マハティール氏が中国を訪問し、「一帯一路」関連事業中止に関して理解を求めた。つまりあの新幹線に関してですね。
「一帯一路」関連事業中止、マレーシア首相明言
【バンコク=幸内康】AP通信などによると、マレーシアのマハティール首相は21日、訪問中の北京で記者団に、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する鉄道建設などの大型事業を中止すると述べた。
マハティール氏は20日に中国の習近平(シージンピン)国家主席、李克強(リークォーチャン)首相とそれぞれ会談した際にも中止の意思を伝え、中国側も「理解し受け入れた」という。
マハティール氏は将来的な事業再開の可能性は否定しなかったものの、「マレーシアの現在の焦点は債務削減にある」と述べた。中止により補償金が発生すれば支払う意思も示した。
中国外務省の陸慷(ルーカン)報道局長は21日の定例記者会見で、「どんな2国間でも協力を進める上であれこれ問題が出るのは避けられない。友好的な話し合いで適切に解決すべきだ」と交渉を続ける考えを示した。
同じニュースを前にも紹介した「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」のメルマガで読むとちょっとニュアンスの違いを感じます。
★小誌通巻5800号記念号
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成30年(2018年)8月21日(火曜日)弐
通巻第5800号
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~マハティール訪中。マレーシア経済、最悪の問題は対外債務だった
トルコ制裁によるリラ暴落がドミノでアルゼンチン、ブラジルへ
*************************************マレーシアのマハティール首相は五日間の日程で8月17日から中国を訪問。まず浙江省に足を運び、アリババ本社と吉利(GEELY)自動車を訪問した。
20日には李克強首相と習近平出席に別個に面談した。
李克強との会談では、「中国とマレーシアの友好関係は変わらない。自由と公平な貿易の持続と発展を希望している。ただし新幹線工事の中止についてはマレーシアの財政事情を考慮して欲しい。中国が悪いとは言っていない。悪いのはナジブ前政権の無謀な計画と汚職である」と言った。共同記者会見ではマレーシア新幹線の話は出なかった。
マハティール首相の老練さ、中国を正面から批判せず、国内の劣悪な財政環境と前政権に責任を転嫁して、まずは中国との交易の拡大はお互いの利益のために発展させると言ったのだ。習近平との会談は同日(8月20日)に行われ、楊潔チ国務委員らが同席した。席上、マハティールは「インフラ建設での協同強化」と「戦略的対話の重視」を述べ、通貨スワップに合意した。
8月18日の杭州アリババ本社訪問では馬雲CEOが直接応対し、説明役も務めるなどの厚遇ぶりだった。同社はクアラランプール國際空港近くに拠点を解説したばかりだが、マレーシアの交通渋滞の解消などでAI設備の交渉を続けている。また仮想通貨のノウハウなどにもマハティールは興味を示した。
同じく吉利自動車を訪問した理由は、マハティールの強い個人的な関心からだ。
嘗て国民車プロトンを三菱自動車などと提携で立ち上げたのは彼自身だった。その後、マレーシアの国民車プロトンは円滑な販売実績が上がらず、昨年に中国の吉利に買収された。思うところが深いのはそのためで、再度、マハティールはマレーシア国民車の離陸を夢見ているのである。そこで問題視されるのが、マレーシアの債務問題である。
まずは下記の一覧表をご覧頂きたい。世界の数ある新興国家のなかで、ワースト15を掲げる。
深刻極まりない新興諸国の財務状況
@@@@@@@@@@@@@@@@順位 国名 対外債務(単位=億ドル) 対GDP比較
~~ ~~~~~ ~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~
1 モンゴル 239億ドル 215・3%
2 キルギス 80 110・9
3 ラオス 142 83・5%
4 タジキスタン 49 67・1
5 マレーシア 2004 63・7
6 トルコ 4667 54・9
7 南アフリカ 1832 52・5
8 アルゼンチン 2537 39・8
9 メキシコ 4540 39・5
10 ロシア 5199 34・0%
11 タイ 1527 33・5
12 ブラジル 6809 33・1
13 パキスタン 727 23・9
14 フィリピン 732 23・4
15 インド 5297 20・3モンゴルが対外債務を中国に依存した大きな理由は、旧ソ連衛星圏としての桎梏から逃れるため直接投資を歓迎したからだった。モンゴルが外貨稼ぎで売るものは石炭しかなく、それもアクセスが悪いため中国にしか販売ルートがない。石炭鉱区を担保に結局は中国からカネを借りた結果である。
キルギスはロシアへの出稼ぎでGDPの25%を占める。つまり旧ソ連という宗主国を敵には回せないが、中国がシルクロード関連で投資をしてくれるのでつい乗ってしまった結果である。
ラオスも同様、新幹線の総工費が60億ドル。絶望的な投資受け入れも、一党独裁だから出来たが、末端の国民の不満は加速化している。▲だれが、これだけの対外債務を膨張させたのだ?
