マレーシアが突然「海外所得を送金したら課税する」と言い出したのが2021年10月。そしてそれは2022年1月1日からスタート。最初の6ヶ月は暫定税率として3%の課税とのこと。
なんでこんなことになったのかですが、説明では「マレーシアがEUでグレーリストに載せられた」からと。ではそのグレーリストとは?それは「租税回避に使われる国」ということ。
ま、租税回避に使われる国と言えば「タックスヘイブン」なわけですが、確かにマレーシアの「海外所得には課税しない」という部分だけを取り上げればタックスヘイブンなのは間違いがない。ただし、その非課税という特典は「マレーシアの(税法上の)居住者」に与えられているもので、外国の居住者は関係ないでしょう。「マレーシアに資金を移し、それを運用する」にしてもその非居住者は「居住する国で課税される」わけだから、マレーシアが租税回避に使われる国と一方的に言われる筋合いは無いんじゃないかと私は考えていました。
ただし、「マレーシア国内に銀行口座を持ち、定期預金なり金融商品に投資して利益が出た場合」も非課税なわけですよね。
これはこれで「海外の富裕層に利用されてきた」のは間違いがないのでしょう。だからまずマレーシアは「居住者しか銀行口座を開けない」ようにした。つまり、海外の居住者が大きな資金をマレーシアに送り込んで、自分の銀行・証券会社の口座を使うことを遮断した。これっていつから始まりましたっけ。2017年頃からでした?いやいや、もっと前だったような気もします。
私がマレーシアに住もうと思ったのは2008年で、MM2Hビザの申請をしたのは2009年。その時点では「マレーシアの非居住者」でしたが、【簡単に銀行口座を開くことが出来た】と記憶しています。つまり当時は「マレーシアに住む気が全く無くても銀行口座を開けた」。そして「その口座を利用した利子所得や金融商品から生まれるキャピタルゲインも非課税」だったはずで、つまりグランドケイマンやマン島と同じ「正真正銘のタックスヘイブンであった」と言えると思います。(でもマレーシアの非居住者は海外の居住者であり、居住国では課税されるのが普通で居住国で申告納税しなければ脱税)
これはやり玉に挙がるのは当然ですよね。世界はタックスヘイブン封じ込めに動いてきたわけで、その矛先は当然、マレーシアに向かう。(でもアメリカも同様で非居住者は非課税)
その対策として、マレーシアは「非居住者は銀行口座を開けない」ようにしたんじゃないですかね(証券口座も)。
でもマレーシアの居住者は「定期金利や金融商品のキャピタルゲインは非課税」なのは変わらず、今も同じ。
つまり、海外の定期の利子所得や金融商品のキャピタルゲインが多い富裕層は「マレーシアの税法上の居住者となる」ことによってその恩恵を受けることが出来る。世界的には「税法上の居住者となる」のは長期滞在ビザ(永住権含む)が必要だけれど、マレーシアには「MM2Hビザ」という簡単に手に入れることができるビザがあった。
そういう意味では、完全なタックスヘイブンではないものの、「マレーシアを利用して租税回避をするのは簡単」だったのは間違いがないと思うんですよ。香港やシンガポールも似たようなものですが、長期滞在する許可を得るのは簡単ではないし。でもそれも新MM2Hビザで取得は簡単ではなくなった。
ところがですね、ここからが重要なポイントですが、【マレーシアに会社を設立すれば、その会社はマレーシアの税法上の居住者となる】わけで、【会社の設立は簡単】じゃないですか。そしてその会社は二種類の非課税のメリットを享受することが出来る。一つは「定期預金金利や金融商品からのキャピタルゲインは非課税」であり、一つは「海外所得は非課税」というメリット。
これはグランドケイマンや他のタックスヘイブンも同じで、普通はそこに「会社を設立する」んですね。そしてあらゆる所得が非課税であるというメリットを享受する。
これが日本でも大問題になったのが1980年代。新聞の一面に大きく報道されました。「多くの日本企業がタックスヘイブンを利用して、日本に税金を収めていない」と。銀行関係のほぼすべて、多くの企業がそうしていると。私はこの時始めて「タックスヘイブンの存在」を知り、興味を持って調べだしたことは前にも描いた通り。
でも日本政府はすぐにそれの対処に動いた。海外の子会社の利益は親会社と合算しなければならないと。これは当時、タックスヘイブン対策税制と呼ばれたはず。でもこれはこれで逃げ道があって、「子会社と認定されないようにすれば良い」ということでもあった。
どの国でも「海外を利用して、本国には納税しない」ことが簡単にできるのであれば、国の根幹である「税」の仕組みが崩壊しますから、対策をしてきたんですね。
ところが資金を受け入れる側に変化が起きないといくらでも抜け道が出来てしまうわけで、タックスヘイブンそのものに圧力をかけるようになった。これってその国や地域にしてみれば「内政干渉」になるわけですが、世界の大国のその意志を無視すると生きていけないようになってきた。例えばその国の銀行は他国で営業できないようにしたり。
