前の日記に、日本からの送金規制に関してかなり強い口調で書きました。規制は存在しないと。でもああじゃこうじゃ言う人は後をたたないし、5000万円を超える海外資産を持っている人はその明細を届け出なくてはならないという変更に関しても、大変だ~、気をつけろという人がいる。
でもそれが気になるってことは財産を隠したいなんらかの理由がある人だってこと。つまりそれに関して騒ぐ人は、何かしようとしている、あるいはしている確信犯だってことなんですね。
そういう人たちが勝手に騒ぐのは良いですが、それを聞いた普通の人たちは、一体何が起きたのか、大変なことがこれから始まるのかと勘違いするわけで、その辺も考えて頂きたいということです。
日本で預金、あるいは定期にしても20%の源泉が掛かりますし、じゃぁ海外に出せば無税なのかってそんなうまい話はないわけで、でも源泉徴収がないですから申告しなければわからないということなんでしょう。まず日本の20%の源泉徴収ですが、15%が所得税、5%が住民税。
では海外に出して定期にしたらどうなるんだ?ということですが、20%で良いとか、あるいは住民税をのぞいた15%で良いってこともなくて、利子所得として総合課税。
総合課税ってことはその人の所得によって税率も変わるってことなんですね。もし主婦とかフリーター、そして退職者等で、年間所得が65万以下だとすれば、それは所得控除も考えれば、申告義務もないってこと。逆にがっぽり稼いでいる人は、20%どころか30%40%にもなり得るということ。海外に出さないほうが良くなる。
ロングステイヤーの中で情報交換をしている限り、高所得者はあまりいないのでこの辺を簡単に考える方がいらっしゃるのでしょう。また無申告でもバレたら修正申告で済むと考えるのか。
ま、その辺はその人がどう考えようと勝手ですし、現実問題としてたいした額では無いのかもしれない。でもたいした額じゃないんだから申告して納税しておくという考え方もあるわけで、申告する必要なんか無いよ、とロングステイヤーの中で吹聴して回るのは非常にうまくないと思います。
また、退職者、年金を受け取るロングステイヤーだから大した資産もないだろうと考えるのも大きな間違いで、年金生活者の中に混じって、大きな資産をどうにかうまい具合に運用したい、税金も安くする方法はないかと、耳をダンボにしている人も決して少なくないと思います。
こういう方々が、大した額じゃないんだからと簡単に考えていろいろ言いまわる人たちの話を聞いたらうまくないと思うんですよ。そんなアホはいないと思いますが、資産家はみんなその手の話には精通していると思うのも間違いで、意外と考えるレベルは一緒だったりする例はゴールドコーストでもそれなりに見てきました。
また日本の当局もバカじゃないってこと。多国間との二重課税防止条約と呼ばれている租税条約ですが、これは二重課税を防止するだけじゃなくて、租税回避を防止する条約でもあって、情報交換はなされているし、海外資産の課税強化はあっても緩和はありえないんですね。だからやっぱりしっかり正道を歩くことは大事だと思うんです。
じゃぁ、実際に問題になった例があるのかよ、なんて開き直る人に会ったこともあるんですが、これって子供の言い合いに似ていると思います。正気なところ、私も知りませんが、そっち方面の情報は銀行筋から入ってきます。また知人でも税務署からお尋ねの葉書が来てびっくりしたなんて話を聞いたことがあります。でもその後どうなったかなんてのは口が裂けても言いませんから、それを無いことだと思うのは大間違い。
とりあえず、法律に従うのが当たり前として、今までどんな変更があったかというと、やっぱり5年縛りのアレじゃないでしょうか。これは非常に重要な昔と違う変更点で、このブログでも定期的に書くことにしていますが(ここをクリック)、海外に出て日本の非居住者になっても5年以内は贈与・相続の申告義務があるという決まりです。でもその他の所得に関しては今のところ動きは無し。
ただ、アメリカの様に属人主義の税制、つまり、アメリカ人である限り(永住権保持者含む)は世界のどこに居住しようがアメリカに納税義務があるという国もあるんですね。フィリピンもそう。属人主義じゃなくて属地主義、つまり何人だろうがどこに居住しているかという判断で納税義務が決まる我々日本人にしてみるととんでもない税制の国があるということ。
で、日本もそちらの方向へ動く可能性は無くは無い。ただ属人主義や属地主義って税制で言うと憲法みたいなもので、そう簡単に変わることは無いとレクチャーを受けたことがあります。ただ、あの5年縛りにしてもそうですが、根本的な法律を変えることなく、それが施行されるってことは現行法のままで適用範囲を広げるという動きはあるかもしれない。
どんなことが考えられるのでしょうか。これに関して国税庁が出している資料を紹介してもらいました。教えてくれた方、有り難うございます。
国税庁のその資料 ← クリック
ざっと見たところ、ドキッとするような内容は無く(笑)、まぁ、こんなもんだろうと思いました。
あ、そうそう、この資料は何かというと、これからこういう風に変える予定だとかそういうものじゃなくて、税務大学校(そういう学校があるんですねぇ)での研究発表です。
