マレーシアに来て思ったことは「豚肉」と「鶏肉」が美味しいってこと。これはオーストラリアに比べてという意味であって、日本との比較はわかりません。鶏はいろいろ美味しいのがあるのはわかりますが、家で食べていた豚がどうだったかはもう覚えていません。
オーストラリアって「食には拘らない」という文化が根本にあるようで、というか、拘り方が違うんですね。豚肉に関しては1980年代の世界的な健康ブームで脂の多い豚肉が敬遠され、畜産農家が脂を落とすことに注力しなんと鶏肉と同程度まで脂分をおとすことに成功した。この手の豚がず~~っと流通していて、日本とは違って「産地や種類に拘らないオーストラリア」はこの豚のみしか手に入らないと言って良いと思います。黒豚も飼育されていますが、また「昔の豚肉のほうが美味しかった」と昔に戻る動きもあるのですが、そういう豚を手に入れるのは簡単ではありません。
鶏肉もブロイラーのみというお国柄で、日本のように産地によっていろいろあるようにはなっていませんし、「脂身を毛嫌いするオーストラリア」では鶏そのものも脂分が少ないブロイラーで「胸肉」が好まれます(皮なんか絶対に食べないという人が多い)。だからブロイラーも「胸肉が大きく育つ種類」の様子。鳥の大きさにしては胸肉が異常に大きいと感じます。
こういう豚や鶏は美味しくないと私は思うわけです。
マレーシアではそういうことが無いようで、私は良いと思うのですが、日本から来た板前さん(複数)がマレーシアの豚も鶏も全く駄目だという話を何度か聞いたことがあります。でも私のような一般人が普通のスーパー(TTDI含む)などで買う豚肉や鶏肉はそこそこ美味しいんじゃないかと思っています。
どちらにしろマレーシアの豚肉は良いと思っているわけですが、これは調理方法でまるで変わってしまうのね。そこのところを今日は書こうと思います。
一番わかりやすいのは「ためしてガッテン」の「別次元の味 豚肉革命」です。
子供でも「あること」に気をつけて調理すれば、長年料理をしてきたお母さんより美味しいものが作れるという内容。
実はこの動画を見つけたのでこれをブログに書こうと思ったのですが(笑)、要は私がいつも書いている「低温調理」ってことなんですね。一般家庭では「調理温度が高すぎる」ということがこのガッテンの焦点となっています。
ただし、温度が低ければ良いのかってわけでもなくて、また、塊肉や豚のステーキやソテーなら温度に気をつけて調理することは可能ですが、我々が多く食べるのは「薄切り肉」。じゃぁ、その場合はどうするのか?そんなことがこの動画でいろいろ説明されていて面白いと思います。
ただし、このガッテンであまり重視されていないと感じたのは「豚肉の危険性」です。特に「トリヒナという寄生虫」。
昔から我々日本人は「豚肉には寄生虫がいて危ない」と聞かされ育ってきたわけですが、日本ではそれは「無い(トリヒナという寄生虫がいた事例は一件もない)」と番組の中で専門家が言っています。元々は1930年代のアメリカで問題になったことが大げさに世界中に広まっていると。
ただし「海外の場合は別」だと番組でも言っています。
海外在住者はこれを聞くと困っちゃうんですよね~。
そして調べてみると「やっぱり豚肉は危ない」と世界的に言われていて、それは古い歴史が関係していていて豚肉を食べないイスラム教はよく知られていますが、実は「旧約聖書」にも「豚を食べるな」ということは書かれているんですね。これらは宗教的な理由というより、「豚は食べると危ない生物」であるというのが広く知られていたからだと思うし、医学や疫学、調理学が発達していない大昔にはいろいろあったのだろうということは簡単に想像できます。世界中の誰でもが食べる「ソーセージ」ですが、これの語源は「ボツリヌス菌」だそうです。人類の食文化の歴史ってそういう菌類、バクテリアやウイルス、寄生虫との戦いだったんでしょうね。
そもそも豚は「Scavenger」と呼ばれるように雑食でありなおかつ「清掃動物」「腐(肉)食動物」なんですね。まさかと思う汚いものも食べる。アジアの辺鄙なところに行くと高床式のお便所があって、人間の「大きな落とし物」は下に落ちて、そこにいる豚がそれを食べ漁る恐ろしい光景を見たことがある人は多いと思います。
ありとあらゆる菌や寄生虫に侵されているものでも平気で食べてしまう豚。
それでも豚は健康だとしても、それらを豚が体内に宿したままだとしたら豚肉を食べたら恐ろしいことになる。ここが「豚肉は危ない」と言われる根本でもあるし、どの国でも非常に気を使って管理しているし輸入肉は検疫が厳しい。
ここで一つ覚えておくべきこととして、なぜ豚肉には寄生虫や菌が多いのか。これは豚の「消化システム」の違いがあるから、ということらしい。我々人間は消化するのにかなりの時間を掛けますよね。また牛などの「反芻動物」も同じ。牛は24時間掛けて消化するとのことですが、ところが豚はこの消化時間が非常に短くて「4時間」程度とのこと。つまり時間を掛けて消化する間に「寄生虫、菌、バクテリア」などが死滅することが豚には少なくて、豚の中でそれらは生き延びるという理屈らしい。
