最近、低温調理が流行ってきているのがこのブログアクセスを見ていてもわかります。いや、もしかしたら私が低温調理に関して多くの日記を書いているからアクセスが多いだけかもしれません。世界広しといえども、私みたいにグチャグチャと試行錯誤を書き続けている人って他にはいらっしゃらないようですし。
どちらにしても低温調理に興味のある方が多く来てくれるのですが、ではどのページを見ているのか気になって調べてみますと、かなり古いものにアクセスが集中しています。なんでそうなるのか、そのページが検索で出やすいのか知りませんが、私としてはそれが気がかりです。
私は調理のプロでもなんでもなく、日々、面白いから実験を繰り返している中で、常に発見があります。また過去においては「勘違いしていただけ」だと今になってわかることも非常に多いのです。そして低温調理器具もどんどんマーケットに出てきてますし、気が付くと書くようにはしているのですが、追いつけません。そんな中で、過去の書き込みを見てもしょうがないと思うのです。1年前の情報はもう古すぎる。いや半年前のも古い。
そんなことがありますので、ちょっとこの日記に今の時点(2014年8月)で私が考える事。そしてどんな低温調理器が市場に出ているのか主だった製品も書いておこうと思います。
1 低温調理の歴史
まず低温調理ですが、世の中ではこれと「真空調理」がごちゃ混ぜになっています。世界的にこれが広まることになった歴史はフランスが発端だと言われています。一体何が切っ掛けだったかというと、フォアグラの調理です。ご存知のようにフォアグラは脂肪肝で脂をたくさん含んでいますが、これを焼きますとどんどん脂が抜けていくんですね。しまいには脂の抜けた肝臓だけがのこることになってしまう。これを調度良い焼き加減にするにはどうしたらよいか。そして出来上がりを一定にするにはどうするべきか。ここで発案されたのが、脂肪が抜けすぎない適度な温度で長時間調理する方法。
適度な温度を保つには「お湯」の中にいれるのが一番です。歴史の古いオーブンでも良いのですが、空気の熱伝導率は低く、また乾燥しますから簡単ではないんですね。ところがお湯なら熱伝導率は高く、材料が大きくても小さくても管理が簡単。ただし、お湯の中に漬けてしまうと素材から養分が溶け出てしまいます。
そこで、素材をプラスチック袋などに密封し、お湯に漬ける方法が考案された。この時に、素材は真空パックされていないと、空気と触れている部分は熱が通らないですから、空気を抜く。またオイルやブライン(つけ汁)も一緒に入れて、均等に熱が伝わるようにしたわけです。
ですから、これを「低温調理」ではなくて「真空調理」と呼ばれることも多く、英語では「Sous vide」と呼ばれ、これは真空調理を意味するようです。これの発音はスーヴィッドゥって感じでしょうか。元はフランス語で発音はこう。ただアメリカ人は「スーヴィ」と発音することが多いようです。
つまり調理温度は素材、何を作るかでいろいろであって、決して低温に決まっているわけじゃないんですね。でも多くの素材は真空パックされますので、本来は「真空調理」という方が当たっているのかもしれません。素材を「真空パック」し「一定温度で調理」と考えるのが本来のあり方で、「低温であること」はまた別の話。
ではなぜ私が低温調理というかというと、素材を真空パックせずに低温での長時間調理をすることもあるからです。私の場合は「低温であること」が主であって、「真空パック」は別の話。
2 なぜ定温を維持できないと駄目なのか
ここがポイント。例えば肉を焼く、魚を焼く。あるいは煮るにしても、温度って一般的にはあまり気にしませんよね。ただ焼く時間、煮る時間には気を使う程度。そしてそれをどう調節したら美味しくなるのかが、母や祖母から伝えられる家の秘伝なのだろうと思います。あるいは料理学校でも教えることですが、火は「強火」「中火」「弱火」を使い分ける。あるいは「グツグツ煮る」「弱火で煮る」というような表現をします。