意外なのはマレーシアがワースト5になっていることだ。
マレーシアの財政健全化、汚職追放を前面に掲げて選挙に奇跡の勝利をとげたマハティールが日本訪問につづいて、シルクロード問題で揉める中国を訪問した理由は、このあたりにあると言えるだろう。中国が主導し、東海岸のおよそ20%の工事が完了した段階での中止だけに、中国は怒りをひめているものの、このマレーシア新幹線総工費は200億ドルと予測されており、3300万国民、対外債務が2000億ドルを超えている国の規模には、やはりふさわしいとは言えないプロジェクトだったのである。
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ここでしっかり見たいのはマレーシアの対外債務。
順位ではワースト5位ですが、「国名、金額、対GDP比」をよーーく見て、それぞれの国を考えると、マレーシアはトップを走っていると言って良いと思います。
順位 国名 対外債務(単位=億ドル) 対GDP比較
~~ ~~~~~ ~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~
1 モンゴル 239億ドル 215・3%
2 キルギス 80 110・9
3 ラオス 142 83・5%
4 タジキスタン 49 67・1
5 マレーシア 2004 63・7
6 トルコ 4667 54・9
7 南アフリカ 1832 52・5
8 アルゼンチン 2537 39・8
9 メキシコ 4540 39・5
10 ロシア 5199 34・0%
11 タイ 1527 33・5
12 ブラジル 6809 33・1
13 パキスタン 727 23・9
14 フィリピン 732 23・4
15 インド 5297 20・3
本当に誰がこうなるように進めて来たんですかね~~。
中国が一帯一路というアジアとヨーロッパを海と陸でつなぐ構想って、そりゃ「凄いねぇ、良いねぇ」なんて思うわけですが、これが出てきた一番の理由は「膨張する中国経済」を維持するためで、余った建設リソースも国外で使うってことですよね。そしてAIIBもそれの後押しをする。
結局、中国が海外で何をしているかというと「無くても構わないようなインフラを押し付け」「金は中国が援助。でも高金利」「建設は中国企業が中国人を使う」「援助された国が借金を返せない」そしてそして、中国は「じゃぁ、港湾施設を99年貸してくれ」とか中国の世界戦略に使える重要拠点を中国が押さえていく、そして国際政治の中では中国に肩入れするしかなくなるという筋書き。またずさんな計画で「計画通りに進まないところが多発」。
これが世界中で起きている。
こんなニュースもあった。
【サモア首相、中国への債務帳消し要請は「不誠実」】(ここをクリック)
サモアのツイラエパ・サイレレ・マリエレガオイ(Tuilaepa Sailele Malielegaoi)首相は20日に掲載された地元紙サモア・オブザーバー(Samoa Observer)とのインタビューで、太平洋の島しょ国が共同で中国に債務の帳消しを求めようという呼び掛けた。これに対して中国が「不誠実だ」と反発。
中国が南太平洋に触手を伸ばしていることを見逃しちゃ駄目だと思うし、これまた本当に日本では無視されているけれど、「ガダルカナル」に中国は拠点を作ろうとしていたんですね。あの場所ってどういう場所なのか私はイマイチよくわからないのだけれど、戦時中、日本軍がガダルカナルをかなり無理をして手中に収めようとしていたのは誰でも知っていること。これには中国べったりでダーウィンの港湾施設(アメリカ軍基地も近い)を中国に99年貸しちゃったマヌケなオーストラリアも中国の本音が見えたんでしょう。アメリカと組んで、どうにかそれを阻止した。こういう動きがあるから南太平洋に利権を持つフランス、そしてアジアとは縁が深いイギリスも動き出したんですね。
でももうこの中国の甘言に乗って国が傾いてしまった発展途上国はいくつも存在し、これに関して今年に入ってからIMFも警告を発していた。
【一帯一路、「問題ある債務増加」課す可能性 IMF専務理事】(ここをクリック)
【4月12日 AFP】国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)専務理事は12日、中国・北京で開催された「一帯一路(One Belt One Road)」に関する会議において、同構想が他国に「問題ある債務の増加」を課すことにつながる可能性があると警告した。
