いつもの調理実験をやっている中で、ベトナムのフォーを作っている時に不思議な事に気が付きました。
ベトナムのフォーはストリートフードとか安い料理と思われがちですが(私はそう思っていた)、調べてみると本式のはかなり手間ひまをかけてそしてコストも掛かるんですね。見た目はコンソメみたいな透明なスープですが、牛の骨や肉をスープ取りだけに使う料理(フォーボーの場合)。
これのレシピをユーチューブで探して真似をして作ってみるとそれはそれは美味しいのが出来るようになったのですが、考えてみると街の中にあるフォーのお店も果たしてそういう風に作っているのかどうかが気になり出しました。オーストラリアフェアの中にもベトナム料理を出す店があって、フォーも結構美味しい。
ところがですね、夜店ではないにしてもフードコートみたいなところにある店が、毎日何十キロもの牛骨や牛肉をスープのために使うはずがないんですね。
これはラーメン屋とて同じで、有名な店は大量の骨や肉、その他諸々を惜しげなく使うことがあるものの、では普通そこらにあるラーメン屋はどうしているのか。
やっぱり添加物を使っているとしか思えません。
で、添加物っていうと我々がすぐに頭に浮かぶのは味の素。グルタミン酸ナトリウムですが、これが科学的に合成されたのは1909年。もう100年以上の歴史がある。
味の素、あるいはその類似品が苦手な人って結構いて、私は普通かな。ただ大量に使われると口の中に広がるあの独特な感じがオェってなりますが、決して嫌いではないし、焼き鳥を焼く時には(特に手羽)大量にふりかけたほうが美味しいと思うくらい(笑)。ヨメさんは味の素は好きな方。でも長男は駄目で、好き嫌いというより具合が悪くなるとのこと。胸焼けすると言っていたかな。
実際に、味の素が大量に使われるようになって(特に中華)、チャイニーズレストラン・シンドロームなる言葉も出来るぐらい具合が悪くなる人が増えてアメリカでは社会問題になった。
ま、そんなこともあって、欧米のレストランでは「No MSG」と表示してある中華レストンも結構ある。
それを見て、化学調味料を使っていないんだ~なんて私は思っていたのですが、でもMSGは使わなくても他の物は使っているはずなのは、上に書いたベトナムのフォーも同じ。
そもそも「MSG」って何かと調べてみたら「グルタミン酸ナトリウム (Monosodium Glutamate)」のことなんですね。いわゆる味の素のこと。
味の素って化学調味料とかうま味調味料とか言いますが、では最近主流のうま味調味料ってグルタミン酸ナトリウムだけなのか?
このWikiを見ると、MSGって多くのうま味調味料の中の一つでしか無いのがわかる。なんだ~~~、って思いませんか?
ま、MSGを使わなくても他のうま味調味料を使う店はいくらでもあるんでしょう。
味の素(グルタミン酸:昆布)は嫌いだと言いながら鰹節のイノシン酸に関しては何も言わない人も多いし、結構いい加減ですよねぇ。
ま、要は使い方、使う量ってことなんですが、この手のうま味調味料はいろいろある。
そしてですね、最近気になることとして、こうやって「うま味調味料」がいろいろあるんだから、「香辛料」というか「合成して作られた味」がいろいろあると思うんですよ。ま、いわゆるスパイス系は良いにしても、先日びっくりしたのがヨメさんが買ってきた「フォーガー(鶏のフォー)」の即席カップ麺が美味しかったこと。そしてそれの表示を見たら「アーティフィシャル・チキン・フレーバー」と書いてあったんです。つまり鶏の風味は合成で作られたものであると。
でも美味しいんですよ~~~。
美味しければ良いじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、そんなんで美味しければわざわざ手をかける必要がないってことですよね。牛にしても、骨じゃ肉じゃと何時間も掛けて煮こまなくても「牛肉フレーバーの素」をお湯に入れれば美味しいのが出来るならそういうものも手に入れてみたいですもの。
つまりですね、フードホールにあるような店、もしかしたらちゃんとした専門店だってそういうものを使っているんじゃないかってことなんです。
それも、そういう店もあるってことじゃなくて、そういう店がほとんどじゃないかと。
実際にベトナムのフォーを骨と肉から作ってみますと、こんな面倒なことをする店がいまどきあるはずがないと思うくらいです。ま、和食の「出汁」にしてもちゃんとした店は昆布にもこだわり、鰹節にもこだわり、そして出汁のとり方使い方にもこだわるのが普通ですが、では普通の店でそこまでやるか?といえばやらないんじゃないかと。
アーティフィシャル・チキン・フレーバーをキッカケにちょっと調べたら面白いことがわかりました。チキンフレーバーの粉とか素っていろいろ売っていますが、私はそれらは肉を(例えば)煮込んで、煮詰めて、味を凝縮したものだろうぐらいに思っていたのですが、そういうものも中には間違いなくあるけれど、殆どは「合成」だとのこと。鶏だけではなくて牛もそう。
世の中にはこれにこだわる人たちがいるんですね。面白いと思ったのはベジタリアンの人たち。最近はベーガンとかいうようになってきたようですが、緩いベジタリアンもいれば、動物由来のものは食べないし、利用しない、触ることもない(毛皮は着ない、革靴も履かない等)という人達がいるんですね。では彼らが「鶏味のラーメン」を食べるのかどうか。この答えはイエスだそうで、その理由は「アーティフィシャル・チキン・フレーバー」には動物由来のものが一切使われていないからとのこと。(笑)
ウソみたいでしょ?