こういう大雑把な言い方で「よし分かった!」と思う人がどれだけいるんでしょうか。私にはさっぱりわかりません。これは私が男性で論理的、あるいは科学的な理屈に興味があるからだけかもしれませんが、例えば「強火で焼く」というのを聞いて、同じものが作れるでしょうか。無理ですよね。煮物も同じ。「弱火でコトコトと1時間」で誰でも同じものが作れるのか。
材料の違い、大きさ、重さの違い、また形状の違いで調理方法は変えなくてはならないのだけれど、それは「経験」で覚えるものとされる非常に古い世界だと言わざるを得ません。
特に難しいのがローストビーフの様な焼き物。強火で焼けば外側は焦げて中は生のままなんてのが普通だし、弱火では中まで火が通るのかどうか、時間が掛かるとすればどのくらい掛かるのか、それが分かる人はプロであって素人には絶対に無理なはずなんですね。だから芯温を計るわけです。芯温が65度になればOKとか。芯温計が無ければ初心者には何もわからないと言っていいはず。作る度にギャンブルをしているのと同じ。やっている内に経験である程度わかるようになりますが、では今日はパーティでいつもの3倍の量を・・・なんてことになると全くわけがわからなくなるはず。また丸い形状なのか、細長いのかでも火の入り方はいろいろ。
そこで出てくるのが低温調理です。ステーキの焼き具合ですが、レアで言うと54度から56度。ミディアムレアだと57-59度とかいろいろ言われますが、最初からその温度で長時間調理すれば絶対にその温度以上になることはあり得ませんよね。また長時間調理すればどうしたってその温度は全体に行き渡るわけですから、「焼き過ぎ」「焼けていない」ということは論理的には起きません。つまり、誰がやっても同じ出来上がりになる。また肉の大きさが違う、つまり熱の伝導、時間が違ってもこの方法なら「常に」「同じ出来上がり」のものを作れることになります。
ここが我々素人に取っては嬉しい事で、プロが作るようなものに近づけるチャンスが誰にでもあることになります。またプロも同じで、例えばお昼のランチに「ニューヨークステーキ」を出すとします。毎日何百人という客が来る。さて、何人のシェフで作るのかわかりませんが、バラツキがあったら非常にうまくないじゃないですか。また忙しい時には焼き方が足りなかったなんてことは絶対に起きてはならない。
そこでプロもこの低温調理を使うんですね。ステーキを真空パックし、ミディアムレアなら58度にするとか、その温度のお湯に(例えば)60分漬けて調理をしておくわけです。これを注文があった時に表面だけ焼いて出せば、全く同じ焼き加減のステーキを何百でも即座に出せる。ですから、低温調理機を使うのは特に大型店では普通の様です。
また芯温が60度になればOKという考え方ではなくて、煮込みと同じようなもので長時間、一定の時間を維持しなければならないような料理だとしたら、自動で調理温度を調節できないと非常に困りますよね。でも低温調理機があれば簡単。またオーブンでもそういう調理をするわけですが、素人がやり方を教えてもらってすぐ出来るようなことはあり得ない。でもお湯につける方法ならブレがない。
3 なぜ低温なのか
調理をしない人でもだれでも経験があるのが、鍋物やシャブシャブだと思います。全く調理の知識がない人でも、鍋をボコボコ沸騰した状態のまま具材を放置したらどうなるかはすぐにわかりますよね。エビも牡蠣も小さく固くなって味も抜けちゃう。肉も同じでパサパサで固くなる。シャブシャブも同じで沸騰している鍋の中に放置したら全く美味しくない茹で肉になるだけ。
ではどのくらいの温度が適当なのか。問題はここなんですね。で、答えは一つじゃなくて、素材によってまるで違うし、またどんな料理なのかによっても違う、そして個人個人の好き嫌いがありますからかなりややこしいことになるはずです。これは我が家でも同じで、ローストビーフは55度で2時間以上と私は決めていますが、この出来上がりですとヨメサンはいつも文句を言います。「生だ~~~~~~~~」と。(笑)
例えばこれ。