一帯一路は中国の習近平(Xi Jinping)国家主席が掲げる大経済圏構想で、アジアからアフリカ・欧州にかけて数十か国で計画されている道路、鉄道、建設事業に1兆ドル(約100兆円)が投入される。
しかし多くの事業が中国の国営企業によって進められ、また、財源が中国からの貸付金となっていることから、パートナー国が中国政府に負う債務は巨額なものになっている。
ラガルド氏は中国や諸外国の当局者らを前に、「このような投機は問題ある債務の増加にもつながりかねず、債務返済の負担の増加で他の支出が抑制され、国際収支に問題が生じる可能性がある」と述べた。
すでに巨額の債務を抱える国などは、国の重要資産を中国政府に手渡さざるを得ない状況に陥っている。スリランカは債務返済のため、交通量の多い東西の運輸ルートである南部ハンバントタ(Hambantota)港の長期貸借の権利を中国企業に譲渡する契約を結んだ。
ラガルド氏は、問題回避のために全ての利害関係者が共通理解を持つよう、さらなる透明性と強調が必要だと主張。インフラ投資は「ただではない」と警鐘を鳴らすとともに、大規模な投資事業は当局者の汚職の可能性も生じると指摘した。(c)AFP
大量な金をバラマキ、そして返済できなければ「インフラをよこせ」と取り上げていく。これってヤクザと全く同じ。
でも中国がこれを出来るのは豊富な資金があるからで、その原資は「対米輸出黒字」ということ。中国は国債を発行せず、どんどん入ってくる米ドルを元に輪転機をフル回転させて人民元を擦りまくった。
この暴走を誰がどうやって止めるのか。
ここで立ち上がったのがトランプ氏で、「アメリカの貿易赤字を減らす」というアメリカの為だとしながら、中国の暴走を止めようというのが主旨でしょう。中国の暴走は軍の拡大もあり、そしてアメリカの知的財産までも盗み取る様な企業買収を繰り広げ、だまっていればよいのに習近平は「アメリカを抜く」なんて公言しちゃうもんだからトランプ氏も黙っていられなかったんでしょう。そして今のままこれが続けば、間違いなく中国は世界一の経済、軍事大国になり、世界の要所要所に軍事拠点ができてしまう。
それも自然の流れだということも出来るけれど、中国のやり方は公平公正ではないのが問題。習近平が世界に対して「自由貿易主義を貫く」なんて笑い話みたいなことを言うわけで、その言葉だけを聞けば、中国が正しくて、保護貿易に走っているアメリカが悪く聞こえるじゃないですか。でも現実は、中国は簡単に海外に進出できるけれど、中国国内に外資が簡単に参入できるようにはなっていない。それは資本の自由化の問題でもあり、まず人民元が「変動相場制ではない」のも大きな問題。中国は海外の不動産も買いまくったけれど、中国国内では外国資本は不動産を買うこともできず(全て国有地)、そして企業買収だって簡単にはできない。株式市場も共産党のおもちゃみたいでメチャクチャなことを平気でする。中国は自分のところは開放せずに、自由経済諸国でやりたい放題やっている。
中国の快進撃は、そういう偏った制度の上に成り立っているわけで、それを正さなくてはならないのは当たり前だと思うんですけどねぇ。だから私はトランプには「世界が感謝すべき」だと思うくらい。
マレーシアもうまい具合に中国に取り込まれていたってことですが、丁度良い時期に政権交代ができましたよね。もしナジブ氏に「汚職疑惑」も何もなかったら政権交代が起きたのかどうか。
でもま、中国が海外の国に無理やりインフラ投資をやらせられるってことは「その国の腐敗した政治」と関係が深いのはどの国も同じなのかもしれませんね。
中国が他の国と同じ基準を持って競争するなら良いのだけれど、自国だけは自由経済諸国とは全く違う基準を保ったままってのは「攻めるけれど、攻められることはない」のと同じで、こりゃどう考えても駄目ですよね。
この中国包囲網はどんどん進んでいるわけですが、どうも日本を見ていると「親中派」が多く、中国を守る側についた発言が多いと感じます。
自分の企業なり、業界なりが儲かればそれで良いというのがミエミエ。
でも彼らはグローバリストで、「利益があるところにはどこでも出ていく」のが基本ですから、「世界がどうあるべきか」ではなくて「どこへ行けば儲かるのか」のほうが大事。
どうしこうも世の中って貪欲になっちゃったんですかね。