さて、マレーシアはどうなんでしょうか。イスラムの国ですから豚肉は食べないのが基本。でも豚を食べる人種は多く存在するわけですが、国として豚肉の衛生管理をきっちりやっているのかどうかは疑問。
困りましたねぇ。
でも雑菌等に侵されているかもしれないのは豚に限らず牛でも鶏でも魚、それどころか野菜から食べ物全てが「マレーシアの流通に問題がある」としたら危ないものばかりとなるはず。でも生食をしない文化だからしょうがないんでしょう。
中国では「野菜もちゃんと洗剤で洗う」のが当たり前のようですし、マレーシアでもスーパーで普通に野菜用の洗剤が売られている。
本来は「農薬」とか「成長ホルモン」「抗生物質」等がどう管理されているのかも大きな問題ですが、それに関してはここでは考えません。
ま、東南アジアと言えば昔から「水でもあたることがある」わけで、飲水はもちろんのこと、水で洗ったサラダでもあたることがある。
我々日本人は「サラダが危ない」なんてことを考えたことはないのが普通ですし、飲水は注意するにしても「食べ物全般」がどういうふうになっているのかはわからない。これはスーパーやマーケットで売っている食材はもちろんのこと、レストランで出される料理も同じ。
これらの危険から逃れるには「加熱」しかないんじゃないですかね。そもそも生ものを平気で食べる日本人が世界的に見れば「不思議な人種」であるわけで、それを前提として流通や素材管理が構築されているという特殊性を我々はきっちり認識していないと危ない。
でも加熱すれば多くの危険からは回避できる。
では「何度でどういうふうに加熱すれば良いの?」ってのがいちばん重要なんですね。
この辺を突き詰めて考える人って意外に少なくて、豚のステーキやソテーならウェルダン、薄切り肉やコマ肉では当然きっちり火を通してしまうようなことが普通に起きる。
こんな人生つまらないと思うのは私だけじゃないはず。
そして衛生管理を司る日本の公的機関も「牛ステーキも豚肉もしっかり焼けとは言っていない」のを我々は知る必要があると思うんです。ちゃんとしたレストランは素材の管理もちゃんとしているはずですが、「調理温度」も考えているんですね。素材が良いから安全なわけでもない。
つまり、我々が「安全な調理温度」を知れば、あれもこれも怖いからと言って「ぱさぱさになるまで火を通す必要はない」ってことだと思うんですよ。また逆に「俺は危ないのを承知でミディアムれを食べる」なんて馬鹿なことも起きない。
今日の豚肉も同じことなんですね。「火を通しすぎては美味しくない」というのが番組の主張ですが、それは決して「危ない温度で調理しろ」って言っているわけじゃない。
どういう食品はどういう温度でどうしろと厚生労働省は指針を出していますが、我々が「常識として知るべき温度」はこれだけと言って良いと思うのです。
厚生省の指針 (特定加熱食肉製品)
55℃ 97 分
56℃ 64 分
57℃ 43 分
58℃ 28 分
59℃ 19 分
60℃ 12 分
61℃ 9分
62℃ 6分
63℃ 瞬時
この指針に則って調理すれば「ステーキのレア」も「柔らかくて美味しい蒸鶏」も「ピンクがかった豚肉」も「生のように見えるゆで卵」でも安心して良いってことじゃないんですかね。
この温度を理解しているか理解していないかで「食生活は大きく変わる」はずなんですね。
十分に安全なものなのに、パッと見ただけで「これ危ないんじゃないか?」とか「温泉卵でもあたるかもしれない」なんて「非科学的なことをいつまでも言う」のはやめたほうが良いと思うんですよ。うちのヨメさんがそれです。(笑)
でも調理温度とは別に、調理道具や調理人の衛生管理、調理済みのものの扱い方一つで「危険は増大」するのはアタリマエのこと。
このブログは低温調理に興味がある読者がそこそこいらっしゃっるのですが、こういう温度の知識がなくて低温調理はできないんですね。そして敢えて低温調理とは言わずとも「美味しく食べるのに適した調理温度」ってのはあって、それは経験上知っている人は多いはずですが、「その温度って衛生管理上どうなんだ?」という知識は絶対に必要だと思うんですよ。
低温調理をやる人はわざと「ギリギリの危ない温度を使ってみる」のも良いと思うんです。それを食べた時の食感とか見た目を覚えてしまえば、その知識が自分や周りの人を助けることになりますから。「なんとなく危ないとか、大丈夫とか」そういう根拠の無いことは考えなくなるはず。
「とにかく良く焼けば良いんだよ」「そうそう、豚肉はしっかり火を通さなくちゃね」なんて時代はもう終わりにした方がよいんじゃないかと・・・。
最後に私たちに幸せを与えてくれる豚さんに愛をこめて作った曲を捧げます。(笑)