でも「個人」から見ると抜け穴はあるわけです。「その国へ移住してしまえば良い」ということ。A国の居住者(A国の納税義務者)が他国のタックスヘイブンを利用しようとするからA国は困るわけだけど、A国の非居住者であればそもそも納税義務がないわけですから関係ない。
つまり、日本の居住者がタックスヘイブンに資金を送り込み、そこでの運用益(非課税)は日本で申告・納税しなければならないのに(世界所得が課税対象)、黙っているから問題になるわけで、日本から外国へ移住した場合は、日本の非居住になるのだから日本で申告・納税する義務はないし、日本の当局は何も出来ない。当たり前ですよね。(日本を源泉とする所得は課税されるのが原則)
ところが、これって税法の根源である「属地主義」というのがあるからなんですね。つまり「何人たりとも、その地に住めば納税義務が生じ、非居住者に納税義務はない(所得の源泉がその国にある場合は別)」という考え方。その地に住んでいる限り、海外のタックスヘイブンを利用しても納税義務はある。ところが、「その地を離れてしまえば納税義務はない」。それは当たり前のこと。
ところがそれが当たり前ではない国々もある。それがアメリカでありフィリピンですが、彼らの税法の根源は「属人主義」。これは日本のような「属地主義」ではなくて、その人そのものに本国への納税義務があるという考え方。だからアメリカに住もうが、日本に住もうが、南極に住もうが、アメリカ人、フィリピン人は、母国に納税義務がある。だから彼らは海外のタックスヘイブンを利用しようと思っても出来ない。自国への納税義務はどこに住んでもある。これは永住権保持者も同じのはずで、私の姉がハワイ・サンディエゴに長く住んでいましたが、アメリカを離れてマレーシアに移ることを決めた時に、アメリカの永住権は放棄しました。
この辺の話ってややこしくて、「定期預金金利や金融商品のキャピタルゲインには課税されない」というのも、マレーシアの場合は「居住者でも課税されない」わけですが、「非居住者には課税しない」国っていろいろあるんですね。アメリカも同様(アメリカの居住者は課税される)。
ですから、「定期預金金利や金融商品のキャピタルゲインには課税されない」ことは意外に問題にはなっていなくて、「海外所得には課税しない」ところが世界としては問題なんだろうと思います。だからマレーシアは「それをマレーシアに送金した場合は課税」という妥協案を示したのだと私は思うし、そこが本来、注目すべき点のはず。
さて、属地主義の日本人、属人主義のアメリカ人だろうが、「海外に会社を作るのは簡単」じゃないですか。そしてその会社は「その国の納税義務者となる」わけで、その国の税法に従うことになる。
マレーシアも同じ。
マレーシアに会社を作れば、その会社はマレーシアの税法に従う。でも「定期預金金利や金融商品のキャピタルゲインは非課税」であり、「海外所得も非課税」。
私達は自分の立場から物事を見てしまいますが、マレーシアがEUでグレーリストに入れられたというのはまさにこの「会社の例」、それも「海外所得も非課税」というところじゃないんですかね。
彼らが問題視したのは、私達居住者のことじゃなくて、「マレーシアに会社を作れば利用価値がある」という点だろうと。
海外で利益を出している企業が、マレーシアに本社を移したらどうなるのか。ここじゃないんですかね。ポイントは。
日本でもかつて「ヤオハン」というスーパーが本社を香港に移しましたが、それは「今後中国での展開を見据えて」ということではあったものの、本社を香港に移転するだけで、莫大な金額の「節税が可能」と言われていたのを思い出します。またアップルですが、iTunesという音楽配信で巨額の利益を生んでいるのに、本社はアイルランド(でしたっけ?)にあり、アメリカに納税していないと問題になった。
またこれも随分昔の話ですが、日本で「法人税率をアップする」話が出た時に、ホンダの本田宗一郎氏が「それではやっていけない。そうなるなら、ホンダは日本から出るしか無い」と言って大騒ぎになったのを思い出します。
でも今では、世界中が「法人税を安く」するのが普通で、でも15%以下はやめようとG20で決まりましたよね。もし全世界の法人税が低率あるいは同率であるならば、企業は海外移転を考えなくなるかもしれませんから。
しかし「補助金で釣る」なんてこともありますし、「特別な税制を適用する」なんてこともあるんでしょう。例えば「海外所得は非課税」とか。この特典ってとんでもなく素晴らしいことで、世界中を相手にお金儲けをしている企業は、「マレーシアに本社を移せば\(^o^)/」ってことになるんじゃなかろうか。たとえば「三国間貿易」をして、X国から仕入れて直接Y国に売って利益を出すとか。そして「課税所得はマレーシア国内で生じたものだけ」なんてね。
世界を股にかけて利益を出している企業はマレーシアに本社を移せばその利益には課税されないってことで、これって世界から見たら、「自国から企業がマレーシアに移ってしまうかもしれない」から絶対に許せないはずで、プレッシャーを掛けるのは当たり前ですよね。で、EUはマレーシアをグレーリストに載せたということに繋がるんでしょう。