私としては完璧なロゼだと思うのですが、ケースバイケースで変えないとならないし、ではそれは何度なのか?というのはやっぱり経験を積むしかない。ただ少なくとも、形状や重さでの温度変化を考慮しないで良いので、設定温度だけ気にするばよいというのはオーブンでローストビーフを作っていた時代から見たら大進化だと思います。
では何度にすれば良いのか、時間は?となりますが、ここでそれを書くのは無理だと思います。バリエーションが多すぎますから。ただ私がいつも気にしていることは「タンパク質はある温度で変性を始める」ということ。いわゆる肉が焼けた(火が入って)固くなる温度があるということ(58度)。また「その肉が内部の水分を出しはじめる温度」があるということ(68度)。そしてこの温度も幅があるわけです。
この温度を超えてしまうとタンパク質は凝固を初めて、水分(旨味)も出してしまう。だからその温度の手前で調理しようというのが私の「低温調理」の基本です。
でも難しいのが、固くなる手前なら「美味しいのか?」という一番大事な点。私は牛肉の場合は「美味しい温度」に幅があると感じているのですが、豚肉は狭く感じます。特にトンカツが難しいのはそこだと思っていて、ちょっと火を通しすぎるとすぐ固くなるし、火が足りないとピンクで「これ、大丈夫?」みたいな上がりになりますよね。鶏の唐揚げも同じで、ちゃんとカリっと揚がって、中はジューシーって結構難しいですよね。
鶏肉って結構ややこしくて、例えば胸肉は60度の一時間調理で完璧だと思うのですが、モモ肉や皮はこれでは火は通っているけれどグニャとした「やばくね?」みたいな感触。(笑)
我々が「美味しさ」を感じるのは「火がとおっているか否か」だけじゃないわけで、「火のとおり具合」も大事ですよね。私は焼き鳥が難しいのはそこだと思っていて、あんなものと思いますが何年も修行しないと美味しい焼き鳥は焼けないのもわかるような気がします。
ただ、低温調理が出来るとこういう考え方が出来るんですね。例えば難しい焼き鳥ですが、まず串にさした焼き鳥を60度の低温調理で調理する。これで火の通り具合は問題が無いわけで、これを後に焼くことによって表面の焼け具合だけ注意すればかなり美味しい焼き鳥が素人にも焼けるということになるんじゃないでしょうか。鶏をソテーするのも同じで、まずは低温調理で全体に火を通し、あとはフライパンで焼き目をつけるとか。
4 低温調理をやるからこそ知らなければならないこと
この焼き目、つまり料理科学ではメイラード反応と呼ぶそうですが、これは美味しさを感じる重要な部分で、低温調理では絶対に焼き目が付きませんから、この焼き目に関しては別途研究する必要があると思います。この辺に拘る動画をユーチューブで見ましたが、例えば鶏の胸肉だとします。これを低温調理で調理すれば、柔らかくジューシーな胸肉を簡単に作ることが出来ますが、それに焼き目を付けたいとします。でもこの胸肉をフライパン、あるいはグリルでも良いですが、焼き目を付けている間に折角のジューシーな胸肉がパサパサになっちゃうんですね。これじゃ全く低温調理の意味がないわけです。
で、そのユーチューブの映像では、焼き目をつけるためにわざわざ砂糖水を付けていました(味付けはまた別)。キャラメライズと同じことで、砂糖はすぐに焦げるのを利用するということ。ほんの一瞬で綺麗な焦げ目を付けていました。ただ単に煮たのと同じ胸肉より、ちょっと焦げ目のついたソテーした胸肉のほうが美味しいのは間違いがないと私は思います。
これと同じことがローストビーフでも言えるわけで、他の日記に書きましたが、焼け目の無いローストビーフなんてローストじゃないわけですよね。だから必ず焼き目を付けないとならない。ところが低温調理する前に焼き目を付けますと、低温調理は(煮るのと同じで)焦げ味が全体に回っちゃうんですね。でも焦げ味が駄目ってわけではなく大事な風味ですから、若干焼くのは良いし、そうするべきだと思っています。ただし、多くの方が最初に焼くのは「美味しさを閉じ込めるため」というのは大嘘だと思います。固く焼いたとしてもそれを煮たら味が外にでるのは当たり前の物理現象で、味を閉じ込めることが出来たらノーベル賞もののはず。でも焦げの風味を全体につけるとか、食感を大事にするためであるのならOK。でも低温調理前に「しっかり」周りを焼いちゃうと、焦げ臭さが全体に回り過ぎるので駄目なのもやっている内にわかります。低温調理は「密封調理」でもあるわけで、味や風味が外に逃げないことの「利点、欠点」が両方あるということ。