順不同で気がついたことを書きますが、まず、居住者と非居住者の認定方法に関してですが、1年の内、半分以上海外に出ていれば非居住者だという人がヒジョーーーーに多いのですが、日本には183日ルールは存在しないと私はこのブログでいつも書いています。
その証拠がこの資料にもあります。2-(5)を見てください。
(5)非居住者課税における居住性判定の在り方
「米国の市民課税は、米国独特の課税方法であり、我が国の制度としてはなじまないと考える。また、いわゆる183日ルールの導入も考えられるが、単純な日数基準でのみ居住形態を判定することや課税年度終了まで判定が未確定となるなどの問題があり、現行制度の維持がふさわしいと考える。」
「183日ルールの導入も考えられる」ってことは今はそのルールはないということですね。そして「現行制度の維持がふさわしいと考える」ということは183日ルールを導入しないほうが良いと言っているということ。
このブログを読んでいる方は、是非ここで完璧に頭に入れておいて欲しいんですよ。海外に出れば非居住者で、日本に納税義務がないというところを自分勝手に解釈して、1年の内半分以上海外に居住すれば非居住者(183日ルール)だとか、酷いのは毎年1月1日に海外に出ていれば非居住者だなんていう人もいる。これを信じている方って本当に多いですから注意が必要だと思います。覚えてくださいねー、183日ルールは日本に存在しません。
私がいつも気になっているのはその居住者非居住者の判定基準なんです。つまり納税義務があるのかないのかの違いですから海外在住者にとっては一番重要なポイント。
その観点から見ていきますと、こんなのがあります。
「容易に非居住者となることを防止する観点からは、出国しても一定の場合には、引き続き居住者とみなす「無制限な拡大した納税義務」方式があり、すべての実質的なつながりが終了するまでは引き続き居住者とみなす」これは北欧方式とのこと。
また、「タックス・ヘイブンへ出国する場合には引き続き居住者とみなす」スペイン、イタリア方式。ただし、「相手国との双方居住者となり、結局は相手国の居住者と判定される可能性が高いこと及びより深刻な二重課税の問題を惹起することが想定されることから、この方式の導入は適当ではないと考える。」
ここに紹介はしているけれど、導入は適当では無いとのこと。(笑)
アメリカでは国民、永住権保持者は世界中どこに居住しても本国への納税義務があると書きましたが、じゃぁ、国籍を変えよう、永住権は返上しようという人も出てくるんですね。実はこれは私の姉夫婦がこの道を取りました。姉は永住権を返上し、旦那はアメリカ国籍から日本国籍に帰化した。ただそれは税金の為にそうしたということではなくて、旦那は元々日本人(幼稚園のときにハワイに移住)で、彼の信条として最近のアメリカは尊敬するに値せず、アメリカ人であることが恥ずかしいというようなとっても変わった人でした。特にイラク戦争後そう考えるようになったようです。
姉も似たようなもんで、長年アメリカに居住していましたが、もうアメリカに帰る事はないし(生活が非常に厳しい)海外に出ても確かに納税手続きとか面倒なことが多いのでしがらみを切るために永住権を返上。
でもアメリカにしてみると、これを野放しにすれば税収が減るわけですから、「出国税」みたいなものがあるんですね。
「(アメリカは)国籍離脱者・永住権放棄者に対するみなし譲渡益の時価評価課税制度を創設するなどの対応をしている」
では日本ではどう考えられるかですが、そもそも日本という「地」に居住するかしないかで納税義務が変わる国ですから、上記のようなアメリカの方法はまず考えられない。アメリカの法律は「地」ではなくて「人」によって納税義務が決まるわけですから、それの延長線上として上の税法も生まれるわけで、基本そのものが違う日本では考えられないでしょう。
あと変更が考えられるのはこういう方向性でしょうか。
「「出国税」方式は、居住性の変更を課税の機会として、出国直前の居住者に対して出国直前に資産を譲渡したものとみなして時価評価課税を行うものであり、資産一般を対象とするものが「一般出国税(8)」、株式等に限定するものが「制限出国税(9)」である。
なお、一定の資産等が課税管轄権から離脱する場合に課税するもの(10)もある。
一方、「拡大した納税義務」方式は、出国してからも一定期間特別な課税を行うものであるが、引き続き居住者として課税するものが「無制限な拡大した納税義務(11)」方式、課税対象とする国内源泉所得の範囲を拡大して非居住者として課税するものが「限定的な拡大した納税義務(12)」方式である。英国及びニュー・ジーランドは、出国者が5年以内に再入国して居住者となった時点で、国外で実現した所得に対して課税する(13)。」
ただ繰り返し書きますが、こういう方向で動いているということではなくて、あくまで他国ではこうであるという研究発表です。
その他、何度か読み返してみましたが、問題視しなくてはならないようなものは見つかりませんでした。
ただ、ここに書いていないことで、以前から気になっていることがあります。それはやっぱり居住者、非居住者の曖昧に見える判定基準に関してです。
冗談じゃないよって思うんですが、「日本国内に居所があるかないか」って判断基準があるわけですが、居所って何よ?これっていかようにも判断できるんですね。生活の拠点だとしても、では生活の拠点って何よ?って思いませんか?
