肉類のスープとしては、私は鶏のスープが一番好きなんですが、それはそのスープそのものを美味しく食べる(飲む)というより、スープストックとして利用するのがほとんど。
ところがですねぇ、何度か書いていますが、LOT10にある「博多 とり田」の「鶏の白湯スープ」を飲んで考え方がまるで変わりました。
スープそのものが美味しいのね。
今まで鶏すきとか鶏鍋をお店で食べでも、スープがこんなに美味しいと思ったことはありませんでした。家で作っても同じで、我が家は鶏肉と言えば「骨付きドラムスティック」が一番好きで買ってくるので、どうしたって骨が出るんですね。それはそのまま捨ててしまうこともありますが、肉を削いだ後の骨でスープを作るのは昔からやっていたこと。
ところがあの「とり田」のスープみたいに濃厚な白湯スープまでにはしないんですね。
いや、白湯スープは作るのですが、あそこまで「濃くて」「美味しい」スープを家で作ったことがない。というか、まさか6時間以上も掛けてあそこまで濃厚なスープを作るなんて考えたこともありませんでした。
じゃぁ作ってみようって思ったわけですが、簡単そうで簡単ではないのね。でも簡単。(笑)
白濁しているってことは「乳化」しているわけですから、ボコボコ煮ても良いはずで、澄ましスープの「鶏のコンソメ」みたいに難しいことはない。
長時間煮込むのも面倒ですから、どうしても「圧力鍋」を使おうと私は考えてしまうんですわ。でもそれでなんどやっても「美味しくて」「濃厚で」「綺麗な白湯」にはならないのね。何が出来るかというと「ちょっと臭みがある」「汚い色」のスープ。
例えばこんな感じ。見た目も悪いし、鶏臭いんですよ。
こんなのを何度か作って悪戦苦闘したのですが、それでもやっている内にわかってきたことがあります。
○ 鶏ガラの掃除は綺麗にする
○ 一度、煮こぼす
○ 圧力鍋を使わない(鍋のフタは開けたまま煮込む)
鶏肉に黄色の脂がついていることがありますが、それを捨ててしまわないと間違いなくその黄色がスープに出るし、一度煮こぼすのもなんだか「美味しい成分が流れてしまう」気がしますが、きっちりやったほうが良い結果が出るのがわかりました。
1 流水で鶏ガラをきれいに洗い、内臓や血が着いていたらそれも落とす
2 沸騰したお湯に鶏ガラを入れ、再び沸騰してから5分はそのまま茹でる
3 茹で汁は当然捨てて、鶏ガラを再び流水で綺麗に洗う。余分な脂は捨てる
まずこの素材としての鶏ガラをきちんと綺麗にしないと駄目なのがなんとなくわかってきました。
そして絶対に駄目なのが「圧力鍋」なんですね。あるいは言葉を変えれば
◎ 鍋に蓋をしてはいけない
これが一番重要なことだと今は思っています。圧力鍋も当然、蓋はしまっている状態だから駄目なんですね。
どうして蓋をしてはならないのかというと、蓋を開けているとどんどん水分が蒸発しますよね。その蒸発する水分と共に「臭みが飛ぶ」ということが起きている。だから蓋を締めたままだとその臭みは籠もったままとなる。またボコボコではないにしろグツグツ煮ますから、中で大きな「対流」が起きているんですね。それは撹拌しているのと同じことで、水分と油分が結合して白濁する(乳化=エマルジョン)。だからもし白濁しない透明のスープを作るとすれば、ポコ・・・ポコ・・・・ぐらいの沸騰していない状態を維持して「かき回さない」のが重要ですし、乳化剤でもある「ゼラチン質」は少なめの方が良いのかもしれません。
臭みの成分っていろいろあるわけですが、「揮発性の高い匂いの成分」は水蒸気とともに飛びやすいんですね。だから蓋をしないほうが良い。
また臭み消しで「日本酒」を使うことが多いですが、これも「アルコールの揮発性」が「臭みも一緒に飛ばす」作用を使うのだそうです。これは「物理的消臭方法」に分類されていて「アルコールによる【共沸】」とよぶんだそう。
この匂いとか臭みとか科学的に勉強すると結構面白くて、私達が「臭み消し」としていろいろ使うものの多くは「匂いを消しているのではない」のね。ただ「臭みをごまかす働き」がある。ハーブ類がまさにそれ。(お酒やワインの味、匂い成分も同じ)
ただ化学的に消える臭みもあって、「アルカリ系匂い物質(魚や鶏肉)」の場合は「酸」が有効でお酢を使うのはそれが理由。また「玉ねぎの成分」が「含硫化合物の臭み(レトルト臭や卵の匂い)を消しますし、脂質が酸化した「酸化臭」にはクエン酸が有効だったり。また匂い物質を「固形分に吸着させる方法」もあって、味噌漬けはそれに分類されるとのこと。
鶏ガラスープを作る時の「臭みの原因」がなにかというのは私にははっきりわかりませんが、とにかく「蓋をしないで水蒸気を飛ばす」ことをすればよいのは間違いがない。
では他の匂いを・・と思いますが、このスープにいろいろ入れると「鶏の白湯スープの良さ」がなくなるような気がします。