で、ローストビーフですが、低温調理の「後(調理前じゃない)」には「しっかり」周りに焼き目をつけるのが大事だと思います。これは(私は)かなり時間を掛けて焼く方が良いと思っていて(鶏の胸肉とは逆)、焼きすぎているような周辺部、そして内部は段々と火が通ってグラデュエーションの状態がローストビーフの理想の姿だと思うのです。でもそうやっているつもりでも、外側だけちょっと焼けているだけで中は一律のロゼという、本来あるはずのない姿のローストビーフになるケースが多いです。上に出した写真がそれの良い例で、私はあのロゼの感じは良いと思っていますが、周りがちょっと焼けているだけって違和感がありますし、焼け具合の違いを楽しむというローストビーフの楽しみがないと思います。だから時間を掛けてしっかり焼くのが良いと思うわけです。
上に書いたのを画像で見るとこういうことです。左は焼いたもの。右は低温調理、そして周りをしっかり焼いたもの(キャラメライズド)。私は左の肉が美味しいそうには思えないのですが、ローストビーフの場合はこの画像のように外側から内側にかけて焼け具合が違うのも大事な要素だと思います。でもこの左の写真は外は焼過ぎ、真ん中は生って感じで、これじゃ駄目なんですね。
こういう料理科学に興味があるかたはこのサイトが面白いと思います。料理界の重鎮が集まって、科学的に分析しています。
関西食文化研究会 ← クリック
まぁ、プロの集まりですから我々素人は関係無いような気がしますが、私はこのサイトを見ていてある言葉に感動しました。それは
「何をするにしてもその理由をはっきり理解していなければならない」「理由がないことはやらない」
という点。プロの世界でも親方にそうやれと言われたからそうしているというのはもう駄目な時代なんでしょうね。これって我々素人の世界でも同じで、そういう風に教わったから、料理本に書いてあったから、これが我が家の伝統だから、というような理屈は通用しないし、そこに本物のコツが隠れているのは間違いがないものの、なぜそうしたらそうなるのかの意味を理解できないのは「応用ができない」ことになるわけで、逆に「理屈がわかれば」いくらでも他に流用ができるはずなんですね。そういう意味でも、こういうサイトで「理屈を学ぶ」のは我々素人はわけのわからないことばかりやるのが普通ですから、良いと思っています。そしてその後実際に料理すれば、「なるほどこういうことなのか」と一気に理解が進むはず。
5 温度や時間の設定は結構微妙
何度に設定するかは素材や料理、趣向によって違うわけですが、ではローストビーフならローストビーフに限って考えた場合、ほんの数度の違いで出来上がりに大きな差がでます。ま、当たり前かもしれませんが、私は料理ってたった数度の違いでこんなに差が出るものとは全く考えていませんでしたので、正直驚いています。
これの典型的なのが「温泉卵」あるいは「温度卵」です。たった一度の違いでまるで仕上がりが変わります。
物事には許容範囲ってのがあって、常に完璧である必要はないわけですが、でも例えば温泉卵にしても1個2個作って食べるなら失敗があっても良いですが、我が家では作る時には1パック12個作ります。ですから、失敗すると悲惨なんですね。捨てちゃうわけにもいかないし、「ったくもぉ~~」と食べる度に思うわけです。(笑)
失敗を楽しむという考え方もありますが、私は常に同じものを作れる技術が欲しいと考えます。そこで我が家の場合、これだと思う温泉卵は68度で30分です。これはアメリカの低温調理器具製造販売会社が薦めている方法ですが、それまでは私は短時間の高温で作っていました。75度の17分とか。72度の20分とか。