私はこれが【海外所得を送金したら課税】の背景だろうと思っていて、私達のような個人が騒ぐようなことじゃないかもしれない。「法人税が安い国に企業は流れていく」のは簡単に理解できますが、それと「海外所得は非課税」も同じ様に企業には大きなメリットとなる。ここがポイント。
でも法律は法律で、私達のようにマレーシアに住む外国人、そしてマレーシア国民もそれに縛られるわけで、運用はよっぽどうまく考えないと大騒ぎになるんじゃないですかねぇ。もしかしたら「個人の居住者には適用しない」なんてことも【段階的には】ありうるんじゃないかと。
突然発表になった【新MM2Hのハードルが大幅に上がった】のも、この【海外所得を送金したら課税】も根っこは同じみたいな気がしてきます。
今日、こんなことを考えたのはこのニュースがキッカケ。今までの世界の「租税回避とその対策の歴史」も見えてきて面白かったです。
この中にこんな説明がありました。
EU(European Union/欧州連合)は、2017年から租税に非協力的な国・地域をブラックリストやグレーリストとして発表している。また、OECD(経済協力開発機構)は、判定基準を策定し、ひとつでも該当すれば、当該の非加盟国・地域をタックスヘイブンとみなし、有害税制リストに掲載される。
このグレーリストにマレーシアが載せられたってことですね。で、慌てて対策を考えたけれど、それの運用の詳細は全く詰めずに課税することだけ決めてしまったと。
私の考えですが、「課税対象の海外所得」だろうと「課税対象ではない資産の一部、借金、贈与、あるいは商品・サービスの代金」かもわからない【海外からの送金を区別して課税するのは不可能】だと思います。やるとしたら「自己申告」しかないはずで、どうにでも逃げられちゃいますよね。でも「虚偽の申告が発覚したら重罰に処す」ってことなのか。
そもそも「課税されない資産の一部」だとしても「資産とは所得が蓄積されたもの」なわけで、過去5年間に蓄積した所得をまとめて送金したらどうなるんですかね~。あるいは去年の所得を今年送金したら?
ただし、年金のように「国からの送金」「企業からの送金」に関しては【これは所得じゃないですか?】と当局からお尋ねが来るのはどの国も同じ。また「送金パターン」を見て、「所得と判断する」ケースもあるわけで、これはオーストラリアでも体験しました。【定期的な送金】って所得である可能性は高いわけで、それを当局は見ているはず。でも数年に一度の送金となればそのチェックではわからない。
またノマドやフリーランサーが海外から送金を受けたにしても、それは決して所得ではなくて商品やサービスの代金であって、そこから経費を引いたものが所得なわけですが、そんなことをマレーシア当局が調査が出来るとも思えず。経費を差し引いたら利益が出ないなんて商取引はいくらでもあるし、どうするんですかね~。これは「簡易税率で低利率」だとしても大きな問題がありますよね。
年金ですが、定期的に国からマレーシアに送金されていればマレーシア当局の把握は可能でしょうがが、私は年金を受給していないので、受給している父に聞いたところ、年金は日本の銀行口座に振り込まれているので、今回の件は全く関係ないことになる。ではその年金を溜め込んで一年に一度送ったら?あるいは、年金は全て溜め込んで、それとは別の「満期になった定期」のお金を送金したら?それって資産?所得?
ちょっと今、自分が書いたものを読み返しましたが、重要なポイントがはっきりわからない書き方ですねぇ。どうもすいません。
「税金が安い、あるいは無い」というのは個人も企業も万々歳で、そういう国へ移ろうと考える個人、企業は多い。でも世界はそれを止めたい。ところが企業の場合、今、ビジネスの世界には国境がないのも同じで、世界のありとあらゆるところと取引をして利益を出していますよね。だから「海外での利益には課税しない」となると、それは法人税がゼロだというのとほぼ同じ意味になるんじゃないですかね。
となれば、ヘッドクォーターだけマレーシアに移して、そこから世界に司令を出すだけで世界各地で得た利益には課税されないということが起きる。
これって絶対に阻止しないと大変なことになりますよね。だからマレーシアはグレーリストに載せられたんじゃないですかね。
かと言って、「世界所得に課税する」と大きく舵を切ることは難しいわけで、そして企業が世界各地での利益を本社に送らないなんてことはありえないわけで、だから「海外所得を【送金した場合は課税】」と妥協点を狙ったんじゃないですかね。
これとて頭をひねればいろいろ企業側も対策は練れるはずだとは思うけれど、一応、マレーシアとしては「ハードルを上げた」のは間違いがなくて、租税回避に利用できる国という汚名は返上できるのかもしれない。
でもそれの影響を受けるのが我々個人の居住者、国民であって、この余波って半端じゃなく大きいはず。
さてさて、マレーシアはどのへんを落とし所とするのか見ものですね。