私の趣味の一番は低温調理で、このブログにも低温調理のことはよく書いています。そしてこのブログに「検索で飛んでくる読者」は低温調理関係が半分ぐらい。つまりこのブログは低温調理のブログというのが正しかったりする。(笑)
私のこの低温調理の趣味って結構長くて、このブログに書いている内容も初期の頃と今とは随分違っています。はっきり言えば、初期の頃は「勘違いも多かった」のは間違いがなくて、一番大事なことを書いていなかったり。
だから定期的に似たような内容のことを最新の情報を交えて書くようにしています。
危ない調理をプロもやるようになってきた
先日、こんなニュースを見つけました。
低温調理ブームで「危ない調理をする人たちが多い」のは私も散見することがあるのですが、低温調理ブームはプロの中にも広がり「危ないものを平気で提供する店がある」と、警鐘を鳴らすラーメン店店主がいるとのニュース。
これってとんでもないことで、素人が自己責任で危ないことをするのはまだしもプロはうまくないですよね。
厚生労働省のしっかりしたガイドラインがあるわけですから、ちゃんとそれに沿ってやらないと、「ユッケ、レバ刺しの提供が禁止になった」ようなことがまた起こりかねないですから。
厚生労働省が定めている安全基準
さてここで問題なのは、厚生労働省が出しているガイドラインはどういう内容なのか。
意外なのはこれに関してはっきり書いてあるサイトって少ないんですよ。あるいはミスリードするようなことが書いてあったり。
よく見つけるのは「63度で30分」という記述。あるいは「75度で1分」。
この温度と時間で低温調理をするのに問題がなければ、その温度以上を使えばよいわけですが、一般的に低温調理はまさに「低温」を使うんですね。
私の場合ですと、材料とか部位、脂の乗り方などで変えますが、大体「54度~67度」です。一番多く使うのは55度~58度ってところ(牛肉の場合)。
つまり、「63度で30分」「75度で1分」が基準だとすれば、私が使う温度は全く駄目ってことになるんですね。
「63度で30分」「75度で1分」でなければならないのか
本当に駄目なのか?
ここをきっちり調べているサイトって少ないので、ここをちょっと深堀りしてみます。
実はこの「63度で30分」「75度で1分」は【同等の効果がある】と考えれば良いと私は理解しています。どちらが正しいかではない。
なにそれ?と思いますが、温度と時間の関係でそういうことが起きる。では60度では?56度では?と思いますよね。
それは計算でだいたい分かるわけですが、その説明はこのブログが良いと思います。
食品衛生法の中で、「63℃30分と同等以上」や「75℃1分と同等以上」という加熱条件がよくみられます。しかし、この「同等…
この中で出されている票を引用します。(クリックすると拡大します)
この表から見ると、55度の場合、そしてZ値を8だとすると5時間でOK。58度なら約2時間。60度なら約1時間11分となる。
私としては厳密にこれを守ることはしませんが、一応、大雑把に頭に入れてはあります。
問題は肉の外側に付いている雑菌
また「雑菌が付いているのは【肉の表面がほとんどである】」という点に私は注目していて、例えば牛肉でも鶏ももでも「肉の外側を消毒する」という考え方を持っています。どう消毒するかはその時その時ですが、
○ 真空パックをする前に熱湯で湯通しをしたり
○ 真空パックしてから80度ぐらいの高い温度に数分付けたり
(鶏肉は水道水で洗うことも多い)
なぜ私はそうするのかですが、それは厚生労働省が説明しているあることがあるから。
これです。03:00辺り。
この動画は厚生労働省の公式な動画ですが、同じく公式の「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A」の中でも書かれています。
肉塊の表面から深さ1cm 以上の部分までを 60°Cで2分間以上加熱する方法又はこれと同等以上の効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない。
つまり、表面を加熱殺菌すれば良いという意味。
そして、こんなことも書いてある。
ステーキの場合ですが、中はレアであったりミディアム・レア、ミディアムのように、63度に達していないのが明らかなのに、問題なくそれは飲食店で提供されていますよね。
なぜ?