こんな感じが好きなんですが、中々安定しませんでした。
ましてやかつてはこんな方法ですから。(笑)
ところがちゃんとした低温調理器を手に入れ、いろいろ実験してみると、68度で30分が良いと思うようになりました。温度も大事ですが、時間が長いということは逆に多少時間にブレがあっても大丈夫ってことなんですね。ところが17分とかだとブレが結果に大きく影響してくるということだと思います。
本当は68度30分だとちょっと私には黄身が固いように感じるので、66度30分でやってみますと黄身はドロドロです。たったの2度でもこれだけ違う。では67度で30分はというと、まだ柔らかい感じ。でも68度だと固いと感じます。実際にやってみるといかに温度が微妙かというのがわかるはず。
あとで低温調理器そのものに関して書きますが、適当なスロークッカーだとか炊飯器の保温でやるとか、そんなのはお話しにならないというのがやっている内にわかると思います。でも私もそこから初めて、最初は出来上がりの素晴らしさに感激しましたが、ちょっとバリエーションを変えたり、もう少し火を通したいとか控えめにとか考えた時に、スロークッカーや炊飯器ではどうにもならないんですね。あまりにも温度調節が大雑把すぎる。だから調理時間で調節するようになるんですが、結局、「経験」がものをいう世界で、どんな大きさのローストビーフなら何分か、なんてことは素人には全くわからない。つまり、かつてオーブンで悩んだのと同じことが始まるんですね。
ま、それだけ温度って微妙だってことです。そしてそれと時間が関係してくるから、決して簡単じゃないんですね。でも手探りでオーブンで焼いたり、火の加減はこのぐらいかな?なんて適当にやっていた時代と比べたら、まるで別次元の料理ができることは間違いなし。
6 低温調理器
やっと調理器の話ですが、私が大事だと思う点をまず書きます。
① 温度設定が一度単位で45-90度程度の範囲で出来ること。
② 実際の温度が正確であること。こまめにオンオフがなされないような適当なのは駄目。
③ お湯を強制的に対流させるタイプであること。お風呂を想像すれば対流させないタイプがどうなるかすぐわかるはず。
この3つは絶対に必要で、適当なところで妥協すると、いつか必ず失敗したと思うはず。1と3に関して仕様書を見ればすぐわかりますが、問題は2番なんですね。こればかりは使ってみないとわからない。つまり温度ですが、58度に設定したのに温度は56-60度ぐらいでふらふらするようなものがあるということ。これは多くのスロークッカーのように、温度設定が高いと低いの二種類とか、あるいは高中小の3つとか、そういう大雑把なものに限って、やっぱりブレが大きいと思います。(後記:そもそもスロークッカーは温度調節をする仕組みにはなっておらず、時間を長く掛けるか早くするかの違いで、本来ならLow Highではなくて Slow Fast とすべき。どちらを選んでも一定の時間後には90度以上にまで達する)
また、製品の中には温度調節が細かく出来るようになっているものの、サーモスタットがどこでオンオフするのかは別の話ですから、設定した温度が本当に保たれているかどうかはわからない。でもま、例えば1-2時間調理するようなものであれば、平均温度として58度なら58度が維持されていれば及第点といえるのかもしれませんね。でも私はブレが大きなものは排除したいです。
結局ですね、料理なんて思うようにいかないことが多いのが普通ですよね。そんな時に、この調理器具がおかしいんじゃないかと疑い出すと切りがないんですね。自分が悪いのか器具が悪いのかわからなくて、器具を疑いながら調理を続けるのってかなりストレスが溜まると思います。だからやっぱりきっちり仕事をしてくれる道具は大事だと思います。
次に大事な点ですが、しっかりお湯が対流しないと鍋の中でホットスポットができるんですね。そこだけ熱くなる。あるいは冷たい場所が残る。これは真冬のお風呂を思い出せばすぐわかりますが、あれと同じことが鍋の中でも起こるわけで、上と下と温度が5度以上違うなんてことが普通に起きています。これじゃ低温調理器の意味がありませんから、対流させるタイプかいなかというのは器具を選ぶ時に非常に大事なポイントだと思います。