私も凝り性ですから、いろいろ調べてみたんですよ。そうしたら1972年のアメリカの特許に行き着きました。それはここ(クリック)。
そこにこんな記述がありました。
Perret proposed a substitute artificial beef flavor formed by heating a hexose or pentose monosaccharide with cysteine and cystine to 90 to 100 C. for two hours in the presence of water, adding vegetable protein hydrolyzate and a 5′-ribonucleotide, and then heating again at at least 70 C. for about two hours, to develop the desired beef flavor.
要はですね、この文の前に書いてありましたが、肉の組織から抽出するには時間も金もかかる。だからこの方法が良いということなんですが、「六炭糖か五炭糖の単糖類をシステインとシスチンを使い90-100度で2時間。それに水と植物性タンパク質を加水分解したもの、そして5リボヌクペチプドを加え、再び70度で熱すると【牛フレーバー】が出来る」と。
ややこしいですが、牛肉を使わずに化学的に牛の味が作れるということ。これを日本では「タンパク加水分解物」と呼び、Wikiでは「従来のうま味調味料だけでは作れなかったコクや自然なうまみを作ることができるため[2]、1970年代後半以降、日本の加工食品において欠かせないものとなっている。」ですと。そしてそれらは「食品衛生法では食品添加物に指定されていない」。
つまり我々が化学調味料というと、それは味の素のような「うま味調味料」のことを指しますが、これって100年の歴史があるんですね。でも我々は味の素の次に何が出てきたのかはしらない。
これって滑稽だと言っても良いくらい呆れてしまいますが、この100年の内にどれだけその世界が進歩、進化したか想像すれば、味の素なんてのは「古代の遺物」に近くて、最新の技術ではもっと凄いのがいろいろあるぜってことなんだろうと思います。
「あの店、結構美味しいよ」なんて我々は普通に話していますが、それは「うまみ調味料」でもなければ「味の素」でもない、「現代科学の産物」がいっぱい使われているってことでしょうね。
「あの店のチキンスープ(ビーフスープ)がおいしくてさ~~」なんて言っても、使われているのは植物性蛋白質から作られた風味で、それに本物の肉のスライスを2,3枚入れれば客は何も気がつかない、疑わないんでしょう。
最近、中国人の中華料理のレシピを見ることが結構あるのですが、一般の家庭では、たとえば鶏料理に「鶏粉」を振りかけるケースが非常に多いのがわかります。つまりですね、悲しいかな我々のベロってよっぽど凄くないかぎり、そういう化学的な物質を使って味を濃くしたものを食べて、「その方が美味しい」なんて思うんじゃないでしょうか。
今、フト、マレーシアはクアラルンプールのデサスリハタマスにある中華の店を思い出しました。駐車場に面しているあの店です。そこの麺が美味しいと評判で連れて行ってもらったのですが、スープが濃い味で凄いんですわ。パンチがあるのね。
その時食べたチキンパンミー。
美味しいことは美味しいんだけれど、自分で調理を始めてから、ちゃんとチキンだけでスープを取ったらこういう味は絶対に出ないのがわかるんですね。あるいはこの量のスープでも鶏を2,3羽使ってスープを取って、徹底的に煮詰めないとこの味は出ない。
こういう店はちゃんとスープを取っていないとは言いませんが、大きな鍋に鶏ガラとか鶏脚とか入れて、そして小鍋にいっぱいの「食品添加物」、それも食物由来のタンパク質から作ったもの(笑)、を入れているであろうことは簡単に想像できます。そしてそれはオーストラリアでも小さな店やフードホールにある店も同じで、食品添加物は大量に使われているんでしょうね。
そんなことにも気が付かず、あの店は化学調味料(味の素系)は使っていないから良いわ、なんて思っちゃうのね。なんだかうまく騙されちゃったって感じがします。
別に良いんですよ、何を使っても。美味しければ。
でもねぇ、そういうプロの世界をまるで知らずに、骨や肉から何時間も時間を掛けて少量のスープを作っていると、「俺ってバカか?」みたいな気もしてくるんですよ。骨や肉から作るのが正統派かもしれないけれど、要は不味いか美味しいかが一番大事なわけで、私だってあのフードホールの美味しいベトナムのフォーの味が出るのなら、その「食品添加物」で良いと思いますもの。
でも彼らがなんというメーカーのなんという添加物をどう使っているのかは我々には絶対にわからないのね。
私も飲食店を経営する商人の家に生まれ育ちましたが、私が知っているものは「味の素」だけ(笑)。今の時代は「どのようにちゃんと作るか」よりも、どのメーカーの何と、どのメーカーの何をどう組み合わせて、そしてそれに少量のXXXXを加えると美味しいものが出来るとか。そんなのがお店のノウハウになる時代なのかもしれませんね。そういう意味ではマレーシアを含めた東南アジアの店って私は信用していません。何を使っているか全くわからない。
今の私は料理人でもなんでも無く、ただの興味本位で調理をするだけですから、料理の王道にも興味があるものの、そういう「プロの現場のノウハウ」にも非常に興味があります。
だって、もし私が技術者でそういう食品関係の研究者だとしたら、「日高昆布」と「羅臼昆布」の違いもはっきりわかるような、そして時間を置いても味が劣化しない出汁の素の研究に命を賭けようと思いますもん。(笑)
もしかしたらもうそんなのも出来ているのかもしれませんね。