なお、ステーキについては、これまでのところ腸管出血性大腸菌及びサルモネラ属菌を原因とする食中毒事例が報告されていないことから、本規格基準の対象にはなりません。
これからも、「周りを焼くなり熱湯にさらすなりして殺菌消毒」すれば、中はナマでも構わないということ。実際に、ユッケなどの生肉の提供は禁止されていますが、「提供しても良い肉」はあるんですね。それは「生食用」であり、【周りをトリミングした肉】。
これになおかつ、上の「63度で30分」「75度で1分」と同等な温度で低温調理をすれば、かなり安全だと思って良いのではないでしょうか。
ただし問題もある
肉の外側だけが危ないとするなら、ミンチや薄切り肉を合わせたもの、決着肉は駄目ってことですよね。またレバーの様に「血が多いもの」も危ないと思います。ですから私はレバーの場合は「かなり芯温を気にする」ようにしています。
またオーストラリアに良く売っている「ローストビーフ用のブロック」はブライン液が注入されたものもある。また多くの刃が付いたテンダライザーでブスブス刺された肉であったり。こういう肉は、「内部まで細菌が入り込む可能性は高い」と言われていて、表面だけ焼けばOKというのは通用しない。
また私の実家は飲食店だったからよく分かるのですが、実は、「食中毒」は【素材以上に環境が問題】だと思っています。つまりそれは「手」であり、「まな板」、「包丁」、「布巾」であったり。これらに注意を怠るのが私は食中毒の最大の原因だと思っています。
そして鮮度や「どんな店から買ったのか」も大事だと思っています。特に私達の様に海外在住ですと「ローカルの人達の衛生管理は日本と違う」のを目にすることが多い。スーパーの肉売り場でも、中の作業を見ていますと、嘘だろ?なんて思うこともあります。
また調理後にどう扱うかも大きな問題で、実は私達家族はマレーシアに来て5年目に入りますが、一度だけ食あたりになったことがあります。それはワンウタマのイオンの前で売っていた「焼き鳥」でした。それを買ってホテルの部屋で飲み会をしようと思ったところ、ヨメさんが焼き鳥を口に運んだ瞬間、「これ、駄目!」と吐き出しました。
吐き出したのにヨメさんはあたってしまい、なんと1週間、ホテルで寝たきり。
家で調理をする低温調理も同じで、マレーシアは常に高温多湿で雑菌が大運動会をするような状態。その辺もちゃんと考慮しないと、いくら調理時に気を使っても意味がありませんよね。
絶対に持っていないとならない道具
低温調理をする方は増えて、ブログにも「こんなのを作りました~」と画像を出しているケースが良くあります。
そんな時に、「この人は芯温を測っていないな?」と思うケースが結構あるんです。
上で長々と書いた調理温度ですが、それは「芯温」なんですね。決してお湯の温度じゃない。
つまり、63度で30分だとしても、それは芯温がその温度になって30分と言う意味であって、低温調理の温度を63度に設定して、そこに投入してから30分じゃないわけです。
ここは非常に大事で、お湯が沸騰している様な状態でも「芯温が上がるのはかなり時間がかかる」んですよね。ましてや63度という温度に「そこそこ大きなブロック」を投入したらどうなるのか。
ここを考えない人って結構多いと感じます。
でも63度に達していればまだ良いですが、その温度にも達していないケースが結構あるのね。
それは写真を見ると大体わかります。例えば58度で低温調理をしましたなんて書いてあっても、そこに写っている写真の牛肉はまっかっかのレアだったり。
特にちゃんとした低温調理器ではなくて「ヨーグルトメーカー」などのワット数が低い非力な器械を使うとそうなるケースが多いのがネットを見て気がついたことが数度ありました。
つまり、何よりも大事なのは「芯温を測れる温度計」で、これがないとお話にならないと思います。
ただ低温調理中は「お湯の中に浸かっている」し、「具材も真空パックされている」のが普通ですから、計るのは簡単ではありませんが、芯温を計る癖を付けるだけで、何度かやっている内に芯温が設定温度に達したのかまだなのかは大体分かるようになるはず。