プロが使うタイプでは昔からこういうのがあるようです。どれも単体で温度設定、時間設定、そして電熱器による発熱部、お湯を対流させる装置付き。これを必要な大きさの鍋なりボックスに入れて使う方法。でもこれらは性能も高い代わりに値段もすごい。10万以上が普通。そして大きくて重い。
手軽なタイプとして出てきたのが有名な名前もそのままのSous Videという製品。価格も10万以下になった。この頃から一般家庭にも低温調理器が入ってくるようになったはず。これはオーストラリアではBreville社が販権を取ったのでしょうか、最近Brevilleブランドで売り出しました。でも価格は499ドル。
その後は、スロークッカーの上位版という位置づけでしょうか、価格も安く温度設定を細かく出来るタイプが出てきた。
Sunbeam社のMu4000 Duo Sous Vide And Slow Cooker In One。199ドル。(後記:2015年5月に入手しました)
また先日読者に紹介されましたが、日本でも1台8役(あたため、煮る、スモーク、焼く、蒸す、炊く、炒める、揚げる) WonderCooker/ワンダークッカー DF-2828Aなるものも出てきて、温度調節が50-210度まで出来る、つまり揚げ物も出来るものが出てきた。アマゾンで8600円。(これ、欲しい。笑)入手しましたが温度調節が簡単にできる器具ではなく、低温調理には使えないと判断し嫁に出しました。(笑)
ただこのジャンルの低価格のものって、上に書いた大事なポイントが押さえられているかどうかが不明なんですね。使ってみないとわかりません。
そして最後に紹介するのが、近年出てきた低価格の独立型の物。一番最初に紹介したプロ仕様に近い、一般向け低価格の商品。私はこのジャンルが好きです。性能は高く、かさばらないのが良いと思います。このジャンルで新製品がどんどん市場に出てきているようです。日本でもこのタイプが普及するんじゃないかなぁ。
私が買ったのはこれ。Anovaという製品で199ドル。もちろん黒を買いました。(笑)
そしてちょっと変わったタイプの番外編。低温調理オタクで自分で調理器を自作する人がいるんですね。要は電熱器とサーモスタットを使って作るわけですが、それの延長線上にある製品がいくつかあります。つまり、スロークッカー等、あるいは電熱器内蔵の鍋を持っていた場合、温度調節でスイッチがオンオフすればそれを流用できるわけですよね。当然アナログ式じゃないと駄目で、デジタル式だと電源のオンオフではコントロールできません。
これも読者の方に紹介してもらったのですが、Codloという製品で、クッカーと電源の間にこの器具をつなげ、この器具から出ている温度感知センサーをクッカーの中に入れるタイプ。これはすでに持っている調理器具を有効利用できるので良いと思いますが、価格的に競争力がなくなってきていると思います。上に紹介した低価格の独立タイプが増えてきていますから。
そして最後になりますが
7 低温調理で絶対に忘れてはいけないこと。安全。
低温調理の危険な所は、衛生上の問題があるということ。主に雑菌の繁殖ですが、低温調理の場合、雑菌が繁殖する温度帯を使うことも無くはないってことなんですね。基本的な温度と雑菌の繁殖の関係ですが、こんな感じ。
0-8度 増殖しないが死なない
8-15度 徐々に増殖する
15-30度 かなり増殖する
30-38度 激しく増殖する ← ここがピーク
38-40度 かなり増殖する
40-60度 徐々に増殖する
60度以上 5-10分で死滅する
100度 数秒で死滅する
一般的な低温調理で使う温度帯はここのはず。
40-60度 徐々に増殖する
60度以上 5-10分で死滅する
