷりのお湯を入れて低温調理器(Anova)をセットします。温度はなぜか68度。
57度で調理したんじゃなかったっけ?はい、その通りなんですが、最初は高めの温度から始めるような習慣がついています。理由は「万が一の雑菌対策」。雑菌は外側に付いている事が多く、肉の中には「無いとされる」のですが、57度はまだ「限りなく怪しい温度」なんですね。これがもう少し低いと「雑菌が運動会をする」温度ですから、雑菌が死滅する温度を最初はキープしたいわけです。
68度の水温でも冷蔵温度の冷たい肉の塊を入れれば当然温度は下がってくるわけですが、もし肉の表面に雑菌がいたとしても、最初の10分もしないうちにノックアウト出来るはず。ただ、68度にするはっきりした根拠はありません。水量、肉の量と温度を考えて、なんとなく決めただけです。(笑)
水温が68度になったら温度を57度に設定しなおして、その中にパックされた肉をそのまま放り込んだ画像。この状態で7時間放置です。途中のチェックも無し。Piece of cakeです。
パックのまま放り込むということは、「周りを焼いていない」ってことになります。ローストビーフって低温調理でも最初に焼くんじゃないの?と思う方が多いと思いますが、確かにその方が美味しいと思います。でもそれは焼くことによって焦げ目(メイラード反応)をつけ、風味を肉全体に回す為なんですね。このことは何度も書いていますが、巷で言われる「肉汁を封じ込めるため」ではありません。というか「焼く場合」は最初に周りを焼き固めないと、焼く間にどんどん肉汁が出てしまいますから、焼き固めるのは常識。
ステーキがそうですよね。ハンバーグももろそうで、最初は強火で焼き目を付けて、それから弱火でじっくり火を通す。ところがですね、何時間も煮たり茹でたりする場合にはそもそも「肉汁を封じ込める」なんてことはでき得ないんですね。そこは科学的に考えればすぐわかることで、煮る、茹でるという行為は、素材が水分の中で泳いでいるわけでその素材から出てくる味はどうしたってスープに広がる。これは嫌でもそうなってしまうわけで、カチンカチンに焼き固めるのなら話は違うでしょうが、ちょっとやそっと焼いたところで水分によってブヨブヨになり、どうしたって肉汁は出るし、それだからこそ煮物は美味しくなる。
ではなぜ焼くのか?その答えは簡単で、素材をブライン(つけ汁)に浸けておいたり、調味料やハーブ類を塗りたくるのと同じで、焦げの風味を全体に回すためなんですね。だから低温調理の場合でも最初に焼いたほうが美味しくなる。
ところがですね、焼き過ぎるとうまくないんですよ。この答えも簡単で、低温調理の場合は必ずと言って良いほど真空パックなりなんなり袋に入れますよね。となるとそこから風味が逃げないのは良いのですが、「逃せない」ということでもあるわけです。つまり、焦げ味が「回り過ぎる」という現象が起きる。だから焼くのならちょっとだけにしないと駄目だということ。苦味が肉全体に回ったローストビーフを想像したら良いと思います。
どちらにしても最後にはしっかり焼くわけですから、手抜きをして「焼かない」とするなら「最初は焼かない」のが正解で、「最初に焼いたから最後には焼かない」わけにはいかないんですね。最後の仕上げには「必ず焼く」。そうじゃないと焼き目が付いていてもブヨブヨになっているはずで、美味しくもなんともないでしょ?