低温調理器で大事な機能
私の大事だと思う順番で書きます。
1 ワット数が高いこと。(目標の温度にするまで時間が掛からない)(具材が大きいとかなり時間がかかる)
2 お湯の撹拌機能がしっかりしていること。(これが弱いと【真冬のお風呂】みたいにコールドスポットができる)
3 温度が正確であること。(温度を合わすキャリブレーション機能がついていれば良いですが、一般的に低温調理器の温度計は貧弱で、かなり誤差が大きいと思ったほうが良い。そもそも正確な温度計だけでも一般的な低温調理器より高価なのが普通。私は、体温計は非常に正確ですので、それを使って37度辺りの温度でどのくらいの誤差があるかを確かめます。正確な温度がわからないと情報交換がまるで出来ません。素晴らしいブログを見つけて真似をしようと思っても、そこに書いてある温度が正確なのか、自分の器械では何度と表示されるのか、それさえもわからないのですから。でも誤差がわかっていればOK)
安全性に関してどこから情報を得るか
これも非常に大事で、ネットを見ていると「伝言ゲームか?」みたいに感じることがあります。どこかのブログに書いてあったとか、メーカーのサイトに載っていたとか、それがどんどん独り歩きして広がっている感じを受けます。
そういう意味では、私のブログに書いてあることも絶対に信用するべきではなくて、やっぱり大事なのは「公の機関」から情報を得ること。これに尽きると思います。
ただ厚生労働省にしてもアメリカのFDAにしても、わかりやすいとは私は思いません。でもそれを基準に考えないと駄目じゃないんですかね。
わかりずらいから「解説をしているサイト」を参考にするのはよくあることですが、そういう場合は、必ず公的機関なりのページのリンクを貼っているところを見るべきだと思います。
これはどんな有名な料理人とて同じで、私も低温調理に関する書物はそこそこ読みましたが、中には「これ、違うんじゃないかな」と思うようなところもあるのね。
ああ、先日、こういう嘘だろ~~?みたいな「プロの低温調理の動画」もありました。
こんなのを参考にしたら大変なことになるんじゃないですかね。
これが駄目な理由はわかりますよね。まず温度が低すぎるのと、寄せ集めの肉を使っている。これって最悪で、絶対にやってはならないことだと思います。わざわざ雑菌を培養しているような調理。
こういうのって間違えということもあるけれど、「解釈の違い」もあると思うんです。そしてその解釈がどうあるべきかは、自分がやっぱり公的なものを見て、そこから自分なりの解釈、理解を得ないとならないんじゃないですかね。
また詳しく掘り下げたことを知りたい場合、参考になるブログはこことか。
上にも紹介したこことか。参考になるエントリーがいろいろあります。
食品衛生法の中で、「63℃30分と同等以上」や「75℃1分と同等以上」という加熱条件がよくみられます。しかし、この「同等…
そして「低温調理そのもの」に関しては、個人のブログの「低温調理」ではなくてプロの「スチームコンベクションオーブン」絡みで調べると良いと思います。まさにホテルや大型レストランは大量の均一の料理を作らなくてはならず、そしてその場合の低温調理はスチームコンベクションオーブンを使うわけで、プロは何に注意しながらどんな料理をつくっているのかがわかります。
ただこういう言い方は良くないかもしれませんが、病院や学校の「給食」のプロは安全管理意識が我々一般とは全く違う次元の厳しさで、「家庭料理」には参考にならないような気もします。病院や学校で「レアのステーキ」なんて出しませんし。(笑)
でも小さなお子さん、年寄り、病弱者がいるご家庭なら、そういうプロの目線は非常に大事だと思う。
低温調理に関しては書きたいことが山程ありますが、今日はこのへんで・・・・。
Let’s enjoy sous vide life !!