でも今回のことはアメリカも本気だと読んで、「アメリカの中国包囲網に反することをすれば、アメリカが黙っていない」と警鐘をならす専門家もいて、「中国はまだ金づるだ」なんて調子に乗っているとうまくないだろうというのは私にも想像できる。
それって今回のイラン問題と似ていて、「イランから原油を買ったら制裁する」とアメリカは言ったわけで、これは日本にとっては死活問題。ここで「日本には日本の立場がある」と安倍さんが言うかと思ったら、すんなりアメリカの言うことを聞いた。これって「ロシア制裁」のときとは違う動き。
それだけアメリカは真剣だということじゃないんですかね。
中国包囲網はどんどん進んでいて、日本ではあまり報道されていないけれど、EUとのEPAも中国包囲網だと思う。EPAとFTAって「関税がなくなるんでしょ?」と同じに考えたら駄目で、FTAはまさにfree trade agreementだけれど、EPAでは「関税がない」のは多くの項目の一つでしか無くて、「人、金、物」の自由な動きを保証する包括的条約だから、「中国は絶対に参加できない」んですね。これはTPPも同じで、いつか中国もTPPへ参加するみたいなことを聞いたことがあるんですが、絶対にこの条約には入れない。
入るためにはかなり進んだ自由化が必要で、それは共産党独裁政治の崩壊を意味する。
でもアメリカは中国の変化を要求しているわけで、でも中国が共産主義を捨てるわけもなく、かと言って「初戦である貿易戦争」だけでも中国が勝てる見込みはない。アメリカは次に「通貨の変動相場制」を言ってくるはずで、そして次には「資本の自由化」と、トランプ氏はそこまで言及していないけれど、その作戦を持っているのは間違いがないと思うんですよ。最近は「人道主義」の観点からも中国叩きをやりだしたのは私は大歓迎したいと思いました。そもそも中国がチベット、ウイグル、南モンゴルに侵略し、「人種浄化政策」を取っていることに日本も含め、どの国も何を言わなかったのが不思議だし異常で、世界中で言われている「法を守れ」「嘘をつくな」「人権を守れ」なんてのは大嘘だと思っていた私。これは日本の左翼リベラルも同じで、「日本の侵略」に関しては今でもガタガタいうくせに中国には何も言わない。「戦争反対」と国会前でデモをする人たちは、なぜ問題の根源である中国には何も言わないのか。本当に日本の左翼リベラルは極度のバカか、大うそつきかどちらかだと思いますわ。死んだ人に文句は言いたくないけれど、沖縄の翁長知事も同じ。でもアメリカは動き出した。流石だと思いますわ。
中国が侵略をやめるだけで、世界は大きく変わる。でもそれでは中国が生き延びられないってことなんでしょう。
今回の「米中貿易戦争」ってある意味、「真珠湾攻撃」に似ていて、これは戦いの始まりでしかないと思う私。
だから「中国の立場を擁護する立場の日本人たち」もこれからの動きを読み間違えると、制裁対象になってくるはず。それに警鐘を鳴らす専門家も出てきているけれど、そのとおりだと私は思うわけです。
マレーシアも変わってきた。
それと同じ動きが世界中で加速するんじゃないですかね。上に紹介したサモアもそのひとつでしょう。この動きが広がれば中国の快進撃が今まで通り続かないであろうことは簡単に想像できるけれど、ではどうなるのかは全く見えないし、それは中国がどう変わるのかに掛かっている。
な~~んて思っていると、嘘でしょ?なんて思うところで米中が話をつけちゃうこともあるのかもしれない。トランプ氏の本心が見えない。ま、見せないのが彼のやり方だと思うけれど、将来がまるで見えてこないってのは不安ですよね。
習近平独裁政権も7月に入ってから今までとは違う動きが見えていたわけで(あの墨汁事件も同様)、8月恒例の「北戴河会議」(中国の重鎮が集まる非公開会議)ではアメリカとの摩擦や一帯一路政策の停滞、そして習近平の「個人崇拝」に関してかなり揉めて、場合によっては「習近平の失脚さえもありうる」と言われていたのが、大きな話題も外に聞こえてこないし、習近平独裁はそのまま。でもこの会合で習近平がなんらかの約束をさせられた可能性もあるわけで、これからの変化に注目。
でもマレーシア在住者としては、私が尊敬するマハティールさんが復活したこと、そして「中国依存」からの脱却を明確に示したことは嬉しいと思うなぁ。ナジブさんがそのまま続投だったら恐ろしいことになったんじゃないですかね。