私のいうことが嘘だと思うなら(笑)、このサイトを見るのが良いと思います。何度か紹介していますが、プロの調理人、学者が集まる勉強会でもそこのところが話し合われています。また「焦げ」とはなんなのか。どうして「焦がす必要」があるのかがよくわかると思います。
関西食文化研究会 メイラード反応 ← クリック
いつ焼くべきかに関しては日記に書いたことがあります。低温調理でローストビーフを作る場合、いつ焼き目を付けるべきか【備忘録】 ← クリック
ローストモノを作る場合にはこの理解って非常に大事だと思っていますが、低温調理に興味がある方は是非上のリンクをお読みになられたほうが良いと思います。
それでも肉汁が出ちゃうんじゃないかと心配する人は、よーーく考えていただきたいんです。そもそもタンパク質の凝固が始まって(大体56度~60度)、その後水分を出す分水作用って何度から始まりますか?大体68度前後と言われていますよね?ということは?低温調理の場合、その温度以上で調理することって非常にまれですから、肉汁を出したいと思っても出ないってこと。でしょ?(でも60度以上になると若干肉汁は出てくる)
7時間後に取り出しのがこれ。肉汁らしきものは全くと言って良いほど出ていません。
この状態は「ブヨブヨしたただの茹で肉」と同じ。これにしっかり焼き目をつけますが、それではじめてローストビーフらしくなります。我が家ではフライパンとバーナーを併用します。バーナーってあの卓上コンロ用のガスボンベに取り付けて使うバーナーね。
焼き上がりはこんな感じ。ブヨブヨだったのがかなりしっかりしてきます。
ここまで焼くのにかなり時間を掛けたんですよ。目いっぱいの強火で15分以上フライパンで焼いてからバーナーを掛けたのですが、まだまだ焼き方が足りません。この辺が私の欠点で、どうしても「焼き過ぎが怖い」んです。焼き過ぎのローストビーフがオーストラリアでは普通ですからトラウマになっているのかも。(笑)
焼きが足りないのは断面を見てみるとわかります。またこの肉の部位がどの部分だかわからないのですが、数種類の筋肉が走っているのがこの写真からわかりますね。こういう肉質のほうが美味しいと私は感じます(豚も同じ)。この肉は多分、肩じゃないかと想像しています。
私が理想とする焼き方は、周りはしっかり「固いぐらいに」焼けていて、内部は1センチぐらいウェルダンの方が良いと思っています。肉って良く焼けているから「味」があるんですよね。だからやっぱり適当に焼けているほうが良くて、周りの良く焼けているところ、そして味がしっかりわかる焼けているところ、そして内部はロゼというのが一番だと思うんです。でも私の作るローストものは、かなり気合を入れて焼いたつもりでも、周りだけ「ほんのちょっと焼けている」ような感じ。(笑)
低温調理ってこういう感じになるケースが多く、それを考えるとやっぱり「オーブンで上手に焼けているロースト」の方が美味しいと思います。でもそれは素人にとってはかなり難しいし、うまく出来ても「偶然」が多く、また大きさが違ったり、ましてや形状がいびつだったりすると均等に火を入れるのは神業になりますから、やっぱり「誰でも」「いつでも」「簡単に」「ばらつきが無く」「最高に限りなく近く」作れる低温調理が良いと思うわけです。で、仕上げの焼き方をちゃんとやれば、「プロみた~~~い♪♪」な出来上がりになる。(笑)
それと、上の写真は焼いてから30分以上寝かしたものですが、これを冷蔵庫に入れて冷やしますともちろん硬くなって、色も赤みを増すんですね。多分、明日ヨメさんがそれを見た時には「生だ~~~~~~~~」と騒ぐはず。
もしパーティなどの為に事前に作る場合、あるいは次の日に食べる場合はその辺も考慮しないと、「誰も手を付けない」なんてことにもなりかねませんね。作った本人だけが「どうだ?」なんてニヤニヤしてるだけとか。(笑)
出来たてを30~60分寝かしたものが一番美味しいと思いますが、冷やしたローストビーフも美味しいし、前菜にもなりますから、その場合はそれなりの温度で調理しないと駄目だろうと思います。多分、60度か62度か。でもその温度で5時間以上調理しますと「火の入りすぎ」で全く美味しくなくなることもあるから注意が必要だと思います。
低温調理は本当に面白いと思います。下手なレストランで食べるよりよっぽど美味しいのが自宅で「簡単に」作れるんですから。