なぜそう思うかというと、例えばですね。豪華客船の中に住む人が世の中にはいるようですが(コンドミニアムみたいな客船があるのはご存知ですよね?動くコンドミニアム)、そうではないにしろ1年世界を回ったとしましょう。この人は日本の税制上では日本の居住者。
まぁ、それは理解できますが、ではこれは?
高校生の頃にアメリカに留学し、その後、大学を出、医科大学へ進学、日本を離れて12年。さてこの人は?
これも日本の居住者なんですね。なぜなら彼は親に仕送りをしてもらい学生生活を送っているから。つまり収入の拠点は日本にあるから日本の居住者であるということ。
私ね、ここのところの解釈一つで、年金生活者は日本の居住者という論法も成り立つと思うんですよ。いわゆる収入の源泉がどこにあるのかってこと。
例えば、日本に会社を持っていて、給料も配当ももらい、日本には家もあって、でも住んでいるのはマレーシアで、コンドミニアムは賃貸。こういう場合、生活の拠点ってどこか、わけがわからなくなりませんか?確かに身体は海外にあるけれど、収入の源泉も家も日本にある。
これってまさに客船に乗って海外に居ます。学生として海外に居ますというのと大きな違いがあるようには思えないんですよ。
まぁまぁ、この話はやめましょう。切がないし、話す意味もないでしょう。
でも一ついえることは居住者非居住者の判定ですが、我々が普通考えているほど簡単じゃないって事だけは確か。これに関しては何度も書いていますが武富士の息子が2000億円の贈与をもらったことに関する裁判が参考になります。日本の当局は香港在住の息子を日本の居住者と判断した。一審は武富士の勝ち。二審は逆転して当局の勝ち、そして最高裁ではまた逆転して武富士の勝ち。
結果的に武富士が勝ちましたが、二審では負けたということ、そしてそもそも我々の眼で見ると武富士の息子はどう見たって海外在住者なのに当局は日本の居住者として見たと言う事実。ここなんですね、怖いのは。
とにかくこのブログの読者の方々は、言わなきゃわからないさとか、見つからなければOK、見つかったらその時はその時みたいな、コソ泥と同じような発想をしてもらいたくないのです。節税は大いに結構。でも脱税は犯罪。無申告も犯罪。
そういう共通の認識の上に情報交換って成り立つはずで、コソ泥みたいな人とどうやって胸襟を開いて話ができるんです?
まぁ、世の中にはいろんな人が居ますが、これはロングステイヤーでもMM2Herもそうで、お金持ちから貧しい人、また危ない道を歩いてきたような人もいれば石部金吉みたいなひともいるでしょう。だから誰がどんな考えを持とうと、何をしようとそれに対して私は何を言おうとも思わないんですよ。
でも同じテーブルに座って真剣に話をする時に、うまいことやってやろうなんて考え方を持っている人が居たとしたら、私は何も話したくないし、聞きたくも無いし、その場にいるのも嫌になるんですよ。
うまいことごまかしてでも金が欲しいと思う人はそういう仲間と是非情報交換をして頂きたい。
ああ、それとここに書いていることは税務アドバイスでもなんでもないのはご承知ください。税制をしらないで生きることは不可能で、ではどんな税制になっているのかと一緒に学ぶ立場で書いているのはお分かりになると思います。
そして税務アドバイスはどこの国でもそれが認めれた立場の人ではなければやってはいけないことになっています。ですから、税理士でも公認会計士でもない人が、ああしろこうしろと言ってはならないんですね。つまり、関係ない人に聞くほうもおかしな話で、誰それさんがああいっていたとか、あの人は信用できるし、間違いがないだろうとか、そういう判断は絶対にするべきでは無いと思います。
それはこのブログも同じで、ここに書いてあることが全て正しいなんてこともありえない。ですから税制に限らず、是非、ご自分で調べるなり、そして本当に大事なことはケチらないでプロに聞くべきだと思います。私の書いたことは信用できないと思って頂く方が良いくらいです。