パンチェッタもどきや日本伝統の新巻鮭、ボラの子のカラスミの製法を真似ていろいろやっていますが、色々なことがわかってきました。
キーワードは「塩」なわけですが、私は「熟成」そのものに塩が深く関係していると考えていました。でもどうもそうではないらしいことが見えてきました。塩は単なる脇役であって決して主役ではない。でも塩なしには考えられない。
そもそも「熟成」とは、食品が自ら持つ酵素がタンパク質を分解し、旨味成分であるアミノ酸その他を作り出すことであって、その過程に塩そのものが直接関与しているわけではない。というのも実は極端で、塩蔵に依る「旨味」もあるとのこと。でも主役ではなさそう。
ではなぜ塩を使うかですが、それは
○ 熟成に必要な時間を稼ぐこと
○ 雑菌が繁殖できない環境を作ること
この2つに集約できそうです。
つまり、塩を使わずに放置することができれば、熟成は進む。ただ雑菌が繁殖して熟成のつもりが腐敗になってしまうってことでしょう。ですから雑菌が繁殖できないようにしなくてはならず、それには
○ 「自由水」(雑菌が繁殖する水で、食物の中に存在する2つの水の中の一つ。もう一つはタンパク質や炭水化物と結合した結合水)を抜いて雑菌が繁殖する場をなくすこと。
○ そして塩が持つ「浸透圧」で雑菌の水分そのものを抜いてしまい殺す。(ただし塩の成分に雑菌を殺す成分はない)
ということだと思うようになりました。多分、ど真ん中の正解ではないにしろハズレではないはず。
これはどういうことかというと、日本伝統の新巻き鮭は大量の塩を振られて山積みにされるようですが、本来、熟成だけを考えればその量の塩は必要がないということ。またパンチェッタなりハムなりでも、塩が多ければ熟成が進むということでもない。
だから私がやっていた
○ 大量の塩を使う
○ 後に塩抜きをする
これは熟成ではなくて、保存出来る状態に早く持っていくには良いということ以上の意味はなさそうです。
つまり、以前こんなのは塩ジャケじゃないと偉そうに言っていた、鮭に少量の塩を振ってちょっと寝かせる方法も決してまとはずれではなくて、それの旨味が少ないのは塩の分量ではなくて、熟成期間に依るものだということなんでしょう。ですから現代は冷蔵庫があるわけですから、薄塩でも熟成期間を長くすればそれで十分美味しい塩鮭ができるってことなんだろうと思います。でも「塩」と「保存」には深い関係があるわけで、ほんのちょっとの塩で長期間魚を保存できるほど話は簡単ではない。
私は塩と保存の関係はわかっていたにしろ、塩と熟成には直接的な大きな関係がないというところに気が付かず、塩をたくさん使い、1週間程度寝かして、そして塩抜きすれば良いだろうと思っていましたが、それはとんでもない間違いだということ。もっと長く寝かすから美味しくなるのであって、塩を増やせば美味しくなるわけじゃない。
ただ、たった一日二日でも寝かせば熟成の程度は低くても味が変わるのは間違いがなさそう。自由水を若干抜くだけでも旨味は凝縮されるわけですから。
今後私が狙おうと思うのは、食べる時を想定した最低限の塩の量で、問題なく長期保存し熟成させること。
なんてこんなふうに思うようになったかですが、牛肉のエージングには前から興味があって、それに関して調べていたのですが、アメリカで日本のピチットシートに似たものを売っているのを見つけてからです。それは袋状になってるのですが、素材はセロファンでは無いものの、セロファンと同じ半透膜で蒸気を逃がすけれど旨味は逃さない。また外から雑菌も侵入できないというもの。多分ピチットシートと似たような素材を使っているのだろうと思います。
その会社はこれ。 Umai Dry ← クリック
この会社の袋は単に袋になっているだけで、ピチットシートのように浸透圧がある水飴も保水剤も入っていません。ではどうやるかというと、食品をこの袋に入れ、バキュームシーラーで真空パックし、それを冷蔵庫の中に放置するというやり方。これは浸透圧を利用しないわけですが、この袋に入れたものを大量の砂糖を入れた袋に入れれば乾燥はもっと早く進むのかもしれません。つまりその状態がピチットシートですね。