つまり、上にも書いたローストビーフで55度とか58度というのは「雑菌が徐々に増殖する」範囲だということ。じゃぁ、その温度で何時間も調理したら雑菌の運動会になるじゃないかと思いますよね。私もそう思います。ですから素材の扱いは気をつけないとならないのは当然で、雑菌とは表面に付いていて内部には居ないのが普通ですから、表面だけの殺菌をまず考える必要があると思います。
ですから私の場合は、55度を維持するにしても、まずは必ず沸騰したお湯につけます。せいぜい数十秒ですが、これで表面の雑菌は死滅するはず。そしてその後その素材を扱う時には不用意に手で触ったり、まな板の上に乗せたり、あるいは包丁で切るということはできるだけしないようにしています。
では内部に菌が入っていた場合は?となりますが、それに関しては私の場合は「神様頼り」にしています。(笑)
でもこの辺は冗談じゃなくて、自分や家族で食べる場合にはまぁ、良いにしても、お客様にだすとか、商売の場合はちゃんとした管理が必要でしょうし、素材の素性と言いますか入手経路だって関係しますよね。ですから神経質になる必要はないと思うものの、簡単に考えるのもまずいと思います。低温調理を始めると、あれもこれもやってみたくなりますし、安全をわすれているといつかある日ある時、痛い目にあうかもしれませんよね。まして年寄り、子供がいたらまじめに考えないと大変なことになります。
でもま、我々はスーパーで買ってきたような刺し身を食べますし、それを冷蔵庫に入れたまま次の日にも食べるわけですし、牛のタタキも食べますし、私のようにレアで真っ赤っ赤な肉も食べれば、スーパーで買ってきた肉でユッケも食べますし、神経質になり過ぎる必要はなさそうです。
また卵関係ですが、オーストラリアでも生卵は敬遠するという人がいます。マレーシアは尚さらで、多くの方が生卵が気になっているはず。でもそういう場合は、低温調理した卵をつかうという手もあるんですね。私が温泉卵を作っている時に失敗しまして、こんな温泉卵になりました。
これは74度で15分です。つまり、上の雑菌の表で言えば、全く問題がない温度と時間。65以上で10分以上加熱したら殺菌は十分なんですね。で、その温度なら生卵に近い状態ですし、上の写真のように黄身は濃厚になりますから、普通の生卵より美味しいかもしれない。私は子供の時から卵かけごはんが好きなんですが(笑)、最近は温泉卵かけごはんばかりです。それは安全云々じゃなくて、その方が美味しいから。ちなみに57度で2時間で殺菌は可能で、黄身も白身も変化なしということらしいです。マレーシアでも殺菌済みの生卵が売っていますが、この手のもののはず。
こんな感じで今の時点で私に分かることを羅列してみましたが、一番最初に書いたように日々発見ですし、かつては誤解していたことに気がついたりなんてしょっちゅうです。ですから、上に書いたことも厳密に言えば信憑性は???かもしれません。(笑)
またなぜ低温調理に興味をもったかですが、理由は簡単で、美味しいものを食べたいからです。でも低温調理が全てではないのは当たり前で、私が未だにわけわからずに悩んでいることがあります。それは低温調理の対極にある、高温度での調理です。例えば圧力鍋(これも私の必需品)を使った料理がその代表と言えると思いますが、一般的な圧力鍋では内部の温度が120度になると言われています。
この温度ってタンパク質が固くなるとか、水分を出し始めるとか、そんな温度より50度も高いんですね。ではどうして柔らかくなるのか。
その理由も簡単で、タンパク質はコラーゲンによって繋がれていて、そのコラーゲンはある温度を超えると溶けて出るんですね。するとタンパク質の結束が弱くなって肉はフニャフニャになるわけです。ただし、そうなる前に、順序として肉は固くなり、水分も出してしまうのですが、その後、柔らかくなり、そしてまた水分を吸収するんですね。これが煮込むという働きなのですが、同じ柔らかいでも、低温調理の柔らかさと、高温調理の柔らかさとは全く別の柔らかさ。
さて、これらをどう使い分けるのか、その辺が私にはさっぱりわかりません。例えばチャーシュー(煮豚の意味)はどちらの調理方法が美味しいのでしょうか。もし角煮であるのなら高温調理のほうが良い?
なぜ?
