前の日記に書いた「牛脂注入肉」ですが、それはオーストラリア産の【Meltique Beef】という肉。
「牛脂注入肉」はこの様な技術で作られる。(57秒間の動画)
その日記に読者の方からコメントを頂きました。
マレーシアにも当地の日系企業が「PREMOUS Beef」という名前(商標?)で牛脂注入肉が小売り販売されていますね。
この間オープンしたドン・キホーテで販売されていますよ。
パッケージに製造販売者の名前が書いてあるので公にしても問題ないのでしょうから、DOKAという当地の卸業者です。
身近なところでいうとPublikaでお酒やお米を小売りしているお店や、KLCCの近くで中華料理と焼肉レストランを営んでいるお店を有している会社と言えばわかりやすいでしょうか。
ただ、売っているというドキホーテで「牛脂注入肉」だとちゃんと表示しているのかどうかはわかりません。
検索してみたところ、Dokaのホームページに「PREMOUS Beef」が出ていました。
Doka offer beer products. Original brand Premous beef, Juicy…
ここには「special Japanese manufacturing method」を使った牛肉としか書いていません。上に紹介した動画で、こういう肉だって紹介すればわかりやすいのに。
オーストラリアの【Meltique Beef】は日本の「株式会社ホクビー」がオーストラリアで生産していますが、この会社のホームページを見ますと「2017年4月 マレーシアにて合弁会社「Hokubee Saudee(M)Sdn.Bhd」を設立とあります。合弁会社ということですが、その相手がDOKAかもしれないですね。あるいはDOKAは牛脂注入肉の将来性を読んでホクビーの対抗馬としてやりは始めたのか。詳しく調べてみようと思ったのですが、そういう会社情報がわかるサイトでは「情報が有料」だったので、そこまで調べることもないかとやめました。
Premous – Premium Delicious Beefというフェイスブックがあります。写真がいろいろありますが、「ナマの状態」だと「変な牛肉だなぁ」というのは誰でも思うはずですが、【焼いて出されたら全くわからない】はず。(ここ)
また、日本で有名なステーキチェーンでもその手の肉だったのがわかったというコメントも頂戴しました。
間違えないで頂きたいのは、そういう肉を私は否定しているわけじゃないんですよ。
世の中にハムやソーセージが存在しているのと同じで、その肉も「加工品の一つ」でしかなくて全く問題はない。
ただ、一般的には見た目は加工品に見えないわけで、それを販売者が表示しない限り、私達消費者にはわからないのが普通。疑いの目を持って見れば、違うのはわかりますが、牛肉を買うときにそんなことをいちいち考える人はまずいない。
海産物売り場にもしカニのむき身にそっくりな「カニカマ」が売られているとして、それを本物だと思って客が買ったらどうなのかというのと同じ。
実は、マレーシア在住の方のブログで【Meltique Beef】を買ったというのを数度見たことがあるんですよ。その方はその肉が「牛脂注入をしてある加工品だ」と知っていて買ったのかどうかはわからない。少なくとも今の時点では、その肉が「牛脂注入肉」だとはブログには書いてありません。
この手の肉は味付け、水分、歯ごたえも自由自在なわけで、多分、普通の安い肉より美味しいかもしれない。私も食べた経験からそう思いますもの。
そして「かなり安い」ですから、購買心は大いに揺さぶられます。
でも私はその肉が「加工品である」ということを知らないで買ったのね。普通の肉と同じ様に肉売り場に並んでいただけで、製造元なり販売店の「牛脂注入肉。加工品」という表示は一切ありませんでした。
でもそれを知ったときに、騙された感を感じたのです。
そういう肉の場合、日本では「販売業者」には【表示義務】があります。でも飲食店には表示義務が無いので日本ではそれが問題になっています。オーストラリアもマレーシアもそういう「本物と見分けがつかない加工品」が存在しているという前提で公的機関は動いていないはずで、やりたい放題状態かもしれない。
日本の2007年の時点でこういう状態。
(この動画で出てくる「結着剤」の最大手は「味の素」で世界中に輸出している)
今は技術も進化して、本当に見分けがつかないようなものもある。
ハムやソーセージにはいろいろ規制、基準がありますが、「本物そっくりの肉の加工品」にはそれがまだないのでしょう。
「安くて美味しければ、加工品でも良い」と考える方は、この手の肉は安くて美味しいし、積極的に買うのも一つの手。
製造方法はこんな感じのはず。この針がごっそりついている機械は外国製で世界中に輸出されている。
この動画では「鶏の胸肉」にも処理が施されている場面があります。安くてパサパサになりがちな鳥の胸肉が変身する。