というのはLOT10のとり田で食べたときもそうですし、家で同じ様な鶏すきをやっても、「何も手を加えていない鶏ガラスープを塩コショウだけで味付けしたものが一番美味しい」と私は思うんです。これに野菜やキノコをちょっと入れただけで「全く違うものになる」と思うくらい。「あの鳥スープの美味しさはどこに行ったんだ~~~~~」なんてね。(笑)
だからもし鳥スープが臭いとしても、何かを投入してその匂いを消したのでは、もうその時点で「失敗」だと思うんです。
だからスープを取る時に「野菜の切れ端」とか「ネギの余った部分」とか入れますよね。あるいは「ショウガ」「玉ねぎ」を入れたり。
でもそれでは鶏ガラスープの本来の美味しさを壊してしまうと私は思っていて、だから掃除をしっかりして、茹でこぼしもして、そして蓋をあけっぱなしで煮込む。
でもそれだけで十分に美味しく、臭みのないものが出来ると思うんです。このレベルはいつでも簡単に、誰にでも作れるはず。
湧いてくる「アク」は綺麗にとって、あとはグツグツと延々煮続けるだけ。当然、お湯の量が減ってきますから、お湯を足す。そして4,5時間もすると鶏ガラはバラバラの小さなカスとなりますが、それでもまだ煮続けます。6時間を過ぎると「白湯スープらしく」なると思います。私は大体このへんで止めますが、8時間、9時間と煮続けるお店、料理人もいるようです。
これはきっと「何を素材に使うか」でも違うんじゃないですかね。LOT10のとり田では「鶏を丸々一羽使う」とスタッフが言っていましたが、きっともう卵を産まなくなった雌鶏を使うんじゃないですかね。身は固くて美味しくないのだろうけれど、「スープ取り」には良いはず。この手の鶏はスーパーではみたことがありませんが、NSKでは「姥鶏」というのを売っていまして、きっとそれが「卵を産まなくなった雌鶏」だろうと思います。
我が家で作る場合には、いくら美味しくなるにしても「コスパ無視」ってわけにもいきませんから、「丸々一羽」を使ったことはありません。最終的にどのくらいの量が必要かによって違いますが、我が家の場合は最終的に2リットルぐらいの「白湯スープ」を作る場合は以下の量を使います。鍋そのものは6リッターか8リッターの寸胴。
○ 鶏ガラ 2羽分
○ 手羽 1パック(7,8本)
○ モミジ(鳥の足) 1パック(10本くらい)
で良いと思っています。これ以外に、「鶏の首」とか「足首の関節」を売っていることがありますが、あれも良いと思います。手羽やモミジは「ゼラチン質が豊富」ですので、ちょっとネットリしたいい感じに仕上がります。
透明な「清湯スープ」にする場合には、撹拌すると乳化してしまうので絶対に沸騰させない。そして乳化剤であるゼラチン質(手羽やモミジ)は減らしたほうが良いはず。
あと大事なのは、「どの程度の濃さにするか」だと思います。
煮込んでいくとどんどん蒸発しますからお湯を足しますが、さて最終的にはどの程度の濃さが良いのか。
これこそ人それぞの好みがあるはずで、どれがベストってことはないと思いますが、私はまずはLOT10のとり田のスープを基準にしました。かなり濃いと思います。
ただし、「保存用」に作る場合にはもっと濃くします。できるだけコンパクトにしたいから。
スープの最後では「細かくなった肉や骨」を全て捨てて(搾る)、必要があればまだ煮込んで水分を飛ばします。
これの粗熱が取れたらタッパに入れて冷蔵庫。このスープが冷えますと「かなり硬いゼラチンの塊」になりますが、それはすぐに冷凍庫へ移動。
これは後の「鶏鍋」に使ってもいいし、鳥料理の何に流用しても良いし、「鶏の(和風)お粥」が絶品だと思います。ラーメンのスープにも最適。(いつかこれで担々麺を作ってみたい。とり田の担々麺は絶品ですから。)
中華レストランの「鶏粥」も良いですが、中華の粥って米が溶けるほどのお粥。でもそこまで火を入れずに「お米が残っている状態の日本風お粥(おじや)」も絶品だと思います。鶏肉を入れますがサッと火が通ればそれでOKですし、それに美味しいお塩と胡椒。そして刻んだネギがあれば十分。
LOT10の「博多 とり田」のスープは美味しいですが、あれとほぼ同じようなものが自宅でいつでも食べられる、使える喜びって結構大きいものがあります。
プロが作る美味しい鳥スープを自宅で作るなんて無理だとヨメさんは私を笑っていましたが(だから食べたくなったらとり田へ行けば良いと)、もうその嘲笑はなくなりました。(笑)
ポイントを押さえれば誰にでも出来るし、そんなに難しいものじゃないと思います。ただし、ここからもうちょっと上を目指すとなるととんでもなく難しくなるんじゃないですかね。素材の鶏ガラ、鶏肉も吟味しないとならないでしょうし、もしかしたら「水」にも違いがあるのかもしれない(軟水が良いとか)。
素材の鶏、鶏ガラだけで煮込む。ここが一つのポイントだと思います。ほんのちょっとネギや白菜を入れただけで一瞬にして味が変わりますから。昆布を入れるレシピもあるようですが、まずは「余計なもの入れない」状態で美味しいスープをどう作るかが重要だと思っています。