その答えが自分でわからない限り、料理のことなんか何もわかっていないってことなんですよね。角煮の場合は、脂を落とすこと、そしてコラーゲンを溶かすこと、それが必要なのはわかりますが、でもタンパク質そのものは固くなっているのは間違いがないんですね。だから長時間煮たのにパサパサになったなんてことが起きます。ではどうするのか?脂が溶ける温度はさほど高くありませんが、高ければ高いほど良く脂は落ちる。でもそうするとタンパク質は固くなる。またコラーゲンが抜けきってしまうことも起きる。じゃぁ、何度でどのくらい熱するのが良いのか?それも煮るのか、蒸すのか、その違いはなんなのか、わからないことばかりです。
いろいろ試してうまくできたら、理屈はわからなくてもそれで良いのだという考え方もありますが、角煮に関しては本当に悩み続けておりまして、前と同じにやったはずなのに出来上がりが違うなんてことが簡単に起きます。でもま、それに関しては「素材の違い」であろうということがわかりましたが、定かでもない。どんなバラ肉でも柔らかくできる調理法が世の中に存在するのかどうか、そんなこともわかりません。
食べること、調理することって人間の営みの原点なのにわからないことばかり。本当に不思議で面白いと思います。
しかしまぁ、いくら長文書きの私でも今日はいささか疲れました。ここまで読んだ人は居ないかもしれませんが(読んだ方は「読んだよ」ってことだけでもコメントしてくれると嬉しいです)、どうもご苦労様でした。お付き合い有難うございます。 (笑)
(後記)スロークッカーは「低温調理には」まるで使えないというのが2014年9月になってやっとわかりました。誤解があったようです。くわしいことはここを参照(クリック)
(後記)
スロークッカーはゆっくり調理するか、早く調理するかの違いであって、温度は関係ない。でも私はこれに気がつくまでに何度も何度も失敗しました。低温調理のはずなのに火が通りすぎていたり。温度計で計ってみればすぐわかることですが、私はスロークッカーのLowとは「温度が低い」、Highは「温度が高い」と信じ込んでいました。でも実際は「Slow」と「Fast」なんですね。この勘違いをする人は全世界にいるようで(笑)、アメリカの掲示板でも「Lowは何度?」なんて聞いているケースがあり、「多分XX度ぐらいじゃない?」なんて答えが付いていたり。
スロークッカーはいつか必ず沸騰点近くまで温度が上がりますから、低温調理には全く使えません。でも煮込みをやらせたらこれにかなうものはないはず。
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読者の方から「ヨーグルトメーカーで低温調理をする実験」を紹介して頂きました。有難うございます。それを見て「大事なことがある」のを思い出しましたのでここに書き足しておきます。
「芯温を計ってみる」こと。これです。
設定した温度と、芯温がそれに達する時間がわからないと「調理不足」になることが多発します。低温調理の良さは「火が入り過ぎない」ところに良さがあると思っていますが、「火が入っていない」のではお話になりません。時間が長い分には「ホールドしたのと同じでより美味しくなる」ケースがあるわけですから、まずは「芯温が設定した温度に達しているのかいないのか」ここのチェックが重要ですね。
炊飯器の「保温」を使った低温調理が難しいのもここで、ローストビーフだとすれば56~58度の範囲で仕上げるのがベストだと私は考えていますが、時間が短ければその温度に達しない。また長すぎれば70度前後という「かなり高い温度」になってしまうわけで、そこは時間で調節するしかなくなるんですね。つまり「オーブン」を使うのと同じ難しさがあるということ。
ネットには「炊飯器の保温で作ったら激ウマだった」みたいな記事が多いですが、これは「たまたま」うまく行っただけだというのがわかるようにならないと先には進めないんじゃないでしょうか。多分、炊飯器を使った場合、火の入れ方が足りない、あるいは火が入り過ぎを経験するはずで、それを「料理とはそんなもんだ」と思ったら駄目なんですね。
「誰でもいつでも【最適なもの】【同じものを作れる】という低温調理の利点」を炊飯器では活かすことができないということ。
温度調節が出来るヨーグルトメーカーの場合ですが、「ワット数」が高くないはずですから、水と冷たい素材で目いっぱいにしたヨーグルトメーカーには「肉料理」は重荷であろうという発想が必要だと思います。ですからその場合も「設定温度」「時間」「芯温」に注意しないと遊んでいるのと同じになっちゃいます。
水量と素材量との関係もありますが、最初に「100度近いお湯を使う」のもローストビーフやローストポークには効果的ですね。でも鶏の場合はそれはやらないほうが良いのも実験をしているうちにわかるようになるはず。鶏の場合は80度ぐらいが良いと思っていますが、水量が多い場合には「当然、火が入りすぎる」ことも考えないとなりませんね。
--------(後記)----------
低温調理で非常に重要なことを今までちゃんと書いていないことに気が付きました。そしてそれは誰しも陥る落とし穴であるはず。
それに関して書きましたので、興味がある方は読んでみてください。非常に大事なポイントです。「調理時間」に関して書きました。
低温調理機の温度計の誤差も非常に重要なポイントです。1-2度違うのは普通と思って間違いがなさそうですし。それに関して書いたのはこのページ(クリック)。