そしてこれは「魚の開き」にも使われているとのこと。たまに「なんでこんなに安いんだろう」と思う開きがマレーシアでも売られていますが、この手の開きかもですね。
私も買ったことがありますが、美味しい。(笑)
この技術は技術として素晴らしいとは思うのですが、売り方に問題があると思います。
昔から、先人たちがどうやって美味しい牛や鶏を育てるか、また美味しい魚を捕獲するか努力の積み重ねで今があるのは間違いないと思うのですが、その努力がこの技術によって否定される。競争に勝てない状況が生まれるって、私はなんとも言えない寂しさを感じます。
ちゃんと表示してくれればそれでオッケイで、そういう肉を好んで買おうが、敬遠しようが、それは消費者が決めること。
でも「わからないまま」にして、販売するのは私は詐欺と同じだと思う。
でもそれは規制や基準を作らない国の責任でしょう。ところが、それが無いからなんでもありってのは、私は商人としての倫理観の欠如としか言いようがないと思っています。
マレーシアでは「日本の和牛」ではない「日本産ハイブリッド」、「(日本の)国産牛」を和牛と称して売る業者が非常に多いです。まさかと思う、日系企業も同じ。でもそれは「和牛の規定がないマレーシア」だから何でもオッケイなのね。(日本では法律違反で捕まる)
グレーゾーンならやっちゃえという考え方で良いんですかね。
逆にマレーシアのローカル企業で「その手の日本の牛は扱わない」と公言する企業もある。私がWmartが好きなのはそれも理由の一つ。彼らのWagyuは間違いのない和牛ですし(オーストラリア産は別)、紛らわしいものは扱わないというポリシーに惚れました。(笑)
いつまでそのこだわりが続くかはわかりませんが・・・。
一般的に何が起きているのかはこの動画が良いかも。
この手の肉って、私達消費者より「レストラン」が飛びつくんじゃないですかね。「安くて美味しいステーキを食べさせる店」で有名になるのはほぼ間違いないですから。
牛脂注入肉なるもののレストランでの表示義務がマレーシアにあるかないかは知りませんが(日本には無い。でも肉の販売店は表示義務がある)、日本の多くのレストランと同じ様にごまかして売るのは簡単でしょう。
またそれを表示するにしても牛脂注入とは何かを細かく説明する必要もないだろうし、DOKAのホームページにあるように「日本の企業が開発した特殊な技術」によってジューシーで美味しい牛肉に出来たといえば、それに拍手喝采する消費者も多いかもね。
この辺の考え方はいろいろだと思うけれど、私はこの件でDOKA、そしてDOKAの傘下にある「19代目鈴木商店」や中華の「鈴木飯店」、焼き肉の「ザ・和牛レストラン」に関するイメージが大きく変わりました。日系企業だから応援したいという気持ちは完全に霧散しました。
焼き肉では本物の和牛を使っているんでしょうし、表向きは「良いお店」のイメージをどの店も持っていますが、表に出てこない卸の世界ではグレーマーケットの拡大で巨利を狙っている、と私は考えてします。
それが企業ってものかもしれませんが、私みたいに古いタイプの人間はこういうことを受け入れるのは簡単ではありません。
DOKAとしてはレストランがどういう売り方をするのかまではコントロールできないし、する必要もないし、きっと大きな市場になるんだろうと思います。
安くて美味しい牛肉を食べたい人には朗報ってことになるんでしょうが、私は「より良いものを生産しようと努力する畜産農家」に感動を覚えるタイプで、そういう生産者の思いも一緒に食べるから満足があるんだろうと思ってます。
ご飯を食べるときに「残さない」「お米一粒も残さない」、「その食材、生産者に感謝をする」という日本の文化を私は大事にして生きていますが、こういう技術ってそういう文化、生産者の思いを根底から壊してしまう技術だと思う。
とかなんとか偉そうなことを書いている私ですが、この技術のもとはフランス料理の(piqué ピケ)でもあるし、本物志向の自家製ハムを作る個人でも「ブライン液やソミュール液に漬け込む」のではなくて、「注射針で打ち込む」ことをする人もいないわけじゃないのが今の時代。
私も持ってます。(笑)
だから問題は技術そのものじゃなくて、説明責任なんでしょうね。買う方、食べる方は聞かなければ全くわからないのだから。
でもま、遠くない将来、研究開発も進んでいる「合成肉」や「培養肉」がどんどん世の中に出てきて、「美味しいね~~」と何も知らずに食べる消費者も増えるのかもしれない。今、私達がハムやソーセージに「どんな肉」「どんな薬品」が使われているのか考えずに食べるのと同じ。気にするのは「値段」だけという弱点をうまく利用される。
今回の日記では「食の安全性」という視点では何も書いていませんが、ここも重要だと思います。
でもここはマレーシア。食の安全性が気になったら食べられないものばかりかもね~~~。
「生卵で食べられる卵」も同じだと私は思っていて、「生産者の一方的な主張」を聞いて安心して信じてしまう、我らが日本人。日本ならまだしも海外でそれで大丈夫なんですかね~~。