ちょっと気になったことがありますので、忘れないように書いておこうと思います。
食品添加物の中に「硝酸塩」「亜硝酸塩」なるものがあって、これは清酒、チーズ、ハムなどの食肉製品に普通に使われている。これの存在を知ったのは豚のバラ肉からパンチェッタを作ろうと思って、その製法を調べていた時にわかったこと。日本国内でハムやベーコン、あるいは燻製を自作する人は多くいるが、この硝酸塩、亜硝酸を使うという記述は私は見たことがない。
ところが、アメリカやオーストラリア等の肉の本場では一般の趣味人が塩漬け肉や燻製を作る場合に、この添加物は必ず話題に出てくる。Nitrate(硝酸塩)でありNitrite(亜硝酸塩)。これそのものを調べると肉の発色が良くなると書いているサイトも多いけれど、元はボツリヌス菌をやっつけるためにヨーロッパで作用が発見され世界に広まった。肉社会では普通の食品添加物。
ところが、健康志向が広まる中でこれが問題になっている。硝酸塩は亜硝酸塩と変化し、その亜硝酸塩の毒性が非常に高いということ。これが大量に人間の体内に入るともちろん死ぬし、微量でもアミンと反応し発がん性の高いニトロソアミンとなる。
さてボツリヌス菌による事故が世界でも減っているのはこの添加物が使用されているからと言っても良いはずだけれど、それ自体に発ガンに繋がる危険があったらどうするのか。ここで健康オタクはそれらが使われていない食品を摂るべきと考えるのが普通。
ところがややこしいのは、ではこのニトロソアミンを作り出す添加物を使うのが悪いとするならば、硝酸塩、亜硝酸塩をそのものが元々含まれている食品はもっと悪いはずで、それは何かと言った場合、それのトップはなんと「野菜」。その順位はターサイ、その次にサラダ菜、菊菜、ほうれん草、チンゲンサイ、おおさかしろな、ゴボウ、サニーレタス、白菜、さやいんげん、レタス、カイワレ大根、キャベツ、ナスと続く。特にこのトップ5はかなりの含有量で、ニトロソアミンを創りだす添加物が入っているハムが危ないどころの話ではない。
自然のものなら大丈夫だという信仰は嘘となる。肉製品の添加物で癌になるのなら、菜食主義者はもっと危ないことになる。
では実際にほうれん草を食べ過ぎて癌になる、あるいは死に至ることなんかあるのかが気になってくるわけで、その辺を調べてみると、実際にそういう例があった報告が存在する。特に乳幼児にはインパクトがあるのだろうが、ほうれん草が原因で中毒事件がアメリカで相次いだこともあった。1956年のブルーベリー事件では「裏ごししたホウレンソウを離乳食として与えたところ、赤ん坊は真っ青になり30分もしないうちに死亡に至ったのである。278人の赤ん坊がこの中毒にかかり、そのうち39名が死亡した。」とのこと。
そもそもその硝酸塩がなぜ野菜に多いかというと、硝酸塩は窒素から発生するとのこと。野菜にとっての窒素は、窒素、カリ、リンの三大栄養素の一つで窒素がなければ植物は育たない。そこで特に緑ものには窒素肥料を多く与えるわけだけれど(鶏糞がその代表)、その窒素がまわりまわって人間に入り、硝酸塩、亜硝酸塩となりニトロソアミンになるという。なんだか、風が吹けば桶屋が儲かる的な話で、理屈としては間違えていないのだろうけれど、健康のためにどうこうしようという話につなげるのは極端の様な気がする。ただ死因がこの硝酸塩であると断定できなかった疑わしいケースは多いと言う専門家もいる。
ま、そんなことがあって、添加物としての硝酸塩、亜硝酸塩は悪者だと決めつける健康オタクは多い。ただ、イギリス農業政策研究会の報告書では、人間が硝酸を摂取するのは飲料水から70%、野菜から21%、肉及び肉調製品から6.3%となっている。その添加物が入っていない肉製品を食べないとするのなら、当然、硝酸塩を含む野菜は食べるべきではないのだろうし、水も気をつけなければ何の意味もないということになる。
さて、私としてはその添加物を使うべきかどうか。うーーーーむ。
私としては万が一のボツリヌス菌の方がよっぽど怖い。ボツリヌス菌の毒性はフグやサリンの1000倍以上らしい。
ということで、今後はこの添加物を使って作ろうと思う。これがアメリカやオーストラリアでは、個人が作る肉加工品にも普通に使っているから、多分問題はないと思う。
この添加物はNitrate(硝酸塩)、Nitrite(亜硝酸塩)だけれど、長期保存するサラミのような加工品を作る場合にはNitrate(硝酸塩)を使う。またすぐに食べてしまうような加工品にはNitrite(亜硝酸塩)を使う。どこが違うのかというとNitrate(硝酸塩)が時間とともにNitrite(亜硝酸塩)に変化し、実際に効くのはNitrite(亜硝酸塩)であるから。しかしその効果は長くは続かない。だから長期保存するような加工品には効き目が持続するNitrate(硝酸塩)じゃなければ駄目で、それらが含まれている塩漬け用の塩はCure1とかCure2とか、番号が振られていて、入っている物が違う。つまり1と2は代用できない。商品名でもInsta1とかInsta2とか1と2の番号が振られているのでわかりやすい。これはどこでも簡単に手に入る。肉加工を自宅でやるのが普通である歴史のある国には必需品なのだろう。
要約すると、
1はNitrite(亜硝酸塩)が入っていて、すぐに食べてしまうような加工品向き。過熱するもの向き。
2はNitrate(硝酸塩)が入っていて、数ヶ月の長期保存用。サラミとか。あるいは加熱しないもの向き。また2にはNitrite(亜硝酸塩)も入っている。
それらの塩は普通の塩と間違えないように着色されているのが普通。ピンクとか。だからPink saltといった場合、この手の添加物入りの塩をいう場合が普通。ただし、Pink saltという名のピンクの岩塩もあるので注意。
また、この添加物を使った場合、肉が綺麗な赤になるのだけれど、決して発色のための添加物ではない。ただここから先はまだ調べていないのだけれど、赤色が残るのは酸化させない効果があるようで、それが旨味にも繋がっているらしい。この添加物を使ってこそ、あの旨味が出るという論者もいる。もともと日本のように海からの塩を使うのではなくて岩塩を使うことが多かったヨーロッパならではの硝酸塩(岩塩に入っている)であって、これを添加物、そして悪であると考えるのは筋が違うのかもしれない。またボツリヌス菌のボツリヌスはソーセージを意味するラテン語で、大昔はソーセージとボツリヌス菌は切っても切れない間柄だったんでしょうね。またソーセージの本場ドイツでは硝酸塩を使わないとならないように法律で決まっているらしい。
この手の情報は、肉加工の歴史が長く、趣味人も多い欧米から取るべきだと思う。日本での生ハムやパンチェッタ等の火入れをしない加工品の自作情報は狭い範囲で広がっているようで、各ブログを読んでもみんな似たようなところから情報を取り、それがぐるぐる回っているだけのように感じる。これってかなり危いことなのかもしれないし、「衛生管理は自己責任で」という言葉で終わらせて良いものとも思えない。また肉加工品の無添加が最良だという自然食品崇拝もピントがずれているようで、安全と美味を両立させた(もともと岩塩に含まれていた)硝酸塩の存在が肉加工品の世界を花開かせたのかもしれない。でもあえて硝酸塩を使わないことによって美味しさを追求した肉加工品もあるようで、この世界も奥が深い。