その袋を使ってドライエージングをしたりハムやパンチェッタを作る方法を事細かく紹介した動画がいくつもあるので非常に参考になります。これと同じことはセロファンでも良いし、ピチットシートでも出来るわけですが、「冷蔵庫に放置するだけで良い」という、我々でさえすぐに考えつくものの、それで大丈夫なのか?という疑問をこの会社は払拭してくれました。そして牛のドライエージングがそれで出来るということと、なんと14日から30日くらい冷蔵庫に放置するのにも、一切、塩も砂糖もハーブも添加物も使わないというのには仰天しました。買ってきた肉をそのままこの袋に入れて密封して冷蔵庫に長期放置するんですから。
ただパンチェッタなどは、塩、砂糖、そしてCure salt2(硝酸塩、亜硝酸塩が入った塩)、もろもろの香辛料を食品にまぶし、冷蔵庫で一週間放置。そしてその後、塗ったものを水で流し、また若干の香辛料をまぶして「塩抜きはせずに」そのまま袋に入れて冷蔵庫で長期保存。この辺は我々素人がやるのと同じで、違いは塩抜きをするかどうかという点のみ。この会社は塩抜きをする手法はまるで紹介していませんが、その分、塩が少なめなのがわかります。動画にレシピも出てくるので非常にわかりやすいです。
この会社の手法は、その特殊なフィルムで出来た袋に密封するというところだけに特徴があって、手法そのものは誰にでも考えつくこと。ただ我々にはそれを実行する自信がないんですね。こんなやり方で大丈夫かなぁってどうしても思う。でもこういう会社がこういうやり方を推奨していて、肉加工に関しては1歩も2歩も先を行っている欧米でユーザーを獲得しているということは、そのやり方で大丈夫なんだと私達に自身を与えてくれると思いました。
ただ、生食をするケースが多いので、「手法」だけを真似るのではなくて、どうしてそうするのかという「科学的な根拠」を我々は知る必要があると思います。これは亜硝酸塩の使い方も同じで、2キロの肉に対してティースプーン2杯で良いという覚え方ではまずいと私は思います。亜硝酸塩とは何なのか、何のために使うのか、それを含んだピンクソルトってなんなのか、それのメリット・デメリットもわかった上で、使い方を「理解」するのが大切だと思いました。亜硝酸塩が入っている塩(この会社は遅効性の硝酸塩も入っているCure2を使えという)ですが、亜硝酸塩そのものは青酸カリと同等かそれ以上の毒性があるのも忘れてはならないと思います。
こういうのに慣れていない我々日本人、あるいは添加物はゼロが良い。自然が一番と信じている人はその辺をしっかり理解するか、近寄らないほうが良いと思いました。でも岩塩を使えば良いんだよ、なんてのもその岩塩に亜硝酸塩が含まれているというだけの話で(入っていないかもしれない)、大事なことを直視せず、なんでもかんでも自然が良い、無添加信仰は捨てるべきだと「私は」思います。
サーロイン(牛)をドライエージングする方法。買ってきた肉をそのまま長期間寝かせます。血抜きぐらいしてもよさそうですが・・・。
パンチェッタの作り方。このケースは最初の水分抜き、塩などを洗い流さない一番簡単な方法。こんな方法でも良いんですねぇ。
こういう製品を見ると欲しくて我慢できなくなるんですが、セロファンでも同じことが出来ると自分に言い聞かせています。 (笑)
それとやっぱりこの手の保存食情報は欧米が凄いですね。ごっそりある。そして日本の一部で広がっているやり方、考え方は狭い範囲でしかない。そしてそれを見聞きして自己流でやっている。
最近、私が面白いと思うのは「古代の製法」です。エジプトのパストラミ(Basterma)の作り方って、今でもそれを継承しているみたいですが、冷蔵庫がなかった頃、数千年、あるいはもっと長い間行われていた製法に興味あります。その方法で自分も作るということじゃなくて、それを知ると、保存とは?熟成とは?美味しさとは?という基本的なところの理解が深まるような気がします。
例えばこんなの。何を言っているかわかりませんが(笑)、見ていると何を何のためにやっているのかがわかるので、面白いと思います。いろいろあるんですね~。これは常温で作るパストラミ。エジプトで常温ってどんななんでしょうね。欧米の歴史とは違う肉加工品の進化を知るのも面白いですね。
英語だけれどもっとわかりやすいのはここ。エンベッド出来ませんが、クリックするとユーチューブの動画を見れます。エジプトでは硝酸塩・亜硝酸塩は使わないみたいですね。香辛料ってまさに食料の保存用だったってのが良くわかる製法。
How to make Egyptian Pastrami ← クリック